上方落語の発展に40年以上寄与された落語作家の小佐田定雄先生。なんとこの度、舞台芸能総合の賞・松尾芸能賞優秀賞を受賞されました。落語作家では初めての快挙で、上方だけでなく日本における舞台芸能の発展に寄与されたと認められたのです。
今回は小佐田定雄先生に新作落語の作り方や、5月27日に開催予定で残念ながら延期になった「小佐田定雄の世界・その2」にまつわる話をお聞かせいただきました。
ファンの方はもちろんのこと、新作落語を作ってみたい方には必読です!
興味を失わないことがアイデアの源
――第42回松尾芸能賞優秀賞、受賞おめでとうございます!めちゃくちゃすごいやないでか。語彙力の乏しい表現ですが。
有難うございます。すごいと分かってくれる人は少なくてね。八代亜紀さんと並んでいるからすごいと言う人はまだマシな方で、中には松尾貴史さんから賞を貰ったと思ってる人も(笑)。
――なんでやねん(笑)。舞台芸能全般の中から「すごい」に選ばれたのに。
落語では3人目です。桂米朝師匠と桂歌丸師匠、そして私。それこそ「なんでやねん」ですわ(笑)。
――いやいや、それだけ功績あるじゃないですか。私は自分で大量に文章を書くようになって、新作落語を263作も書き上げることがどれだけ大変か分かるようになったんです。特にアイデアがすぐ枯れてしまうんです。
私は最後の手段に江戸時代の随筆を読むようにしています。あまり知られていないものがあるんですよ。あくまでも、これは奥の手。普段、なにげなく暮らしている中で思わずツッコミを入れたくなる時があるでしょう。それを新作落語のアイデアにするんです。
――なるほど。
あとは芝居でも何でもよく観て、聞くことですね。興味を失わないことも大切です。桂米朝師匠は晩年でも、テレビで気になる若い女優さんや歌手を見ると、お弟子さんに「あれは誰や?」と確認しておられたと聞いています。興味を持てなくなったら、ボケるだけやで。
小佐田流・新作落語の作り方
――アイデアを得て、新作落語を作る際はどこから書き始められるのでしょうか?
一番盛り上がるところやね。
――サゲでなく?
サゲを先に作っている噺は、逆に出来が良くない。早くそこに行きたくて急いでしまう。これが一番盛り上がる場面を先に書くと、ワクワクするでしょう。楽しく書けるんです。先に書いておくと、地味な場面でも「ここに行くためや」と思えるんです。
――なるほど。中心を作って、そこから肉付けしていく。パズルっぽいですね
そうやね。山場から書いて、書き進めていくうちにもっと大きな山場が出てくるかもしれない。そうなったら、また面白い作品が誕生します。原稿を書くときは最初から書くけどね。構想を練っている時は、こんな感じです。
――盛り上がる場面というのが、素人は分からないんです。だから、真面目にコツコツ最初から書いていってしまいます。
例えば『貧乏神』なら、貧乏神から金を借りるシーンが最初に思い浮かびました。こうなるためにはどういう状況が必要かを考える。そして、借りた男はどうなったか?最後にサゲを無理やりくっつける(笑)。
――サゲって無理やりなんや……。あ、タイトルはどの時点でつけるのでしょうか?
タイトルは書きあがってから。最後の最後に凝り過ぎずサラッとしたものを。そない真剣に考えてない(笑)。他のネタとかぶっていないのも大切ですね。
発注と発見が継続のコツ
――新作落語を40年以上書き続けるコツはあるでしょうか?
おかげさまで継続して発注があったからね。あとは、落語会に行っていると興味が出てくる噺家を発見してしまうんです。「この人に新作をやってもらいたい!」と思ったら、声をかけるんです。「新作落語、やってみない?」って。
――ええー!?めっちゃ怪しくないですか?
これがね、喜んでもらえるんですよ(笑)。最初、枝雀師匠に台本を提供したので「桂枝雀御用達」という肩書がある。老舗の看板みたいなものですな。
――小佐田先生は演者ありきの作品を書かれるので、ステキな噺家を見つけたらウズウズしちゃうんですね。
古典が上手い噺家に、古典をくずしたものをやってもらうのが楽しい(笑)。極論ね、新作落語は設定と展開があれば、噺家が勝手に作っちゃうものなんです。落語作家は噺家の色を付けていくのが仕事。元々、噺なんて複雑なもんとちゃうから。複雑なものを作ろうとしたらアカン。あらすじを1分以内に説明できないなら、他の発表方法を考えた方がええね。
――今は大ネタと呼ばれているものも、できた当初はシンプルなネタだったかもしれませんね。
せやね。笑福亭のお家芸の『らくだ』も、最初は20分にも満たないネタやったんちゃうかな。噺家がどんどん付け足していって、今の形になったんでしょう。
上演されなければ台本はただの紙
――先日、桂九雀師匠にインタビューさせていただいたのですが、九雀師匠は毎回台本を直されるとおっしゃっておられました。それでどんどん進化していくとのこと。小佐田先生も何度も台本を直されるとうかがっています。
桂九雀さんは嫌がらずにチャレンジしてくれるので有難いです。なにより上手い。こちらの要望をそのまま高座で再現してくれます。九雀さんはアイデアを出したら、形にしてくれるんです。「これ、よろしな」と。
――九雀師匠も同じようなことをおっしゃっておられました。小佐田先生を「落語を作る同志」だと。
私の台本は、九雀さんたち演者さんが上演してくれた段階でようやく完成します。上演されない台本はただの紙。だから、同志やね。
――素敵なご関係ですね。
枝雀師匠に私は宿題を出されていまして、私は「世界を変えるのが上手い」と言っていただけそれを伸ばすようにと。例えば『貧乏神』なら、普通の人間からお金を借りるじゃなくて、貧乏神から借りる。こういう世界の変え方が上手いと。九雀さんとこの宿題をやっている最中なんです。
――視点を変える、状況を変えるといった感じでしょうか。他にも宿題を出された方はおられるのでしょうか?
