天満天神繁昌亭で7月6日(火)から始まる第7回若手噺家グランプリ。繁昌亭のお祭りの中で注目度も高いものです。今回は実行委員長の桂枝女太師匠に、開催経緯や若手へ望むことについてうかがいました。
四天王にかけられた呪縛を解いてほしい?それはどういう意味でしょう。お楽しみください!
優勝してもメディアのレギュラーが決まらない…
――今回で第7回目になる「若手噺家グランプリ」。こちらはどなたの発案だったのでしょうか?
六代文枝師の発案です。「繁昌亭からスターを!」の号令のもとアーツサポート関西の協力を得て始まりました。しかし、今まで6回開催してスターは誕生していません。足がかりとしてもなっていない。そもそも、優勝したからといってテレビやラジオのレギュラーが決まるわけでもありません。
――優勝賞金20万円だけですよね、今は。
いえ、前回から繁昌亭や喜楽館の出番を増やそうということになりました。去年から私が若手公演委員長として携わるようになり、少しテコ入れです。繁昌亭や喜楽館、島之内寄席の出番を割る各委員会と調整してご褒美を増やしました。
――メディアと協力して、レギュラーを賞品にしてもらうのは難しいのでしょうか。
ムリからあてにしないで、劇場でもっとクローズアップしていこうとなったんです。そもそも、初期の目標は「繁昌亭からスターを!」ですから。本来なら協会員は年2回しか、繁昌亭や喜楽館の出番はないんです。それをそれぞれ6回に。
――おお!一気に3倍ですね。
各委員会との話し合いの席に、第5回優勝者の桂雀太くんが列席していて、私の提案に彼が賛同してくれたんです。それが後押しとなり、こう決まりました。彼も思うところがあったんでしょうね。まあ、6回出演の権利があるからといっても、去年からのコロナで有名無実化していますが……。
上方落語の危機が始まるから「繁昌亭からスターを!」
――残念ですね。コロナめ……。ほんまコロナが憎いですわ。演芸をダメにする。
いやいや、コロナのせいだけやありません。六代文枝師が「繁昌亭からスターを!」と提唱し始めたころから、上方落語の危機は始まっていました。危機感があるから、若手噺家グランプリを提案してくれたんでしょう。
――え?そうなんですか。繁昌亭も出来て、たくさんのお客さんにお越しいただいて、入門志願者がいっぱい。そんな印象なのですが。
前にもコラムに書きましたが、200人のキャパが満席にならない。徐々に客足は遠のいていました。恐らく文枝師も危機感はあったのではないでしょうか。20年前ほどには、東京でも危機がありました。でも、10年ぐらい前から若手が台頭し盛り返してきましたね。
――あれは文化人の手助けもあったと見ているんです。ラジオやテレビで「今は○○が良いよ。一回聞いてみな」って言ってくださる方がいる。大阪にもそういう方がいてくださったら良いなぁと、私は思っています。
文化人の推薦か……。東京はそれが良かったかも知れんけど、上方はそういうもんやないから。下駄ばきで行けんと。かといって、会議室で机を高座にするんではいかん。会場にお客さんがつくことがあるからね。居心地が良くて、また行きたいと思ってもらえんと。
四天王の呪縛とは?
――話を若手噺家グランプリに戻しますが、今若手に望むことは何でしょうか?
我々にかけられた「上方落語四天王の呪縛」を解いてほしいです。四天王の呪縛とは、「習ろうた通りにやっていればええ」というもの。先輩たちも昔は工夫しようと思うてたんですよ。でも、毎回ウケるわけやない。失敗したら、「やっぱり習うた通りにやったら良かったんや」と思うてしまう。それに、周囲も慰めてくれるんですよ。「習ろうた通りにやったらウケんで」と。
――私もそう慰めていただいたことがあります。次どうしたらええか分かるので、安心できました。
そうやろうね。けど、これで安心しとったら進歩が止まるんや。誰も工夫をしなくなる。これも四天王の呪縛やね。けど、四天王がこうせえと言うたわけちゃうけどね。我々が勝手に呪いにかかってる。
――平成13年入門の私でギリギリ呪いにかかっているという感じでした。私のすぐ上と下を比べると、自由度は下の方が断然高いです。
私らの世代は、お手本通りにやるのがセオリー。ほんまは差をつけたい、工夫をしたいと思っていてもね。ただ、徐々に四天王の影響力は薄れています。おらんようになったら、呪縛から逃れつつある。私らも変わってきていますよ。
身分制度が厳しい演芸界では考えられないことが起きている
――そう感じることが、先日あったんです。ある噺家のお師匠さんの落語会で、一席はご自身の師匠から習った噺、もう一席は仲間から習った噺。私は仲間から習ったもう一席の方がそのお師匠さんらしくて好きでした。
そういうのが増えるやろうね。四天王は人数が少ない時代で、先輩も少なかった。教えてくれる人も少ない。だから、仲間同士で習うことが多かったでしょう。こうやって、焼け野原の何もなくなった時代、自分たちのものを作り上げていった。
――今もコロナで人が集まれず、危機が起きていますね。
危機という面では、四天王が活躍を始めた戦後直後と匹敵するね。あのころより豊かやけれど。お金がなくて寄席に行けないという人はいない。ただ、興味が持てないから寄席に行かない。
――娯楽が世にあふれかえっていますね。
その分、ええもんをやれば来てくださる。戦後のころより演者の責任は大きいです。だから若手も、自分は前の方の出番でやるだけやと思わんでほしいな。自分も演芸界を立て直すという気持ちでいてほしい。
――そう言うていただけることが起きるなんて、思いもよりませんでした。若手が新しいことを始めたら、いっせいに叩き始めるのが芸人ですし。
この状況下では、誰も何も言わないですよ。平時では、身分制度のある我々の世界ではありえません。それだけ危機的状況なんです。
次もまた聞きたいと思える噺家が「ええ若手」
――枝女太師匠の思う「ええ若手」ってどんな感じでしょうか?
