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⑦稽古~師匠桂米朝と過ごした日々~桂米左

桂米左

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桂米左師匠による米朝師匠との思い出コラム第7回です。今回は米朝師匠の稽古についてつづっていただきました。

現代はネタを録音して稽古をすることもありますが、米左師匠の修業時代は…。一緒に稽古をしているつもりで読むと、胃がキリキリしてきます。

米左師匠の高座の原点でもある稽古風景。じっくりお読みください。

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稽古

米朝の稽古は昔ながらの口移しの稽古です。

一つの噺を三分程に区切り三回しゃべってくれる、それを覚えて話す。それがなかなか覚えられない。つっかえつっかえしゃべると師匠がイライラしだす。

稽古の時は仕草の為にという事で師匠は煙管に刻み煙草、昔のスタイルで煙草を吸う。イライラが増すと吸う回数も増え灰吹に吸いがらを落とす音が”カーン、カーン”それを聞く度に”ドキッ、ドキッ”益々覚えられなくなる。

挙句「枝雀は一回で覚えたぞ!」…イヤイヤ、そこを基準にしてもらったら困るんですけど…。

入門して初めて教えて頂くのが「口無し」と言う小噺。

「おい植木屋」
「へい、お越しやす」
「お前とこ、どんな花でもあるか」
「へぃ、うちはどんな花でも木でもおまっせ」
「ほな、物言う花いうのんあるか」
「物言う花…こいつ、なぶりに来やがったな…へぃおまっせ」
「あるか」
「へぇおます。なんなら名前なと尋ねてみなはれ。うちの花はみな返事しよりまっさかい」
「ふーん。お前名前なんちゅうねん」
「ウメ」
「おい、物言いよったで。お前は」
「ツツジ」
「へー、お前は」
「サクラ」
「えらいもんやな。お前は、お前は。おい植木屋、こいつ物言わへんで」
「あぁ、そら口無しや」

たったこれだけですがこれでも難しい。客と植木屋の位置、突っ込むかぶせる等々、これを師匠は細かく教えてくれる。素人でブイブイ言わせ鼻高々の奴はこれで鼻をへし折られ完膚なきまでに叩き潰される。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

次に教えて頂くのが「東の旅・発端」。これは見台をガチャガチャ叩いて訳の判らん事をただただ喋るという、これは稽古の為の稽古と言うべき噺。

目的は師匠のいう通り覚える、口さばき、大きな声を出す、間を取るという基本中の基本の稽古。これらをきっちり教えて頂き基礎を固めてくれはるので、やっぱり米朝一門は違うなと言うてもらえる所以かな…いや、そうです、ハイ!

師匠が稽古の時に言ったのが

「ワシが師匠に言うてもろた通りに教えるさかいに」

これは凄い事、重い言葉だと思う。あの桂米朝をしてこう言わしめる、伝えるという事がいかに大事で大変な事かという証左。

最近若手の基本から遠く離れている高座を見て唖然とした事がある。聞くと師匠からこう教わったとの事。

それは師匠が悪い。面白いのも大事だが基本を教えないとその若手が将来壁に当たった時、基本に戻って考え直すという事が出来ない。いかに基本、基礎という事が大切であるかという事。四天王の師匠方から教わった世代が物申すのが務めかと感じている。

覚えの悪い弟子で稽古の時に言われた忘れらないもう一つの言葉がある。

「何も頼んで来てもろた訳やないんやさかい、まだ若いねんし何ぼでも潰しがきくから荷物まとめて出て行ってくれるか」

やさしく言われました。あの時の師匠の笑顔は忘れらない。

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