枝雀師匠は弟子それぞれの長所を伸ばせる分野を見つけ、それを「宿題」にされたんです。師匠のコピーだと師匠から抜け出せないから、トップになりやすい分野を見つけて道筋をつけてくださったんです。枝雀師匠は優れた教育者でもありました。
元々「小佐田定雄の世界」は1回限りだった
――少し気になったのですが、小佐田先生も枝雀一門なんですか?
そうそう、『幽霊の辻』を書いた1977年入門(笑)。九雀さんが1979年入門なので、ほぼ同期です。それもあって、一番話しやすい。彼とは鶴橋の「雀のおやど」で落語会「落語の定九日」も一緒に開催していました。九雀さんが私の作品をかけ、ゲストも私の作品を。対談もあったんです。
――5月27日に開催される「小佐田定雄の世界」とほぼ同じような感じですね。こちらの会の番組は小佐田先生が考えられたとのことですが、演者ありきの会でしょうか?
この会は私の著書『新作らくごの舞台裏』に掲載された作品をやろうとなったので、演者が先やなくて作品が先。私が作品を選んで、演者にオファーをしてくれたのは九雀さんです。ですから、香盤順なら桂文之助師がトリですが、『マキシム・ド・ゼンザイ』は軽い噺なので『狐芝居』の桂吉弥さんにトリをお願いしました。
――吉弥師匠も責任重大ですね。
彼ならやってくれるでしょ(笑)。この「小佐田定雄の世界」は次回の第3回でいったん終了。次回からは、古典の改作も入れていこうかと考えています。
――それを先に言っちゃうと、またチケットが取りにくくなります。
元々1回限りの予定だったんです。それがコロナのせいで8時までに終わらせなくてはならなくなって、九雀さんを止む無く抜かすことに。それで「今日のお客さんのために次回もやろう」と。
小佐田先生を笑わせる新作落語を
――九雀師匠が持ち越されたネタは『幸せな不幸者』ですね。
タイトルの中では『幸せな不幸者』が一番好きです。元々は江戸時代の小噺で、舞台を現代に変えました。小噺なので、前後を付け足していって落語に。
――小噺から膨らませられるのがすごいです。難しい。最近では新作落語を作る噺家さんも増え、「落語作家」を名乗る方も増えてきました。気になる方はおられますか?
笑福亭羽光さんは、最初から飛び込むタイプの新作落語を作るね。掴みから持ってくるのは、コント師のやり方やな。短距離に強い。枝雀師匠は古典落語でも一番盛り上がるから入る手法を取り入れていましたが、その後に状況を説明しておられました。
――やっぱり、コントと落語は違いますか?
例えるなら、落語は小説でコントはショートショートでしょうか。漫才はエッセイですな。昔の大阪の寄席は、エッセイの中に小説を入れていたからしんどかった。一方、東京だと小説の中にエッセイやショートショートを入れていたから、それが彩りになってたんやね。小説の中にショートショートやエッセイがあるとホッとするでしょう。
――ほんまですね。それでは、今後コント形式の落語が増えると、それが落語会の彩りになるかも。最後に、これから新作落語に取り組みたいという方にメッセージをお願いします。
私は自分が面白いと思うものが聞きたくて、新作落語を書き始めました。まさか商売にできるとは思ってもみなかったけど。私を笑わせてくれる作品をもっと作ってほしいな。でも、私より面白いのはダメ(笑)。
――有難うございました!
天満天神繁昌亭でお待ちしています!
今回はじっくり小佐田定雄先生にお話をうかがいました。実は「落語は小説」からどんどん話題が膨らんでいき、「司馬遼太郎は講談」なんて発言が飛び出すほど。書ききれないほど多くのことを語っていただき、とても勉強になりました。
小佐田定雄先生ご出演「小佐田定雄の世界・その2」は、緊急事態宣言延長により開催延期になりました。後日、同じ演者同じ演目で開催予定とのこと。詳しくは桂九雀師匠のTwitterと繁昌亭HPをご覧ください。