野球の醍醐味は人それぞれ。ご自身も幼少のころから野球をされていたマグナム小林先生は、代走も魅力の一つだと語ります。さて、その理由とは?思い出に残る代走もあるのだそう。
選手をどう配置するかで大きく変わる野球だからこそ、様々な角度で見ると面白いですね。今回もマグナム小林先生の筆は冴えています。じっくりお読みください。
走塁のスペシャリスト・代走
終盤のここという場面で代走の切り札がいるチームというのは強い。監督も心強い。
今、代走のスペシャリストと言えば、ホークスの周東、マリーンズの和田が双璧だろう。彼らが塁上にいるだけでバッテリーだけでなく、内外野の守備に就いてる選手にもプレッシャーがかかる。そのプレッシャーによって、投手は失投を投げたり、捕手はリードが偏ったり、守備は慌ててミスをしたりする。盗塁はもちろんだが、ランナー一塁でも外野の間を抜けたら、1点になってしまうから外野手とて油断出来ない。1点を争う場面ならプレッシャーは更に大きくなる。
彼らだって本当は先発で出たいだろうし、それなりに打てれば先発で使うのだろうが、監督としては、代走のスペシャリストをベンチに一人は置いておきたい。そこには葛藤があるだろうが。
よく、日本ではスモールベースボールと言われるけど、全員が全員、走れる選手を揃える必要はない。大きいのを打てる選手がいないと点が入らない。WBCでの侍ジャパンのチーム編成が上手くいったのは、今までは、小技の利く選手に偏り過ぎてアメリカなど中南米のチームに力負けしていた。
今年は、クリーンアップに長打力のある選手を揃えた上で、周東という代走のスペシャリストがいて、チームのバランスが良くなった。準決勝のメキシコ戦などはその集大成だろう。村上のバッティングも見事だったが、代走周東でなければ、あの場面で逆転はなかったかもしれない。
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私が覚えている中で一番、印象に残る代走というと近鉄の藤瀬さんと巨人の鈴木尚広さんかな。この二人は相手が警戒していても盗塁出来たし、盗塁の成功率も驚異的に高かった。あの江夏の21球の時の藤瀬さんの盗塁などは特に印象深い。あそこでエラーも絡んで局面がガラッと変わった。あの盗塁がなければ、江夏の21球はあれだけ深いものにはならなかっただろう。一説には、あれは単独盗塁でなく、エンドランだったという説もあるが、真相は今や藪の中だが。
代走はただ足が速ければいい訳ではない。素早い状況判断も求められる。なぜなら絶対にアウトになってはいけないから。昔、オリオンズに在籍した元オリンピック100m走者の飯島秀雄さんが大成出来なかったのも、野球未経験の為、状況判断が難しかったのがあった。
野球を楽しむ上でも代走のスペシャリストは欠かせない存在。この人が出てきたら嫌だなあと相手が思うような選手をこれからも見たい。