江戸落語の大ネタ『死神』。最近では、ミュージシャンの米津玄師さんが曲のモチーフにされたことでも知られています。実は上方でもこの『死神』を高座にかけられる落語家さんがおられます。それは露の団六師匠。
今回は露の団六師匠に『死神』を中心にお話をうかがってきました。しんどいネタなのだそう。その理由は?お楽しみください!
米津玄師『死神』にビックリ!
――米津玄師さんの『死神』はご覧になられましたか?
YouTubeでたまたま観ました。もうビックリです。「え?これ落語やん!着物やし、寄席小屋やし」と。なんで『死神』がテーマなの?落語家でも聞いたことない人がおるのに。
――『死神』は落語ファンでもタイトルしか知らない人は多いでしょうね。
『死神』は人情噺でもない爆笑噺でもあらへんからね。こないだの立花亭で久しぶりにかけて、お客さんに「こんな噺やったんですね」って言われました。
――そんなレアネタを、若いミュージシャンが。
ネーミングが良かったんかも知れませんね。今はコロナで死に対する感覚が高まっています。それで『死神』やったんかな。
――なるほど。
あの今をときめくトップリーダーの米津玄師さんが「元は落語でっせ」と言ってくれたから、落語なんてどうでもええと思っている人が落語を知るきっかけになるかもしれませんね。今はお笑いタレントとひとくくりにされているから。
――着物着て座布団に座ってたら落語って感じですよね。
これで落語の認知度が上がって、お客さんが増えたらええな。でも、増えすぎてもあかんね。所詮はヤクザ商売やから。あ、ほんまのヤクザと違うよ(笑)。
盟友・三遊亭圓雀師から『死神』を
――元は江戸落語の『死神』を、団六師匠はどなたからつけていただいたんですか?
三遊亭圓雀さんです。僕の方が7年ほど先輩ですが、何となく馬が合って若い時分から仲良くしています。東西交流会を開いて、東西をお互いに行き来してお互いの家に泊まり合って。東西交流会は自然消滅しましたが、圓雀さんとの付き合いは今もあります。現在もこっちに来てもらったら3か所ぐらい落語会に出てもらっているんですよ。
――良いご関係ですね。
『死神』はある落語会で圓雀さんが前名の春馬時分にかけていて、関西でやる人がおらんから教えてぇなとお願いすると、「録音したので覚えちゃえよ」と。彼はその時点でギャグをたくさん入れていて、40分ぐらいのネタにしていました。僕はだいぶ考えて短くしていますが、どうしても30分になってしまいます。
――先日の立花亭の『死神』、とても面白かったです。短くしている印象もなく、重厚感があって。
あのパターンでやるのは、実は2回目です。本当はもっと短くして20分ぐらいにして、寄席でもかけられるようにしたいなぁ。『死神』はオチが面白い。僕は見台を使って小拍子を吹いて倒しているけど、元々は見台を使わないからね。他のお師匠さんの別のオチも面白いですよ。
考えて、繰って、また考えて
――『死神』はどんなネタでしょうか?
しんどいネタやね。笑いが多いわけでもない、かといって人情噺でもない。僕はたいがいのしんどいことから避けて通るけど、しんどい落語のネタと出会うのは面白い。数学みたいに答えがあるのと違って、ずーっと問題を解いている感じです。
――どんなところがしんどいでしょうか?
例えば、他のネタでもいえるけど酔っ払い、ぐでんぐでんに酔うてるのもあるし知的な酔い方もある。どれが良い笑いやら分からん。『死神』に登場する男も酔っ払ったと言っているけど、途中から酔うてないのよ。
――言われてみれば……。
先日の立花亭の前は数日間かぼーっと考えてみて、それから繰って、また考えてとその繰り返しが多いネタなんです、『死神』は。今も考えています。
――それだけ深い考察が必要なネタなんですね。普段のお稽古もそんな感じでしょうか?
