やたけたな六代目笑福亭松鶴師匠がなんと、山田洋次監督『男はつらいよ』に出演が決定!その時のエピソードを、弟子の笑福亭鶴光師匠につづっていただきました。高座とは違う銀幕の世界、笑福亭鶴光師匠が感じた「指導」についても振り返っていただいています。
名人と指導のつながりについて、読者の皆様と一緒に考えていければいいですね。お楽しみください。
寅さん
映画『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』での松鶴のセリフは冒頭のシ~ンで
「やっぱり 寅さんは良え男やな」
このセリフの後、テーマ曲が鳴って有名な江戸川のシ~ンが流れる。
所が寅さんと言う言葉がどうしても大阪弁になる。つまり標準語はとらのらの字の語尾が上がる関西弁はらが下がる。何遍もリハーサルで関西弁に成るので助監督が
「師匠寅さんは全国的に標準語で統一されてますので、それでお願いします」
大御所むくれて
「わいは大阪の人間や、標準語しゃべるのは不自然と違うか。監督に聞いてこい」
言う事聞かないので監督にお伺いをたてにくる。監督曰く
「そんな事はどうでもええ、大阪弁で行こ大阪弁で、よーいスタート」
そこで松鶴は
「やっぱり寅さんは良え男やな」
標準語でしゃべった。山田洋次さん椅子から転げ落ちそうになって
「もう松鶴の映画は寅さん(撮らさん)」
五社英雄監督の映画『十手舞』という作品に岡っ引きの役で出させてもらった時に
「君の師匠にも僕の作品に出てもらったけど、上手かったな、貧しい、麻雀好きの酒飲みの労働者の役」
落語家やなかったらそのままやがな。監督よくぞ見抜いてくださった。
五社監督には他人を脅すときは相手の目を見るよりおでこを睨んだ方が凄みが出るとご教授頂きました。やはり一流になるには指導力も必要。
三代目桂春団治師匠には、こう指導していただきました。怪談話皿屋敷ではお菊の幽霊が最初に出る時は手を重ねる、つまりこれは恨みがある時、こう演じる方がお客様が怖がる。
次に出て来る時はもう仲良くなってるので遺恨が無く手をそのまま前に出す。不動坊の幽霊の真似も相手に恨みはないから手を前に出す、ただこれをわかってる噺家が何人居るか?
米朝師匠がある噺家に
「君あそこはこういう具合にやる方がええで」
その噺家が言った言葉
「そら判ってまんね」
普通は有難うございますやろ。人間国宝、コントみたいなこけ方してました。
私も注意を何回か受けました、島之内寄席で『代書屋』(米朝師匠の師匠桂米団治作)の一部分で、風呂屋の向かえをマクドナルドの隣と変えたらえらい怒られました
「君なこれは何時の時代の噺や、その時代にマクドナルドが有ったか?それでも受ければいいよ、お客様誰も笑ってない、意味の無いことはするな」と。猛反省です。
良き指導者に出会えるかどうか、それは己の性根の中にある。松鶴はいつも自分の出演したドラマを見るたびに
「あかん口調が噺家に成ってるこれでは良え役者になれん」
芸に関しては厳しい人やった。先代の松喬のらくだを聞いて
「お前のは本物の酔っぱらいやな」
「師匠有難うございます」
「阿呆!落語の酔っぱらいをやらんかい、これではセリフが聞こえんやないか」
やはり只者ではなかった。
次回予告
笑福亭鶴光師匠の次回のコラムは、10月26日20時配信予定です。次回はどのようなエピソードが飛び出すのか、今からワクワクしますね。お楽しみに!
鶴光師匠はvoicy(https://voicy.jp/channel/742)も毎日更新中。時々、猫ちゃんの鳴き声も聞こえ、オールナイトニッポンとはまた違った鶴光師匠の一面に触れられます。要チェックです。