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⑩一文笛~師匠桂米朝と過ごした日々:桂米左

桂米左

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上方の寄席や落語会ではよくかかるネタ『一文笛』。言わずと知れた故・桂米朝師匠作の新作です。スリの男が貧しい子供を助けようとしてしたことが、とんだ騒動を引き起こすという噺です。今や米朝一門のお家芸といえるネタで、桂米左師匠も得意とされておられます。

今回は作者である米朝師匠から直々につけていただいた米左師匠に、『一文笛』の秘話をつづっていただきました。お楽しみください!

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一文笛

これぞ米朝落語といわれる落語がある。まァ弟子からすれば師匠のネタ全てが”これぞ米朝落語”なんですが・・・。

『百年目』『地獄八景亡者戯』『はてなの茶碗』等すぐに出てきますが、やはり『一文笛』は外せません。

昭和の新作落語の中でも『代書』と並ぶ傑作でもはや古典落語といっても過言ではない作品。大阪に限らず東京でも演る者が増えております。

この噺のサゲは「兄貴、実はワイぎっちょやねん」ですが、このサゲが大事なのです。といいますのが「この”ぎっちょ”という言葉をサゲに使いたかったんや。でこれを作ったんや」と師匠は言うてはりました。

そうです『一文笛』は「ぎっちょ」ありきなんです。

そのサゲから先ず粗筋を考え「仕立て屋銀次」(※1)の趣向を取り入れ作ったとの事でした。

「ぎっちょ」と言う言葉に引っかかり、サゲを「左利き」に変えて演る人も居ますが、それでは『一文笛』ではありません。

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師匠はこうも言うてはりました。「極力地の部分(※2)を使わず会話だけで場面転換をしたんや」と。

20分かからない噺ですが本当によくできた素晴らしい噺です・・・弟子の分際で偉そうに・・・師匠、すみません。

師匠のところに稽古に来られた東京の噺家の中では「自分達のところに稽古に来ても付けないでおこう」という取り決めをしたという事を聞いたことがあります。米朝に敬意を表すと同時に筋を通すという事だと思います。

大阪でも演る者が多くなりましたが米朝に稽古をしてもらったか、或るいは稽古をしてもらった一門の者に稽古をしてもらっているかのどちらかです。前述しました「筋」ですね。原作者がはっきりしているので誰彼なしに勝手に演っていいという噺ではないのです。

私のところにも稽古に来られますが、師匠が存命の時は「お前が稽古を付けたらええ」という師匠の許可を頂いて稽古をしました。

四代目米団治師匠が『代書』を創り、師匠米朝が『一文笛』を創り、師弟二代に渡って後世に名作を残しました。

米朝の弟子たる者としてこれに続かなければならないのですが、このコラムだけでも必死で・・・ねェ・・・ハイ・・・すみません。

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『一文笛』の中には良い台詞がたくさんありますが、兄貴が秀に言う「お前何かええ事したように思てんのと違うか。子供がかわいそうと思たらたかだか五厘か一銭のおもちゃの笛、なんで銭出して買うてやらんねん。それが盗人根性ちゅうんや」・・・この台詞好きです。

この噺、師匠は昭和34年くらいに創りはったそうですが、それから30年以上経った時でも

「あの金額やけどなァ、ちょっと高いような気がするんや」

と言うてはりました。

まだまだ噺を進化しようと考えてはるんやとホント頭が下がりました。

師匠は凄い!

※1 明治時代のスリの大親分。逸話も多く小説や映画にもなっている。

※2 台詞で無い部分。「この男がなぜこうなったかと言いますと・・・」というような説明的な箇所。

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