【取材記事】第108回 ヨセゲー「不適切ですが悪しからず！」レポート

2024年6月13日、東京・神保町にある「らくごカフェ」にて、「第108回 ヨセゲー『不適切ですが悪しからず！』」が開催されました。今回は、春風亭鯉枝師匠、三遊亭遊喜師匠、春風亭傳枝師匠、柳亭芝楽師匠、 笑福亭里光師匠が出演。不適切な噺のオンパレードとなると…記事にできるかなとドキドキしましたが、そんな不安とは裏腹に、ヨセゲーらしく、落語らしい人間味あふれる会でした。早速、覗いてみましょう。

ドロボーに詐欺師に喧嘩野郎！

はじめは三遊亭遊喜師匠。演目は『出来心』。

泥棒の素質がないからこの稼業から足を洗えと言われてしまうくらい、ちょっと間抜けな泥棒が、「心を入れ替えて悪事に取り組みます！」と親分に頭を下げ、親分から泥棒の基本「空き巣」の指南を受けるのですが…。

空き巣を実践する間抜けな泥棒のニヤッとする表情は愛らしく、悪事を働いているのにドコカ憎めない。さらに、遊喜師匠の手にかかれば、愛らしさにとどまらず、こいつ、きっと何かやらかしてしまいそうだという予感も漂い、いざ、やらかした！ という瞬間、ドカンと笑いが起こります。

はたまた、空き巣に入られたのはちょっと悪知恵が効く男で、空き巣されたことをいいことにあれやこれやと大家に対してホラを吹く。悪事に悪事が塗り重ねられるような展開と言えば格好がいいが、脱力してしまう悪事故に、会場も肩の力を抜いて落語らしい登場人物たちを堪能していることが伝わってきました。

続きまして、柳亭芝楽師匠。実家で育てているブルーベリーが良い感じになっていたので、摘んで食べてみたら、なんだか違和感がある味がする。父上にそのことを電話すると、農薬をまいたと言われたそうで…。え？！ 大丈夫？！ と心配のどよめきが会場を走ります。どうかご無事で。

演目は『身投げ屋』。
お金がなくて困っている八に、兄ぃが良い商売を思いついたと「身投げ屋」のノウハウを伝授。早速、その日の夜に永代橋に行って実践するのですが…。

それにしても題名からしてそわそわする演目ですね。八は心配になるくらいピュア。芝楽師匠のキラキラした眼とニヤリとした表情が、そんな八の人柄をよく表しています。芝楽師匠が企む人を演じると至極で、じわじわと病みつきになってきます。人の優しさにつけこむサイテーな商売も八の憎めなさに助けられ、会場も笑いがおこります。

不適切にもほどがあるけれど、ミイラ取りのミイラとはこのことかと、簡単に籠絡されないように気を付けなくてはと、自身にひきつけて考えさせられる一席でした。

お次は春風亭傳枝師匠の登場です。ヨセゲーの運営においての芝楽師匠のちょっとドジこいたエピソードを披露、いや暴露？！　芝楽師匠のうっかりキャラが落語みたいでおもしろく、ヨセゲーらしい愛あるメンバーいじりに会場も笑いに包まれました。

演目は『天災』。
短気が傷の八五郎。あまりにもヒドイので、隠居の手配で心学を志す紅羅坊名丸と話す場が設けられる。あれこれと諭されて改心した!？ 八五郎は、早速、得た知識を友人に披露するのですが…。

傳枝師匠が演じる八五郎の気風の良さは、本当に江戸に来てしまったのではないか？！ と思わせる凄みがあり、会場が圧倒されていました。八五郎と紅羅坊名丸の会話、八五郎と友人の会話はとてもリズミカルでスピーディーで会場を飽きさせません、むしろどんどんヒートアップ！ 噺のおもしろさだけでなく、リズムやテンポでお客さんをノせるというのも落語の魅力のひとつですね。傳枝師匠の落語は格段、良い音楽を聴いているような気持ちになり、ライブ感がたまりません。

聞き終わった後には、短気の八五郎も実は愛らしいところがあるじゃないかと、不適切な噺であっても肯定的な気持ちになるのが落語の良さですね。

では、ここでお仲入り！！

後半も、出てくる出てくる不適切

くいつきは、春風亭鯉枝師匠。何故か2セントが財布の中に入っていたという鯉枝師匠。何に使えるのだろうと、競馬場や自動販売機で試したそうですが…。そんな実験をする鯉枝師匠の遊び心にほっこりしますが、良い子はマネしないでね、ですね。

