人間国宝・桂米朝師匠。その桂米朝師匠とジブリは関連がなさそうに思えるはずです。でも、実は関係があるよう。今回は桂米朝師匠とジブリについて桂米左師匠に振り返っていただきました。
桂米朝師匠の意外な素顔も垣間見られ、今回も貴重なエピソードです。お楽しみください!
米朝とジブリ
「スタジオジブリ」と言えば皆様よくご存じの名作アニメを数多く世に送っているアニメーション制作会社。
そのジブリと米朝が何の関係があるねんという事ですが、実は平成6年(1994年)公開の『平成狸合戦ぽんぽこ』で四国の長老狸の一人(?)六代目金長の声を務めているのです。
他の声優陣も豪華で先ず語りが古今亭志ん朝師匠。聞いていて実に心地良い。多摩狸の長老鶴亀和尚に柳家小さん師匠。999歳の最長老屋島太三郎禿狸に先代桂文枝師匠。
主人公の幼馴染に林家こぶ平(現正蔵)師匠等々、落語ファンにとっては「オーッ!」という布陣。
この仕事はマネージャーは付いていかず師匠と二人きり。
スタジオに入るとジブリのプロデューサーさんが絵コンテを出して早速打合せ。ただ四国の長老役で一番の長老が桂文枝師匠というのが気に入らなかったみたいで
「文枝君の声は私より若いですよ。」
てな事を言うてはりました。側で見ていて「そんな事で張り合わんでええやん」と私も男、腹には思って口には出さず・・・。
ですが本番では六代目金長の出番が多く、納得してはったみたいです。
声は先に録音してそれに合わせてキャラクターの口を動かすと言う説明に師匠は「はァ、なるほど、ふん・・・」とかうなづいてはりましたが判ってはったんやろか・・・。
お昼は老舗の弁松のお弁当を頂いた。師匠が私に「この弁松はな・・・」といろいろ説明してくれはりましたが私の返事は「はァ、なるほど、ふん・・・」とうなづいていたが判っていなかった。
師匠の初の声優は付いて行った者の感想と致しましては・・・えぇ、まァ、町で私を見つけた時に聞いて下さい。
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無事に収録が終わり上野のホテルでチェックインを済ましたら「ちょっと行こか」と言われ近くのチェーンの居酒屋へ。
師匠と二人でなんやかんやと話をしながら呑んでいて、ふと壁を見ると手書きのメニューで「メカトロ」というのがあった。
師匠はこんなんものすごく気になる方で「これは何や?」「さぁ、何でしょうか。頼んでみましょうか」「うん、そやな」
出てきた物は解凍できていないカチカチに凍ったピンク色の物体。店員さんに聞くと「メカジキのトロ」やそうな。師匠は一目見はってそれっきり。全部私が頂きました。
と、一人のお客さんが帰る時に師匠を見付け
「あっ、米朝さん」
「はい」
「嬉しいな、こんな所で。私ファンなんです」
「有り難うございます」
それからちょっと話をして「頑張ってください。」と帰っていった。この人あんたよりめっちゃ頑張ってはるわと私も男、腹には思って口には出さず・・・。
その時に師匠が
「な、ワシがこれだけ愛想して話をしたんや。そういう時はこれを持って行くもんや」
と勘定書を指して言いはった。
桂米朝の芸人の顔を見た。