桂小枝師匠のお弟子さんで、今年9年目の桂小留さん。お客さんを巻き込みながら噺を展開していくのに長けており、これからが楽しみな噺家さんの一人です。大きな芸に見えても、よく計算されています。
アイドルオタクでもあるため、ファン目線で色々と考えておられるようですよ。そんなことも踏まえて、たくさんお話してきました。お楽しみください!
追い込まれたら尻に火が付くタイプ
――いよいよ若手噺家グランプリが始まりますが、今回のネタ『壺算』への思い入れをお聞かせください。
思い入れは、うーん……。全然若手噺家グランプリの準備をしないまま、協会から「ネタ出ししてください」と連絡があったんです。僕の性格的にやり慣れているネタだと稽古をサボると思って、直近に覚えたネタ『壺算』を出しました。
――追い込まれたら尻に火が付くタイプ?
そうですね。出来立て熱々の方がモチベーションが上がるんじゃないかと。あと、ネタの格も少し考えました。以前、『大安売り』と『ん廻し』で出場したのですが、感触は良くても決勝まで進めませんでした。ネタの選び方がいかにも前座だったので、もしかすると基礎点が低かったんじゃないかと。それで今回はトリネタにもなる『壺算』を選びました。
――なるほど。『壺算』、難しくないですか?かなり巧妙な詐欺じゃないですか。
そうなんですよ。学生のころ、落研時代に初めて聞いた時、全然理解できませんでした。今もちゃんと理解できているかと聞かれたら、怪しいもので(笑)。
――あら意外。でも、理詰めのネタは小留さんに合っていると思いますよ。ぜひ自分のモノにしてください。
ありがとうございます。
キッチリ時間を決めて稽古をする
――普段のお稽古はどのようにして行っていますか?
最近は浴衣に着替えてやっています。ちゃんと稽古の時間を決めて。歩きながらネタを覚える時もどこかへ行く途中でなく、ネタを覚えるために歩きます。緊張感を与えて、自分を操るんです。
――ずいぶんキッチリされているんですね。これも尻に火を付けるためのことでしょうか?
そうです。決めておかないと、Twitterの通知が気になるんですよ。自分のでなく、アイドルのが。
――分かります。私も仕事をする時は腕時計をしているんです。これを付けていたら仕事モードという感じで。
そうしないと、ダメですよね。時間はキッチリ決めるけど、稽古はわりと緩めです。テキトーなことを言ってみたり、いらんことを言ってみたり。それが100回に1回ぐらい当たることがあるんです。
――何かやりながらお稽古はしないんですか?
できないんです。不器用なんでしょう。気持ちを切り替えないと、オタクが勝っちゃうんです。
――噺家が趣味でオタクをしているのでなく、オタクが噺家をしている感じなんですね。なるほど。
ドルヲタとしての小留さん
――そういえば、アイドルがお好きなんですよね。私もです。どなたのファンですか?
今は地下アイドルの「にっぽんワチャチャ」を応援しています。元々、運営の手伝いをしていました。知り合いがアイドルグループを作ることになって、彼はあまりアイドルに詳しくないためファン目線を伝えるためにお手伝いです。ですが、彼女たちが東京で挑戦することになって、今は一ファンとして応援です。
――運営って、ドルヲタの夢じゃないですか。
でも、逆に現場(※ライブ会場や握手会など)に行きづらくなりました。落語会の客席に座れないのと同じです。目線が変わっちゃったんだと思います。
――純粋に楽しめなくなっちゃいましたか……。
またアイドル落語会もしたいんです。前に喜楽館で2回開催して、また半年後に開催をと思っていたら、出演してもらったアイドルグループのほとんどが解散しちゃってた。それで開催ができなくなったんです。
――地下アイドルあるあるですね。推し始めたら解散。他、アイドル関連で仕事はないんですか?吉本所属なら、NMB48と同じ事務所ですし。
僕、事務所から「小留さんはガチだから、逆に頼めない」って言われているんですよ。芸人よりもオタクが勝ってしまっている。わざわざアイドルにオタクを近寄らせないでしょう(笑)。
誇れるものを探していたらアイドルに
――昔からそんなにアイドルがお好きだったんですか?
高校の時からでしょうか。その時からぼんやりと芸人になりたいと考えていて、そんな折、『アメトーーク!』が流行ったんです。いろんなオタク芸人が登場して、自分も何か誇れるものを持っておきたいと思ったんです。
――それでアイドルを?
はい。深夜番組でMVを見るたびにハマっていきました。最初は48グループもハロー!プロジェクトもまんべんなく聴いていたんですが、追いかけられなくなっていったんです。それに、知識として聴いていては彼女たちに失礼だと感じて。最終的には地下アイドルに落ち着きました。
――アイドルといえば、亡くなられた三金師匠もお好きでしたね。
三金師匠は、僕の大学の先輩なんです。落研の新歓コンパ三次会のカラオケにふらりと登場されて、SPEEDを完璧なフリつきで歌っていかれたことを思い出します。
――私が三金師匠で印象に残っているのは、モーニング娘。のメンバーを立弁ですね。若干、修羅場読みっぽく。
確かな技術と知識があるからこそ、できることですね。憧れます。
小枝師匠に「何かおもろいこと考え」と始めたTikTok
――小留さんのお師匠さんの小枝師匠も、オタク気質なところがあるとうかがっています。ぬいぐるみを収集されているとか。
今はブリキのロボットの収集をされておられるようです。ご自宅に孫も入れないロボット部屋があるとか。
――弟子も入れない?
