広告

読む前に売れ~日常ドキュメンタリー:三遊亭はらしょう

三遊亭はらしょう
【PR】
▽電子帳簿保護法の準備はお済みですか?▽

▽ご予約はコチラから▽

読書家にとって、本の収納は頭を悩ませるもの。三遊亭はらしょうさんもまた、本の収納に悩んでおられるそう。さて、はらしょうさんの取った対策とは?

あなたの本の収納も教えてくださいね。はらしょうさんのエッセイ、お楽しみください!

広告

読む前に売れ

本を売るか迷っている。コロナ以降、売ろうと思ったのは三回目だ。

本は部屋の片隅にまとめて置いてあるのだが、本棚を買う気がしないのは、部屋が狭くなってしまうからである。それに、一度、本棚を設置すると、ぎっしり並べたくなって、結果、もう一台、本棚を買う可能性が高くなってしまうからである。

俺の住んでいるアパートは十二畳くらいのワンルームなのだが、常に視界に本の存在が入ってしまう為、その分、一畳くらいは損をしている。損をしている、とはどういうことなのかというと、俺は以前、五畳半のアパートに住んでいた。その際、少しでも広くしようと、本は押し入れにしまっていた。ところが、今の住居にはクローゼットしかなく、その余裕はない。部屋の一部を本が占めており、大げさに言えば、もう一人、誰か住んでいるような感覚になるのである。

しかし、以前よりも部屋は倍以上あるのだからなんの問題もないではないか。と、最初は思っていたのだが、せっかく広くなったのだから、できるだけ快適に過ごしたくなってきており、一畳分の本が、趣味は合うが気が合わない同居人のようで、追い出したくなってきている。

さて、そのような理由につき本を売りたい訳なのだが、果たしてこれらをすべて売り払ってしまうのかと考えると、まだ未読のものもあるし、躊躇は当然である。もし、誰かの家に俺の著作が未読のまま置かれていたのなら、せめて読んでから売って欲しい。そうイメージをすると、今回の件を進めるには、まず、未読本を片っ端から読むことであるが、そんなことをしていると、いつまで経っても景色は変わらない。

では、完読した本をまとめて段ボールに入れればよいのだが、そうなると、未読の本は残ることになる。やはり、いつまで経っても解決はしない。

そこで、一畳をすっきりさせる最も良い方法は、未読本を買ったことをいったん忘れることではないだろうか。元々、なかったのだ。そんなに読みたければ、既に読みはじめているはずだ。幸いにして、一畳の中にどんなラインナップが存在するのか思い出せと言われても難しい。ならばいっそうのこと、あの場所にある本はすべて売ればいいのだ。

もちろん、先ほど言った俺の著作がの例えはあるが、それは人の家のことであり、他人の人生をこちらが決めることは不可能であるから、俺の人生を変えることだけを考えればよい。よって、一畳分の本を売ることに決めた。バンザーイ!

いや待てよ。本当にそれでいいのか?あの中に、今後、再読したくなった本があった場合、また買うことになる。事実、俺は十年くらい前に売った本が、最近また読みたくなって再購入している。必ずや、そういう日は来るに違いない。この一畳を売るなら、未読本のことよりも再読本の仕分けをするべきではないのか。

再読?大体、再読したくなる時は、その本を純粋に再読したいか、その中にある気になった箇所を探すといった資料的な意味合いでの再読、という二種類のパターンがある。

おいおい、それはいつの話だ。あまりにも不確定な未来だ。そうなったら再購入、或いは図書館で探すと腹を決めよう。ともかく、すべて売ってしまう方がよい。おや、待て、もう一つあった。再購入できないのと、図書館でも借りられないパターンもある。いわゆる絶版本だ。再購入は可能としても、プレミアがついて手が届かなくなっていることはよくある。図書館の方も閲覧はできるが、貸出し不可だったりする。

いや、もう、閲覧可能ならば、良しとしよう!ああ、もう、良しとしないと一畳がそのままだ。その内、二畳になるぞ。おいおい、同居人が二人!そんな恐ろしい展開は絶対に避けたい。この第一の同居人に出て行ってもらわなければ。早く、本を売らなければ。

一畳の中に、今いる場所から何冊かの題名が確認される。視力が悪いから全く見えないが、デザインで、あれはあの本だなと覚えている。大江健三郎全集の中の、中途半端な一冊がある。そういえばあの中に『見る前に跳べ』は収録されていただろうか?若い頃、文庫で読んだあの本は、大江健三郎=難解、という先入観が変わった小説だった。細かい内容は忘れてしまったが、あらゆる小説の中で、もっともカッコいい題名の一冊を選ぶとしたら、俺は『見る前に跳べ』である。

おい、待て、そういうことか。この言葉こそ今ふさわしいではないか。なるほど、「読む前に売れ」だ。なんだそのパロディは!

でも、それでいいのかもしれない。そうしないと先に進まない。「読む前に売れ」を実行するには、まずは買取専門の業者に依頼して引き取り日を決める。決定すればその日には確実に一畳が復活し、ようやく一人暮らしに戻れる。答えは出た。そうしよう!

そうするが、俺は知っていることがある。それは、しばらく経つと、また本が増えて、気付けば一畳になっている。俺はコロナ以降、そんなことを既に二回やっている。それ以前から数えると、何十回もやっている。同じことを繰り返しているが、その度に悩んで、そして答えは同じである。だから、これはそういう時期に来たのだということでシンプルに考えよう。もっと言えば、行事であり、祭りである。そう思って楽しもう。

あと何回、この祭りを開催するのか。そうしないと、俺の住居スペースが、最後には一畳くらいになってしまうではないか。この先、どれだけ広い部屋に住んだとしても、俺はきっと同じことを考えているに違いない。

更新の励みになります。ご支援のほどをよろしくお願いいたします