落語好きしか知らなかった六代目笑福亭松鶴師匠ですが、ドラマ『どてらい男』出演から、どんどんと知名度が上がっていきます。テレビ出演はもちろんのこと、今度はなんと映画出演のオファーもあったよう。
その様子を側で見つめていた笑福亭鶴光師匠に当時の様子を振り返っていただきました。笑福亭鶴光師匠ご自身の映画との関わりもつづっていただいています。お楽しみください。
映画
松鶴の所へ一本の電話がかかりました。何と映画監督の山田洋次さんから。男はつらいよへの出演依頼だそうで。電話切った後満面の笑顔を浮かべて弟子に
「今有名な山田さんから電話があった」
「師匠山田たかおさんですか」
「ドアホ、何でわしが座布団運びから電話貰うね、山田洋次監督から映画の出演依頼や」
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』、控室は道頓堀の角座です。ヒロインの松坂慶子さんを一目見ようと楽屋は芸人が一杯。あの俳優を見る憧れの表情。
その頃はまだ、お笑い系の芸人と銀幕のスターの間にはあきらかに壁が在りました。今やベルリンの壁と同様崩壊し、斜陽産業となった映画界からテレビへそこで芸人と知り合い交際に発展する。世の中変わりましたな。
確かに昔の映画俳優さんと何人か仕事をしましたが、ほとんどの人が世の中の情勢に疎い人が多かった。単なる役を演じてるに過ぎない。でもそれだからこそ無心で色々な役をこなせたのかも。
わたしはかつて、モーニングジャンボと言うテレビ番組で長谷川一夫さんいお会いしました。真っ白なスーツにピンクのネクタイこれぞ銀幕の大スター。その時のアシスタントが長谷川先生に
「母が大ファンで」と言うと大スターニコリと笑って
「じゃぁ、あなたはファンじゃないのね」切り返しが上手いなぁ。
こんなこともありました。小さん師匠が楽屋で出番の支度してると突然前触れもなく長谷川一夫さんが入って来て
「師匠今日はよろしくお願いします」
小さん師匠「うん・・」とうなずいただけ。部屋を出るとお弟子さんに「師匠は機嫌が悪いのかな」とこぼし少したじろいだ様子。そこで弟子が
「師匠、長谷川先生が師匠の機嫌を損ねたと気にしてましたよ」
小さん師匠弟子に向かって
「固まってしもうたんや」スターの威厳はすごい。
芸人が映画に使ってもらえるのは、ネームバリューが有りレギュラーも沢山持ってれば宣伝効果に成ると言う、関係者の下心が有るのかもしれん。いくら頑張っても一部の人は別として、本職の役者に勝てるわけがない。当然この逆も在りうる。俳優が落語の名人になるのは不可能。やはり餅屋は餅屋でんな。
映画も時代とともに変わってきました。その昔は無声映画で弁士が大活躍。そこから芸人になった方もいらっしゃる。
「あ~やんなっちゃった」で一世風靡した牧伸二さん、この方の師匠の牧野周一さんも人気弁士所謂活弁士だった。モロッコと言うトーキーの映画が日本で公開された時、弁士さんは皆思ったそうです
「もうこれで俺たちの時代は終わった」
ある者は芸人になり、又他の人は紙芝居屋に転職したそうで。そう言うたら有る漫才師の人がテレビの事を電気紙芝居と呼んでました。うまい!
モノクロからカラーに大映ビスタビジョン『赤胴鈴之助』、東映スコープ第一作目『鳳城の花嫁』。
70ミリ映画(普通の映画の倍の幅のフイルムを使った映画)日本最初の作品は『釈迦』。
おかげさんでこれらの作品は全部見る事が出来ました。
次回予告
笑福亭鶴光師匠の次回のコラムは、10月19日20時配信予定です。次回はどのようなエピソードが飛び出すのか、今からワクワクしますね。お楽しみに!
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