僕はそもそもご自宅にうかがうことがないんですよ。稽古は、もっぱらNGKの楽屋でした。声を張れなくて苦労しました。師匠が言うんですよ、「隣、中田カウス・ボタン師匠やぞ!静かにせぇ」って。どういうトーンでやったらええかが難しかったです。
――えらいプレッシャーを受けながら……。
プレッシャーといえば、時々お客さんに「白塗りやらないんですね」って言われることがあるんです。うちの師匠が白塗りをしていたので。創作落語をしているとも思われていました。でも、うちの師匠って本寸法の落語なんですよね。
――ですよね。なんか変なイメージがついていますね。
うちの師匠から「お前も何かおもろいことを考え」と言われているので、今TikTokでスーパーのおばちゃんのあるあるネタをやっています。以前仕事でSNS関連のものがあって、そこから何となく続けています。
――見ましたよ!おもろい!ぜひ続けてくださいね。落語っぽいのにピン芸っぽくもあって、私は好きです。
唯一のお祭りだから
――小留さんはキャラクター作りが上手いのかも知れませんね。アイドルも自分のキャラをどうするか考える。他に落語と共通点はないでしょうか?
楽しんでやっているアイドルって、見ていて楽しいんです。この「楽しい」のために一生懸命稽古してるんやろうなぁと思います。あと、地下アイドルは対バンが多いので、推しグループの出番じゃなくても最初から最後まで見ることが多いんです。その時に良いグループを発見する楽しみもあります。
――寄席っぽいですね。
そうでしょ!若手噺家グランプリも今まで知らない噺家でも、また今度も見たいなと思ってもらえたら最高です。若手噺家グランプリは対バンライブっぽいですね。
――対バンでもあり、お祭りでもあり。
彦八まつりが開催できない今、上方落語協会のお祭りといえば若手噺家グランプリです。陽気に楽しんでいただきたいです。毎年、今年一番ウケたのはどこの会や?となった時、若手噺家グランプリが上がるんです。それだけ、僕もやりやすい会です。
――今回も楽しみですね。若手噺家グランプリを楽しみにしておられる方にメッセージをお願いします。
あんなお客さんが明るいコンクールってないですよ。お客さんが審査員じゃないのがええんかも。そこでしかやれないネタをやる演者もいて、ノビノビとした演者もいて、最高です。普段見られない真剣な姿も見られます。そんな姿をぜひ見に来てください!
――有難うございました!
天満天神繁盛亭でお待ちしています!
今回はじっくり桂小留さんにお話をうかがいました。共通の趣味があるため、インタビューは大いに盛り上がりました。アイドルの話は、別の機会にお届けできればと思います。それまで待てない方は、小留さんに直接うかがってください。
桂小留さんは7月6日(火)第1夜にご出演です。ぜひ応援に駆けつけてください。配信でも楽しめますよ!
第7回上方落語若手噺家グランプリ2021予選会
▲配信もあります
《予選第1夜》
日時:7月6日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂小鯛「親子酒」/月亭天使「H亭の怪談」/桂華紋「八五郎坊主」/桂紋四郎「つる」/桂あおば「キザ男」/桂小留「壺算」/桂弥っこ「向う付け」/露の棗「運命の人」/笑福亭鶴太「平林」
*出演順は当日決定します。
《予選第2夜》
日時:7月13日(火)17時30分(開場17時)
出演:笑福亭喬介「寄合酒」/笑福亭生寿「鹿政談」/林家染吉「壺算」/桂鞠輔「正月丁稚」/桂恩狸「悋気の独楽」/露の瑞「平の陰」/笑福亭智丸「怪談が止まらない」/桂九ノ一「池田の猪買い」/桂笑金「ミスター・スメルバズーカ」
*出演順は当日決定します。
《予選第3夜》
日時:7月20日(火)17時30分(開場17時)
出演:露の団姫「残念さん」/桂そうば「代書」/桂咲之輔「皿屋敷」/露の眞「こぶ弁慶」/桂団治郎「七段目」/桂三実「師匠!」/月亭遊真「真田小僧」/桂おとめ「セールスウーマン」/桂二豆「悋気の独楽」
*出演順は当日決定します。
《予選第4夜》
日時:7月27日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂ちきん「押し入れのラベンダー」/露の紫「狼講釈」/桂三語「二人癖」/桂二葉「天狗さし」/林家染八「八五郎坊主」/桂文五郎「七段目」/月亭秀都「茶の湯」/笑福亭笑利「千鳥の香炉」/露の新幸「つる」/月亭希遊「巻き舌職人」
*出演順は当日決定します。
会場:天満天神繁昌亭(〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1−34)
木戸銭:前売1500円、当日2000円
お問い合わせ:06-6352-4874(天満天神繁昌亭)