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噺家の枕事情~噺を肴にもう一杯!:桂三若

桂三若

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大好評!桂三若師匠のエッセイも再開です!さて今回のテーマは、気になる噺家の枕事情について。「枕」といっても、宿の方。アッチ方面ではありません。悪しからず。桂三若師匠は若いころから、実に様々なところを宿にされていたのだそう。ビックリする場所もありますよ。

今回も抱腹絶倒、間違いなし!電車でお読みになるのは控えられた方が良いかも…。

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噺家の枕事情

皆様、ご無沙汰いたしております。

寄席つむぎが再開され、また皆様とお話ができることを心より嬉しく思います。

今後とも何卒よろしくお願いいたします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

しかしこのコロナはいつまで我々の仕事を妨害するのでしょうね。僕のほうは今世はあきらめました。来世に向けて地道に徳を積んでまいります。

コロナになる前は本当にあちこち仕事に行き、地方公演の場合は泊まりで、地の美味しい料理とお酒を楽しんだものです。

一番多かった2015年は、なんとあちこちに184泊してました。

家賃返してほしいです(汗)

もちろんホテルがほとんどですが、若い頃には色んなとこに泊まったもんです。

今日は僕が経験した変わった宿泊先の噺でもう一杯飲みましょう!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

まぁ思い付くままに羅列すると、ホテル、温泉宿、民家、カラオケボックス、居酒屋、海の家、学校、お寺、神社、葬儀会館、テント、ガレージ、野宿、ラブホテルなどがあります。

ラブホテルは主催者さんが、その日は町のホテルが全部一杯だということで取ってくれました。一人で丸いベッドを回転させ、ムーディーな照明を浴び、なんともいえぬ惨めさに涙しながら寝た記憶があります。

葬儀会館は落語会のあと、そのまま親族控室的なとこで寝ました。夜中にトイレに行く時に落語会をやった会場を見ると、すでに明日のお葬式の準備が整っており、高座だったとこに祭壇が置かれていて、世の中の無常さに涙しました。

一番怖かったのは群馬県のお寺です。

落語会は盛況に終わり、住職の奥さんは関西の人でしたので気さくに

「三若ちゃん今日はここに泊まっていったらええから!」と案内してくれたのが、20畳くらちの和室でした。そこだけ離れになっていて本堂や母屋は50メートルほど向こうにあります。

ボツンと寂しくあるので、奥さんに

「ママ、これは普段はなにに使う部屋なん?」

と聞くと

「そんなん気にせんとき」

との返事。

いや…気になるし。

「気になる!気になる!なにに使う部屋よ?」

「そんなん聞いたら、あんた怖がるがなぁ」

って、その時点で充分怖いがな。

聞くと遺体安置室というか、お通夜などの前にご遺体を寝かしておくとこだそうで、布団を敷いてくれてるけど、間違いなく数々のご遺体が眠ってきた布団です。

「あかんて!こんなとこで一人でよう寝んてー」

「大丈夫やって、みんなここで寝てんねんから」

それは、永眠や!

「怖い怖い怖い!無理無理無理!」

「そんなん文句言うた人一人もおらんでぇ」

当たり前や!

みな死んではんねんから!

結局そこで、死んだつもりで涙しながら眠りました。

目覚めて良かったです。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

あと宿が見つからないこともありました。

北海道をバイクで旅してる時は本当に宿がなくて泣きそうになりました。夜になり真っ暗で寒いし、半泣きになりながらバイクを走らせてると、やっとログハウス調の民宿を見つけました。

バイクを停めてると、首にタオルを巻いて長靴を履いた、本当に田舎の純朴そうなおっちゃん、斎藤清六さんのような方が

「どうしたの?」

と聞いてきました。

「今晩こちらに泊めてもらえませんかね?」

と言うと

「今日休みなんだ」

えー

宿に休みとかあんの??

「昨日まで忙しかったら休みにしたんだよ」

って

居酒屋やないねんから!

「じゃあこの辺にビジネスホテルかユースホステルみたいなもんありませんか?」

「無いよーなんにもないんだから、コンビニもないんだもん」

と言われ、泣きそうになりながら、またバイクで出発しようとしてると、奥さんが出てきました。

そして僕の赤いオートバイを見て

「あら、バイクで旅してる桂三若さんじゃないのぉ、昨日のニュースで見たわよ」

たまたま前夜にニュースに出たのを見てくれてたみたいでした。

ご主人から事情を聞いた奥さんは激怒しました。

「泊めてあげなさいよー!!冷たい人ね、この辺になにもないの分かってるくせに」

そして僕に向かって

「三若さん、ごめんなさいね主人が冷たいこと言って。たいした料理も用意できないけど、あったかいお風呂があるから、素泊まりでいいから泊まっていって」

とおっしゃってくれ、涙が止まりませんでした。奥さんが天使に見えました。

ただこういう時、次の日にお金を払おうとしたら

「芸人さんから受けとれないわよー」

なんて言われることがたまにあるので、

「ありがとうございます、先にきちんとお金はお払いしますので、いくらですか?」

聞くと、首にタオルを巻いたご主人が

「そうだねぇ、素泊まりだし3000円でいいやぁ」

言った横から奥さんが

「4000円!!」

怒鳴りました。

天使に見えてペテン師やったというベタな落ちで、今回は失礼させていただきます。

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