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always〜二丁目のパン屋〜 ~猫と銭湯と私:月亭天使

月亭天使

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いつも通る道やお店に佇んでいる猫、あなたの周りにもいませんか?
月亭天使さんが小学生の頃、飼い猫の他に忘れられない猫がいたようです。今回のタイトルのような、どこか懐かしい風景や気持ちを月亭天使さんと一緒に感じてみませんか?

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always〜二丁目のパン屋〜

我が家の愛猫・きなこは私にとってかけがえのない存在でしたが、他にも忘れられない猫の存在があります。

今ではコンビニエンスストアが町内にたくさんでき、昔ながらの駄菓子屋さんが少なくなってしまいましたが、私が小学生の頃、各町内に駄菓子屋さんがあった気がします。それは、銭湯も同じで、家から徒歩圏内にいくつもあった銭湯はいつの間にか、なくなってしまいました。

小学生の頃、友人と友人のお母さんと銭湯に行った時、ベビーベッドで豪快に泣く赤ちゃんをあやす友人のお母さんを、今、ふと思い出しました。そして、浴場でおしっこする子供をばちばちに怒っていたことも思い出しました。

脱衣所では、ご近所の方々が「久しぶり」「コロナ怖いな」「まあ、私ら、あとは死ぬだけやから」と物騒すぎる会話をしたり。(いや、これは、こないだ行った銭湯の会話ですが)

町内の誰々がどこどこの高校に合格した、クラブ活動で全国大会に行った、あそこのお姉ちゃんできちゃった結婚した、あそこの猫ちゃんまた子供できちゃった、知られたくないこともあるかもしれないけど、町内のみんなが、みんなのことを共有している雰囲気があった時代の話です。

子供の頃、実家の豆腐店の近くに第一製パンの直売店がありました。

第一製パンのパンだけでなく、チョコバットやよっちゃんイカ、フーセンガム等の駄菓子、アイスクリーム、スコール、コーラ、牛乳、タバコ、少しの雑貨と様々な食品を売るお店でした。お店は、おばちゃんと、そのお母さんであるおばあちゃんが営んでおり、息子さんはいらっしゃいましたが、会社勤めでお店で見かけることはありませんでした。いつの間にか、タバコを売っていたおばあちゃんはいなくなり、おばちゃん一人でお店を切り盛りするようになりました。

私たち家族は、そのおばちゃんのことを『パン屋のおばちゃん』と呼び、牛乳が切れた時ちょっと買いに走ったり、遠足に持っていくお菓子を買いに行ったりしていました。

お店を入ると右手にパンの棚があり、入り口のすぐ横手にはタバコを販売する窓口がありました。パン棚の横にはレジ。

レジの前には、おばちゃんが座っています。

おばちゃんの後ろには、いろんな種類のタバコが入った棚があります。

レジの前には人が通れるスペースを空けて、一脚の椅子が置いてあり、そこに座ると、おばちゃんと話をすることができます。

小学生の頃、学校から帰ってくると、お店の外から、椅子に誰も座っていないのを確認し、『パン屋のおばちゃん』と喋るため、五十円か百円分のお菓子を買いに行ってました。学校であったことを報告したり、しりとりをしたり、チラシの裏に絵を書いたりして30分ぐらい話をしていたと思います。

お客さんも何人か来るものの、そこまで忙しくなく、『パン屋のおばちゃん』はいつも私の相手をしてくれ、絵を褒めてくれたりします。

そんなある日、息子さんであるお兄ちゃんが黒い仔猫を拾って帰ってきました。

昔は、食べ物屋さんや食品を扱うお店で動物を飼うことはあまり歓迎されていなかったようなので、お店部分ではなく、家部分で猫を飼っていました。レジの横がすぐ家部分だったので、もちろん、パン屋部分に出てきて遊ぶこともありました。動物が飼えなかった私は、その仔猫に会いに行くために、よりパン屋さんに通いました。

仔猫と遊ぶため、家にあがらせてもらったこともあります。

一人用のサウナ(お兄ちゃんが買ったらしい)と、大きな掘りごたつがあったのを覚えています。昔からの知り合いでも親戚でもない、ご近所さんという間柄でお家にあげてくれたのが、今、考えると何となく不思議です。

ところが、ある夕方、チビちゃんと名付けられた、その黒猫と遊ぼうと、急いでパン屋さんに行ったところ、チビちゃんの姿も鳴き声もありません。お店には仕入れ業者のおじさんがいて、なかなか『パン屋のおばちゃん』と話することができません。業者のおじさんと話をしていた『パン屋のおばちゃん』が、ちらっとこっちを見て、「実は、チビちゃん、昨日の夕方、道路に飛び出して、車に轢かれてしまったんよ」と言った瞬間、号泣していました。

子供の頃、家族の前以外ではほとんど泣くことがなかったのですが、結構な時間、泣いていたと思います。チビちゃんとは短い期間でしたが、その、楽しい時間がすり抜けて無くなった感覚が悲しかったんでしょうか。

『パン屋のおばちゃん』は、その数年後、医療事故でお兄ちゃんを亡くしてしまうのですが、お兄ちゃんが拾ってきた、二匹目の猫・タマは、臆病ゆえ道路に飛び出すことなく、お店のパン棚の上で、『パン屋のおばちゃん』の話し相手を十何年と続けてくれました。

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