普段は何も予定がなければ、煙草を吸いながら30分ぐらいつぶやくようにネタを繰っています。以前は、家の近所が灘の造り酒屋が多いので、その辺りを歩きながら繰っていました。でも、職務質問を3~4回受けてから、家でやることが増えました。
――家なら安心ですね。
隣がデリバリーのピザ屋さんなんやけど、前に家で繰っていたらオチの後に窓の外から拍手が聞こえてきたことがあったんです。ピザを待っているお客さんが聞いてくださっていたんやろうね。
――えらい豪華な待ち時間や。
五郎兵衛師匠のお稽古
――これから団六師匠が挑戦してみたいネタはありますか?
うちの師匠に「お前には絶対無理」と言われた怪談噺に挑戦しています。うちの師匠みたいに幽霊を出してやるんじゃなくて、やり方を変えてオチをつけてしようかと。もう9割がた完成しているんやけどね。どっかで実験させてもらえんかしら。
――実験でも楽しみです。五郎兵衛師匠はネタを変えるのを避けるタイプの方だったんですか?
せやね。自分が教えた通りにやらんと嫌がるタイプでした。今はもう亡くなられているので、だいぶ変えています。現代では通じない言葉も出てきていますので。
――五郎兵衛師匠のお稽古は、録音OKだったのでしょうか?
いえ、一回で覚えんとあかんのです。
――え?!大変やないですか?
コツがあって、それさえ飲み込めば一回で覚えられます。『延陽伯』のようなネタは書かせていただけましたが。最低限覚えて、あとは師匠とお茶を飲みながら「あそこは、あないすんねん、こないすんねん」と。
――五郎兵衛師匠、ずいぶん厳しい方やったんですね。
いえいえ、二人きりだと何であない優しいんやろというぐらい優しかったですよ。二人で歩いていると、「餡子、食べたないか?」と甘味処に連れていってくれたり。機嫌の悪い時は「なんでおまえがおんねん」と理不尽でしたが(笑)。
落語は映画と同じ
ほんまはうちの師匠、自分が『死神』をやりたかったんやと思います。実際に「わしと一緒の出番の時にやれ。覚えるから」と言っておられました。元気なら覚えてやらはったかもしれません。
――五郎兵衛師匠、亡くなられて10年ほど経ちましたね。
仏教では13回忌やったみですね。うちの師匠はキリスト教徒だったので法要は営んでいません。よく考えたら、うちの師匠から発生して、僕や誰かから回ってるネタが多いなと思います。『眼鏡屋盗人』や『一眼国』なんかそうです。
――そうだったんですね。東京でも聞く噺だったので、どっちが先なんだろうと思っていたんです。
先代の林家正蔵師から、「こんな小噺があるんや」と教えてもらって、そこからうちの師匠が膨らませていったものです。『眼鏡屋盗人』はハチャメチャにすると笑いが多くなりますね。自分で言うのもなんやけど。
――最後になりますが、落語をこれから聞いてみたいという方にメッセージをお願いします。
落語を「普通」のものやと思ってほしいな。確かに、着物を着て座布団に座っていますけど、お金払って映画に行くような感じで来てもらいたいです。そんな大層に考えんと、帰り道にビールでも飲んでね。歌舞伎やったら、ええ席なら2万円3万円とするけど、落語は映画と同じ。敷居は高くありません。気楽にお越しください。
――有難うございました!
天満天神繁昌亭でお待ちしています!
今回はじっくり露の団六師匠にお話をうかがいました。1週間に30席ほど、ネタをさらうとおっしゃっていたのが印象的でした。若いころに覚えた『子ほめ』などかける機会が少なくなっているから、忘れないようにと。芸歴39年を迎えても、前進を続ける姿に学ばせていただきました。
露の団六師匠は天満天神繁昌亭や神戸喜楽館にご出演中です。スケジュールをチェックしてみてくださいね。