プロレスを愛し続け50年の笑福亭仁嬌師匠。その笑福亭仁嬌師匠がプロレスを交えた落語をされていたとのこと。それは長い長い『東の旅』の帰り道『宿屋町』なのだそう。さて、どのようにプロレスを交えたのでしょうか。
これはぜひとも聞きたいですね。お楽しみください!
宿屋町やあ
今読んで頂いてるコラムは「落語とプロレス」というタイトルであるが、今まで落語の事は書いたことが無かった。
そこで今回は落語の事も書きます。
若い頃プロレスラーの名前を落語に入れたことがある。
「宿屋町」という東の旅でお伊勢参りをして帰り道の噺である。
その中に宿屋のお女子(おなごし)さんを説明する件がある。
二人が話をしながら宿場へかかってまいります。両側にズラーッと並んでおります宿屋さん。それぞれ軒の行灯に火を入れまして表には打ち水盛り塩、
一人でもお客さんを引っ張ろうというので前垂れがけをいたしました客引き女が仰山にでております。これがだいたい宿屋の女子やないんで近所の百姓家のおかみさんや娘連中、宿屋の忙しい時だけ手伝いに来てます。
平生は野良へ出て働いてるもんやさかい顔の色は陽に焼けて真っ黒けボボ・ブラジルみたいな顔してますな。それでも宿屋に来る時だけはそれへさして三文がんほどおしろいを塗ります。あれも襟筋からきれいに塗り上げるとよろしいがこれだけが顔でございと縁取ったように塗るさかいザ・グレート・カブキみたいになってます。
口へさして紅を差しますがあの紅というやつも下唇へちょっと差すとかわいらしいもんですが、上下大きな丹前の袖口みたいなやつへゴッテリと塗りつけるもんやさかい涎をくるたんびに紅がダラダラ流れて力道山の額に噛みついたフレッド・ブラッシーみたいな口になってます。
鼻が奥へ遠慮してるかわりにでぼちんがせり出したある、両方のぼべたがとんで出ておとがいがやりおとがいちゅうやつでアゴが前へニュウッと出てアントニオ猪木みたいなアゴしてますな。
またその顔が長い、上の方を観察して真ん中をへんを見て下を凝視してる間に上の方を忘れてしまうという長い顔でアンドレ・ザ・ジャイアントみたいな顔してますな。
手とくると一番の十能のような大きな手で表の道でカンテキを扇いでおこした火をガッとわしづかみにして玄関通って中庭通って奥座敷通って裏の離れ座敷の火鉢へ入れるまで十能がいらんという誠に大きなフリッツ・フォン・エリックみたいな手してますな。
足は十六文の甲高でジャイアント馬場さんと同じ足してます。
お腹が前へボーンとせり出してヘイスタック・カルホーンみたいなお腹してます。
その代わりおいどが後ろへとんで出てボブ・バックランドみたいなおいどしてます。
それでもやっぱり女でどことなしに色気がある。肩から斜めに赤いタスキをかけまして頭のてっぺんから声を出してお客さんを呼んでおります。
プロレス好きでないと分からんネタですから若いころに二、三回と数年前繁昌亭でプロレスファンの噺家が集まり会を開いた時にやったくらいである。
言わば幻のネタ
そんな大層なもんか!