もっぺん見たいなと思える子ですね。予選は私を含めて3人の噺家が審査員を勤めるんですが、他の二人に言うてるんですわ。「上手い下手やなくて、もっぺん見たい子を頭に置いていただけませんか」と。まあ、そしたら見事に決勝戦に進んだ子がもっぺん見たい子でしたな。この子らはみんな上手やし面白い。
――それは腕があるということでしょうか?
4年目でも10年目でも上手い子は上手いですよ。ネタの力で笑わせるだけでなく、キャラでも笑わせてくれると嬉しいな。何が出てくるか分からんワクワク感がほしい。
――それで悩んでいる若手がいますわ……。自分のフラ、つまりキャラクターというかそいうのが分からないと。
自分では分からんもんやで。そういう子は基本が出来たうえで、別のネタも聞いてみたいと思ってもらえるような工夫をしたらどうかな。次はどんなんかなと想像してもらえるように。
――伝えておきます。最後に若手噺家グランプリを楽しみにされておられるお客様に一言お願いします。
「繁昌亭からスターを!」を号令に私たちもあがいていますので、どうぞ応援してください。一緒にワクワクしましょう。
――有難うございました!
天満天神繫昌亭でお待ちしています!
今回はじっくり桂枝女太師匠にお話をうかがいました。コロナ以前から始まる上方落語の危機に胸を痛め、なんとか盛り返そうと奮闘されるベテラン噺家の枝女太師匠の姿に、今は外野になっている私に何ができるかを考えてしまいました。
第7回若手噺家グランプリは、7月6日(火)から予選会が始まります。チケットは発売されていますので、お買い求めをお忘れなく。
第7回上方落語若手噺家グランプリ2021予選会
▲配信もあります
《予選第1夜》
日時:7月6日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂小鯛「親子酒」/月亭天使「H亭の怪談」/桂華紋「八五郎坊主」/桂紋四郎「つる」/桂あおば「キザ男」/桂小留「壺算」/桂弥っこ「向う付け」/露の棗「運命の人」/笑福亭鶴太「平林」
*出演順は当日決定します。
《予選第2夜》
日時:7月13日(火)17時30分(開場17時)
出演:笑福亭喬介「寄合酒」/笑福亭生寿「鹿政談」/林家染吉「壺算」/桂鞠輔「正月丁稚」/桂恩狸「悋気の独楽」/露の瑞「平の陰」/笑福亭智丸「怪談が止まらない」/桂九ノ一「池田の猪買い」/桂笑金「ミスター・スメルバズーカ」
*出演順は当日決定します。
《予選第3夜》
日時:7月20日(火)17時30分(開場17時)
出演:露の団姫「残念さん」/桂そうば「代書」/桂咲之輔「皿屋敷」/露の眞「こぶ弁慶」/桂団治郎「七段目」/桂三実「師匠!」/月亭遊真「真田小僧」/桂おとめ「セールスウーマン」/桂二豆「悋気の独楽」
*出演順は当日決定します。
《予選第4夜》
日時:7月27日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂ちきん「押し入れのラベンダー」/露の紫「狼講釈」/桂三語「二人癖」/桂二葉「天狗さし」/林家染八「八五郎坊主」/桂文五郎「七段目」/月亭秀都「茶の湯」/笑福亭笑利「千鳥の香炉」/露の新幸「つる」/月亭希遊「巻き舌職人」
*出演順は当日決定します。
会場:天満天神繁昌亭(〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1−34)
木戸銭:前売1500円、当日2000円
お問い合わせ:06-6352-4874(天満天神繁昌亭)