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エディ・マーフィ 三遊亭はらしょう二人会 前編~日常ドキュメンタリー:三遊亭はらしょう

三遊亭はらしょう
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世界的大スターのエディ・マーフィさんと、東京を中心に活動されている三遊亭はらしょうさん。二人に接点はないようですが、二人会が開催される運びに??一体、何があったのでしょうか?

今回も軽快なはらしょうさんの筆は光っています。どうぞ、二人会の真相をお読みください。

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エディ・マーフィ 三遊亭はらしょう二人会 前編

これは、事実になって欲しい小説である。

「私はあなたの笑い声こころよく思います。日本こころよく思います。誘い受けマネージメントうれしい。100000あなたをこころよく思います。会えるのを楽しみに思います」

メールの日本語は、所々おかしかった。だが、それでよかった。こちらの依頼を完全に理解していないことが、幸いである。100000円のことをドルだと、こころよく思っているのならそれでよい。ともかく、俺は自分の落語会のゲストに、あの、エディ・マーフィを呼べることになったのだから。

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あれは一か月ほど前だった。俺は寄席の帰りに、神保町の古本屋へ入った。

そこには懐かしい映画のパンフレットが、一冊100円から無造作に並べられていた。

中でもとりわけ目に止まったのが、『ビバリーヒルズコップ』シリーズである。

1980年代に大ヒットした刑事コメディの金字塔であるこのシリーズは、当時、ハリウッドに彗星の如く現れたスタンダップコメディアンのエディ・マーフィが主演だ。

シリーズは3作目まで作られたのだが、実質、パート2までが人気のピークで、それ以降は若干、落ち目になった90年代に、忘れかけていた頃にパート3が制作された。当時、俺は高校生だったが、日本ではエディ・マーフィは既に懐かしのスターの一人に数えられ、ジム・キャリーという新しいコメディスターが台頭していた。

 そんな思い出の中の彼が、パンフレットコーナーの片隅でニッコリ笑っていた。シリーズ第一作目の彼はおそらく20代前半くらいだろうと思われるが、正直、年齢不詳で40代といえばそう見える。落ち目になってからのパート3の表紙と全盛期を見比べても、同じ日に撮った写真のように見えるくらいだ。

 俺はパート1を手に取ってページをめくってみた。最後に観たのはいつだったのか記憶にないが、切り取られたシーンの数々からセリフが勝手に聞こえて来た。だが、不思議なことに、すべて日本語である。そうか、俺は小学生の頃、これをテレビで観たのだった。吹き替えの声がキャラクターにマッチしていた為、俺はエディ・マーフィを日本人だと思い込んでいたのかもしれない。そういえば俺は、彼の本物の声を聞いたことがない。

 たった100円だったが、俺はそれを買わずに真っすぐ家に帰った。

一刻も早くパソコンを開いて、ネットフリックスかアマゾンプライムで一作目から見直したかったからだ。観たい映画のキーワードを入れて検索したら、大概の作品は観れる。

それも一生かかっても見切れないほど膨大に。それらが毎月数百円程度で。もし、俺が子供の頃にサブスクがあったなら、そもそもインターネットがあったなら、どれだけ楽しかっただろうと思ったが、果たして、俺は映画を好きになっていたのだろうか。

 ビデオレンタル店ができた時は革新的だった。映画における進化は、レンタル店以上のものは考えられなかった。ところが、そのあと十数年経って、DVDが普及した時には度肝を抜かれた。映像の美しさはもちろんだったが、それよりもレンタル店に返す際に巻き戻しをしなくてもいいことに驚いた。あのひと手間が、毎回ロスタイムだった。返却日ギリギリの時の、あの異様に遅く感じる巻き戻しが終わるまでの時間。時には、巻き戻し切れないまま返しに行ったこともあった。

 もう、DVD以上の進化はないと思っていたら、十数年後に、サブスクが登場した。

定額料金の数百円は、ビデオレンタル初期の頃の二本借りるよりも安い。あの頃は一本500円。高い?いや、安いと思っていた。映画館の三分の一ほどの料金で鑑賞でき、借りてる間は何度でも観られるのだ。当たり前だが、凄いことだった。

スピルバーグ、ジャッキー・チェン、寅さん、ジブリなどなど。俺は、丸一日、同じ映画を飽きるまで観続けた。おまけにセリフまで暗記していた。もし、ジャッキー・チェンの代役を探しているのなら俺はできただろう、アクション以外は。

 今や配信のおかげで手当たり次第に映画が観られる。同じ作品を繰り返すことはない。それよりも、まだ観ぬ新しい映画、ドラマ、アニメ、音楽ライブ、スポーツ、バラエティー番組、ありとあらゆるジャンルの中でどれかを選択してクリックする。食べ放題と同じ心理だ。せっかくなら、つまみ食いでもすべてのメニューを制覇したい。そうなってくると、必然、少しでも退屈すればクリックして中断。新しい動画をまたクリック。俺は最近では30分以上観て退屈であればそうなっている。作り手に対して失礼だと承知だが、食べ放題で口に合わないメニューを途中から皿に盛らないのと同じ感覚になってきているのだ。

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 さて、帰宅する前に重要なことが一つある。スーパーに寄って、お菓子とコーラを買うことである。これはビデオレンタル時代からの習慣で、自宅を映画館の雰囲気に多少なりとも近づけたいという思いなのであるが、画面の大きさと音響のクオリティは、到底、映画館の足元にも及ばず無駄な抵抗であるのを分かっていながらやるのである。

 俺はこの映画館ごっこのアイテムを手に入れ、ようやく帰宅してデスクトップパソコンの画面を開いた。とりあえず、ネットフリックスを検索してみたら『ビバリーヒルズコップ』が早速出てきた。ニッコリ、エディ・マーフィ。であったが、何かおかしい。表紙のデザインは、俺の知っているシリーズのどれでもないのだ。おまけに、彼の表情に明るさがない。よく見ると、2024年制作。どういうことだ?凝視して驚いた。