演目は、鯉枝師匠が創られた『麻雀プロテスト』。鯉枝師匠がプロの麻雀試験を受けた時の実体験を元にした噺。

麻雀に関する専門用語がたくさん出てくるので、麻雀が分からないとおもしろくないかな…という懸念はすぐに吹っ飛びました。ニコルソン・ベイカー『中二階』を思わせるような、細部にわたる描写のおかげで状況がありありと浮かび、一場面一場面をビビットに想像することができました。さらに、どこか無機質で緊張を強いられる場面に鯉枝師匠らしいたんたんとして平坦な口調がピッタリ。会場は終始、じわじわと笑いがわきおこり、完全に鯉枝師匠ワールドに巻き込まれていました。

鯉枝師匠の脳内の独り言を覗き見るような一席。
試験の結果が気になる方は、ツイキャスでお確かめください！

トリは笑福亭里光師匠。実はこの日、最前列に海外からのお客様がいらしたのですが、「どこから来たの？」 と英語で語りかける里光師匠。言葉はわからなくても、落語の雰囲気を愉しんでいってほしいと、優しい里光師匠の一面が光ります。

演目は『持参金』。
とある男のところに、前貸した10円を今日中に返してほしいと友人が突然やってきた。そんなお金すぐに作れないと談判するが、友人も急な入用なのだと弁解。友人が去ったあと、大家さんがやってきて縁談話を持ちかける。突然の返済、縁談噺と一気にいろいろ起こるのにはわけがあるようで…。

もはやどこが諸悪の根源なのかわからない、ぐるぐるぐるぐるした噺に会場もぐるぐるぐるぐる巻き取られていきます。登場人物のキャラの濃さより噺の濃さが表立つ演目かもしれませんが、里光師匠の声の使い分けや微細な表情の変化によって、それぞれの立ち位置が見事に立ち上がります。縁談相手の女性の容姿を説明する場面では、確かに現代においては、ややはばかれる表現かもという空気が流れつつも、それもまたいとおかしと楽しまれていて、ヨセゲーのお客さんの落語への敬愛が伝わってきました。

落語は不適切なやつばかり出てくると語る里光師匠。確かに…しかし、里光師匠が話すと、人間の十人十色の愛おしさが感じられます。

落語っていいな～がつまった時間

最後にみんなで、集合写真。先に会場を後にされた遊喜師匠は、師匠方のご意向で、ハメさせていただきました。悪しからず。
不適切がテーマ故、登場人物のパンチが強い噺やえええ～！？ それあり？！ という噺が次々と繰り広げられましたが、そこには人間の弱さやかっこ悪さが素直に表現されていて、まさに人間らしさが凝縮されているかのようでもありました。人間のダメなところもおもしろく愛おしく感じられるところが、落語っていいな～と思える要因の一つだと思います。リアルで参加できなかったという方は、ぜひ、ツイキャスでお楽しみください。

次回は7月18日で、テーマは「歌う落語会」。
話して歌って、にぎやかな会になりそうですね！ お楽しみに！

■関連情報■
ヨセゲーメンバーの落語会を一部ご案内します。楽しそうな会が盛りだくさん。
ぜひお運びください。※開催順 ※詳細は各落語会へお問い合わせください

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笑福亭里光師匠　https://twitter.com/rikoshoufukutei

腹八分目の会　vol.31
出演：春風亭傳枝、三遊亭夢丸、立川吉幸
日程：2024年6月24日(月)
時間：18：30開場、19：00開演
料金：前売2000円、当日2200円　配信1500円
会場：らくごカフェ(千代田区神田神保町2-3 神田古書センター5階)
予約・問合せ：事務局 t_koinosuke@hotmail.com

第18回落語国領亭落語会
笑福亭里光の兄妹会
出演：笑福亭里光、笑福亭ちづ光
日程：2024年7月6日(土)
時間：18：00開場、18：30開演
料金：予約1700円、当日予約なし2000円(小中学生無料)
会場：Mermaid(調布市国領町4-47-9 ライオンズマンション調布第3の1階)
予約・問合せ：国領亭 関田 080-4270-3493、5rakugokai4652@gmail.com

笑福亭里光落語会
日程：2024年7月14日(日)
時間：14：00開演
料金：一般2000円、学生1000円　※ドリンク、菓子付き
会場：藍ほーる(葛飾区亀有3-21-11)
予約・問合せ：やぎりん 080-5379-4929 yagirin88@gmail.com

笑福亭里光の落語会＠らくごカフェ ＆江戸川乱歩ほか　with河向貴子
日程：2024年7月19日(金)
時間：昼14：00開演　夜19時
料金：予約2000円、当日2500円　
会場：らくごカフェ(千代田区神田神保町2-3 神田古書センター5階)
予約・問合せ：里光 rshoufukutei@gmail.com