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ただ淋しい~格闘技的わたしの日常:神田春陽

神田春陽

今年は激動の年でした。コロナに始まりコロナに終わる。このコロナのせいで永遠のお別れをしっかりできないことが、各地で起きました。

神田春陽先生もまたお別れができなかった方々がおられるそう。それは一龍斎貞水先生と神田翠月先生です。今回は神田春陽先生にお二方への想いをつづっていただきました。

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ただ淋しい

師走に入った途端、東京の講談界を支え続けてくださった二人の先輩が、遠い世界へ旅立たれた。

一人は講談協会会長で人間国宝の一龍斎貞水先生、もう一人は女流講談の先駆け的存在だった神田翠月先生。

子供の頃、夏になるとTVの心霊番組で怪談噺をやっている貞水先生を観ていた。スモークが焚かれ、釈台の下から不気味な光が貞水先生の顔を照らす。

前座の頃、貞水先生の怪談を舞台袖で聴く機会が何度かあった。スモークもなく、不気味な照明も音響もない、素話の怪談。

終演後、楽屋に戻られた貞水先生は、「素話の怪談が一番怖いんだよ」と仰っていたのが印象的だった。仕掛けは営業の場、寄席は鍛錬の場で、本当の実力があれば小細工はいらない。しっかり稽古しろよ、という意味なのかと思っている。

翠月先生は女流でありながら『瞼の母』や『三味線やくざ』のような侠客伝を骨太な啖呵で聴かせてくれた。また『レ・ミゼラブル』のファンティーンのような少女が登場する噺や、『お紺殺し』のような怪談を見事に高座にかけられていた。

私の真打披露の口上では、「講談協会の神田派に大黒柱が誕生しました」と仰ってくださった。

今の私は大黒柱どころかやっと瓦の一枚になったかなという程度で、翠月先生の期待に応える事は出来ていないのがもどかしい。

コロナ禍という事もありお二方とも葬儀などに顔を出す事も出来ず、ただただ淋しい。

年末の東京を走り抜けるように、旅立たれた二人の先輩。ありがとうございました。

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感想をお聞かせください。

神田春陽先生の随筆にご感想をお寄せください。次はこんなテーマで書いてほしいというリクエストもあれば嬉しいです。張り扇片手に高座で戦う春陽先生から、これからも目が離せません。


春陽先生はTwitter(https://twitter.com/shunyo5963)も日々更新中。こちらも要チェックです。

執筆者
神田春陽

昭和46年神奈川県横浜市に誕生
平成12年10月神田すみれに入門、平成18年4月二ツ目昇進、平成26年10月真打昇進
豪快で力強い語り口の中にある繊細さが魅力の講談師。王道の講談講釈であるにも関わらず、垣間見えるサブカル的な雰囲気を好むコアなファンが多い。酒は一切飲めないが、ゴールデン街を根城とする。『犬神家の一族』の登場人物の中では、佐清が好き。

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