『ビバリーヒルズコップ4』

えっ、4?解説を読むと、30年ぶりの新作と書かれてある。

理解がすぐに追いつかなかった俺は、反射的に再生ボタンをクリックした。

 軽快な音楽と共に車を運転しているのは、もちろん、エディ・マーフィ。相変わらず年齢不詳だ。あの頃から計算しても、現在60歳くらいにはなっているはずだが、20代に見えないこともない。カメラはゆっくりと寄って行き、しばらくするとアップが写った。

あれっ・・・老けてる。明らかにエディ・マーフィは老けていた。

 俺はそのまま映画を観続けた。そして30分以上たったが、消すことはなかった。面白かったから?いや、それよりも、彼の姿を最後まで見届けたかったからといった方が強かった。

 2時間後、観終った。不安はあったが、なかなか面白かった。これが映画館のスクリーンだったら満足度は高かっただろう。コロナ以降、新作映画を敢えて配信で公開するケースは多い。これは劇場公開してほしかった。そう思ったが、今から30年前でも日本では懐かしのスターという記憶のエディ・マーフィに興行収入は期待できない。今やハリウッド映画でも懐かしのスターだ。いい意味では大御所。まだ老害まではいってない。日本でいえば誰にあたるのか?近いスターが思いつかないが、なんとなく若い頃は一世風靡したが、中年からは劇場を中心に活動した三遊亭円丈。亡くなった俺の師匠なのだが、それに似ているような気がした。

 俺はまだ残っていたポテトチップスをつまみながら、あることを思いついた。

今ならいけるのではないか。何が?そう、エディ・マーフィを俺の落語会のゲストに呼ぶことだ。我ながら突拍子もない閃きだが、丸っきり現実感がない話ではない。要は、彼と連絡が取れればよいのだ。俺には英語力はないが、ネットで英語を調べればよい。ポケトークという同時通訳が出来る機械だって売っている。便利な時代だ。では、どうやってコンタクトをとるのか?便利な時代だから彼のホームページなどに、仕事の依頼先アドレスが載っている可能性はある。

 俺は早速、「エディマーフィ ホームページ」で検索をかけた。ウィキペディアなどのプロフィール紹介の類は色々と出てくるが、肝心のそれはない。また、検索ワードが多かったのだろう「エディ・マーフィなぜ消えた」「エディ・マーフィ現在画像」などの履歴も出てくる。英語表記のEDDIE MURPHY ではどうか。まずはウィキペディアの海外版が出てきたが、なんとそのあとに、フェイス・ブック、インスタグラムとそれらしきサイトが現れた。さらに、スクロールするとホームページらしきものも現れた。一気に興奮した。もう、これを発見しただけで、俺はエディ・マーフィと知り合いになったように感じる。

 クリックすると、画面中央に彼の顔がある。その下に英語で、クリックと書かれている。ここからページへ飛ぶのか。やばい、本当に近づいてきている。よし、クリック!その瞬間、エディ・マーフィの顔からは「フォッフォッフォッフォ」と笑い声が聞こえて来た。やけに不気味なトーンだ。楽しくて笑っているのではなく、悪だくみを考えている風に聞こえる。笑い声はすぐに終了した。だが、ページはそのままだ。

 もう一度クリックする。また、同じ笑い声がする。何も起こらない。なんだこれは?工事中なのか、その説明すらも出てこない。何度か押せば、何か起こるのかと俺はクリックを続けたが、「フォッフォッフォッフォ」が永遠に続くだけである。

 そういえば、フェイス・ブックやインスタグラムだとメッセージ機能があるはずだ。俺は、フェイス・ブックに登録している。目の前のSNSが本物なのかは疑わしいが、それを開けて見た。

 トップページには最新作のパート4の写真が掲載されている。フォロワーは1万   人以上。写真と英語の短い文章が沢山アップされているが、当然、なりすましの可能性はある。

 俺もかつてフェイスブックで、松崎しげるだと思っていた人が、松崎しげるじゃなかったことがあった。俺はつい昨日まで松崎しげるだと思い込んでいたから、偽物の松崎しげるに腹が立った。だが、別段、松崎しげるのファンではなかったので最後にはどうでもよくなっていた。

 だが、このエディ・マーフィがなりすましだったら、だいぶ腹が立つ。かつてファンだったし、今、またファンに戻りかけているからだ。

 これを見る限りでは、本人というよりは、彼の事務所かファンクラブが運営しているようである。メッセージを送信するにはメッセンジャーという項目があるが、こちらにはない。日本とは仕組みが違うのだろうか。それか、フォローしたら、できるシステムなのか。

現段階で、エディ・マーフィに最も近いのは、今、ここしかない。まずはフォローしよう。お友達になって下さい!

フォローしてから、三日たった。結局、メッセンジャー機能が見つからず、向こうからのフォロー返しを待っていた。

 その間、関連人物で様々なハリウッドスターが出てきた。この三日間、ハリウッドスターのページを日常的に見ている俺は、急に世界が近くなったようだった。

 だが、結局、十日経ったものの、エディ・マーフィからのフォロー返しはなかった。何か別の手段はないものだろうかとインスタグラムも登録してみたが、結果は同じだった。やはり、世界的スターとは簡単には繋がらない。

 諦め、そして、もう忘れてしまいそうになっていた二か月後に、衝撃的なことが起こった。なんと、俺が、ジュリア・ロバーツからフォローされたのだ。

なぜだ?俺はジュリア・ロバーツをフォローしてないのに。

(後篇へつづく)

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