桂三実さんが野望を語るエッセイ『名古屋から大阪にやって来ました』。今回の野望は「全国ツアー」をすることなのだそう。たくさんの方に落語を聞いてもらうのも目的ですが、実は…。
桂三実さんの探求心や向上心が垣間見られる回です。あなたも「全国ツアー」ができるとしたら何をしますか?ご感想をお寄せください。
全国ツアー
今回の夢は”落語会で全国ツアー”です。
”全国ツアー”なんとカッコいい響きでしょうか。自分はミスチルなのかと錯覚できる数少ないチャンスです。
思い返せば、私が入門した直後に師匠が”三枝”から”文枝”に襲名され、襲名披露公演が始まりました。1年10ヶ月に及んだ襲名披露公演はなんと112公演。全国47都道府県に加えフランスやタイといった海外でも行われました。
まぁ名前こそ違いますが大きく言うと全国ツアーでしょう。
私はそのうちの3分の2ほどをご一緒しました。移動の大変さはありますが、知らない土地を訪れる楽しさはそれを軽く凌駕しました。初めてのお客様の前で落語をし、美味しいご飯を食べ、散歩をし、現地の人と喋ることで普段できない類のインプットができました。それがまたひょんなことから落語に活かせる、時間差サプライズもあります。
唯一の欠点は、載せようと思って撮ったけど結局なんのSNSにも載せなかった地元の食材が入った楽屋のお弁当の写真が溜まっていくことぐらいでしょうか。
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ただ当時修行中だった私は色んなことを諦めました。まずお土産。3年半の修行期間中お土産を買ったことは1度もありません。基本的に師匠と行動を共にしなければいけないので自由はほぼなく、お土産を買う時間などありません。『博多通りもん』を買うのを何度諦めたことでしょうか。
駅や空港にある顔はめパネルも結局1回もはめることはありませんでした。観光地巡りも諦めました。スケジュールの関係で駅と会場を往復するだけなんてことは多々あります。
ただごく稀に時間の余裕ができることがあります。しかしそこもやはり師匠次第。岩手に泊まったとき大ファンの”『あまちゃん』のロケ地だった久慈市と三陸鉄道に寄ってくれ!”と有馬記念3連単並みに願いましたが叶いませんでした。
唯一のプチ観光は夜中か朝早くにホテルの周りを散歩することです。福岡泊りのときに早起きして、電車に乗ってYUIさんのMVに出てくる海に行ったなぁ。僅か20分の滞在時間で、ギリギリまで粘り駅まで『フォレスト・ガンプ』のトム・ハンクスばりに激走したのは忘れられない思い出です。
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しかしこれが自分の全国ツアーとなれば、ある程度時間を自由に使えます。やっとよく行く喫茶店のおじいちゃんマスターに『博多通りもん』を渡せます。やっと羽田空港のキャリーバックを転がすCAさんにパネルにハメれます。やっと三陸鉄道に乗りウニ弁当を食べれます。
スナックにも行けます。そこで出会った歯の無いおもしろ常連おじさんが巻き起こす事件を翌日の落語会で話を大幅に盛ってマクラで話して、この土地に来たのをもれなく楽しんでる”ツアーならでは感”をお客さんに見せつけれます笑。夜の公演までたっぷり時間があってホテルから徒歩3分のとこに有名なお城があるのに、敢えてホテルから1歩も出ずに過ごすという敢えてパターンもできます。
なにより多くの方に生で自分の落語を見ていただいて、笑っていただけらこんな嬉しいことはないでしょう。さぁ、全国ツアーに向けてまずは家からチャリで3分の会場で開かれる落語会から始めます(笑)