落語家とお酒は切っても切れない関係。米朝一門もご多分に漏れません。桂米左師匠もお酒を毎日嗜まれているとか。
今回は桂米朝師匠がお酒の席でどのようなことを話されていたかを、弟子の桂米左師匠につづっていただきました。芸談が多かったそうですが、なかなかすごいものだったそうで。さて、どのようなものでしょう。お楽しみください。
お酒と師匠
タイトルが前回の逆です。と言う事は今回はほぼ続編という事です。ハイ。
最近ちょっと違和感があるのが「ほぼ」ではなく「ほぼほぼ」を多用する傾向があるみたいですが、この「ほぼほぼ」って「ほぼ」最近の言葉で私らは「ほぼほぼ」聞いた事がない。
「ほぼ」そう思います・・・。どうでもええ事で済みませんでした。
お酒の席でも師匠の話の大部分は「芸」の話でした。昔の名人上手の話、落語のポイント、演出の他に能狂言、文楽、歌舞伎とあらゆる芸能に渡ってました。
ある年の事始めの時に忠臣蔵の話をしてくれはりました。忠臣蔵の話なんかと思いますがこれがすごかった。歌舞伎の忠臣蔵をよく観ている者には新しい話が、ほとんど観たことない者にはとても判り易く、実際の元禄事件や浅野家と吉良家の関係等々を約15分で話してくれはりました。一門みんな感心して聞き入り、私なんかは日本の百名講義の一つと勝手に思っております。
この話を聞いた兄弟子の一人は「なぁ〇〇なんか普段偉そうに言うてるけど、こんな事一つもよう言わへん。師匠の今の話を聞けっちゅうねん。」と言うてはりました。そう思います。〇〇が誰かは米左を見つけた時に聞いて下さい。
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師匠に呼ばれて家で飲んでる時はよく『日本の話芸』をみてました。
師匠の『天狗裁き』の時に色々ぼやいてはりました。顔のアップや手元の仕草を撮るという事にとても腹を立ててはりました。
「ここだけをアップにしてどないするねん、何が判るねん。全体を見て初めて意味があるんやないか」
怒ってはりました。そうですその通りです。それだけアップにしても意味がないのです。
テレビ的、映像的にはそれで良いかも知れませんが落語ではダメなんです。落語を撮る時は正面からの画面固定やないとアカンのやと言うてはりました。
師匠のDVDはカメラ1台、正面から画面固定です。
浪曲の時には二人して「なんやこれは!!」と言うことがありました。
広沢瓢右衛門先生の十八番『英国密航』を東京の浪曲の先生が演りはるという事で、師匠に『英国密航』が放送されますよと言うと、「お、見よか」てな具合で飲みながら見ておりまして、さァここからが面白いという時に柝が入って終わり、二人して「なんやこれは!!」と声を上げた次第!
『英国密航』はバラシの道中付、横浜からイギリス、テームズ河岸まで世界の名所を折り込み、軽快な節で、ちょうど時間となりましたで終わる、これが楽しくて面白いんです。まァ、バラシまででも面白いネタなんですが・・・。
師匠が「こんな切り方したらこのネタの面白さが半減する。これは道中付が面白いんや。こいつは何も判っとらん!」とお怒りでした。
それから『英国密航』はどこが面白いから始まり、他のネタにも渡り面白さ、ポイントを教えて頂きました。1対1で、とても贅沢な時間でした。
師匠の家で飲む時は「ほぼほぼ」こんな感じでございました。