11月のヨセゲー、テーマは「すったもんだで大騒ぎ」。
「すったもんだ」を調べてみると、漢字では「擦った揉んだ」と書くのだそう。
何だか、穏やかではない気配……。でも、落語の世界の「すったもんだ」なら、最後には楽しい気持ちになれるはず!と、神保町・らくごカフェにうかがいました。
今回は、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠、柳亭芝楽師匠による会です。
会の翌日からの2日間、11月11日と12日には同じメンバーによる仙台・花座での「ヨセゲーin仙台」も控え、気合じゅうぶんです。
さて、いったいどんな「すったもんだ」が待ち受けていたのでしょうか……?
テーブルマナーの行方
最初に登場したのは、柳亭芝楽師匠。どんなことにも「初めて」はあるもの、というお話から『本膳』を演じます。
「本膳」とは「本膳料理」のこと。結婚式でいただくフランス料理のフルコース、隣の人を見て真似しますよねと芝楽師匠。落語の世界が、ぐっと身近に感じられます。
さあ、本膳料理のマナーなど知らない村の人たちが、本膳料理の振る舞われる席に招かれたから大変。村の先生の真似をすることで一件落着――と思われたのですが……。
村の人は、総勢36名。芝楽師匠はお1人で演じていらっしゃるのに、36人の姿がありありと目にうかびます。それぞれの細かなキャラクターも演じ分け、個性が感じられるような話しぶりです。
「すったもんだ」ありつつも、どうにかこうにか進んだ本膳料理。と、そこで出てきたのが何と、里芋! 客席に、嫌な予感が広がって……。笑
何だかおかしいなと思いつつ、どんなことでも生真面目に真似してしまう村の人たちが愛おしく感じられるのは、芝楽師匠のキャラクターゆえ!かもしれません。
縁談の懊悩
続いては、笑福亭里光師匠が『植木屋娘』を演じます。
自分の娘・おみつの婿養子に、どうしてもお寺に居候する伝吉をもらいたい植木屋さん。
悪い人ではないのですが、表裏がないというか、遠慮がないというか……。
お寺の和尚さんに交渉したり、おみつと伝吉を2人きりにしたりと、植木屋さんの算段は誰にもコントロールできません。
娘を思うあまりの父の行動は、なかなか押しが強い。笑 本人不在で大丈夫なのだろうか……、とこちらが不安になります。それを、愛嬌たっぷり、チャーミングに演じられるのは里光師匠だからこそ。
おみつには「怖い」と言われる父親ですが、もちろん娘のことは大好きだし、だからこそ心配で、あれこれ言いたくなるのでしょう。見ているこちらが植木屋さんのことを「怖い」なんて微塵も感じないのが、その証拠です。
さて、最後に起こった大どんでん返し、植木屋さんのテンションは、こちらがびっくりするほどに!空気感が一気に変わりますが、おみつの語り口とのメリハリで、すっと場が落ち着きました。
犯罪の顛末
仲入りを挟んで、三遊亭遊喜師匠の『締め込み』です。
1年前から犬を飼い始めたという遊喜師匠。その甲斐あって!?夫婦仲がとっても良いのだそう。そんなお話から、すったもんだが始まります。
この落語に登場する夫婦、口ではやいのやいのとやかましいのですが、何だかんだとお互いのことが大好きな様子がうかがいしれて、とっても可愛らしいんです。
それをいちばん感じたのは、湯屋から帰ってきた奥さんが旦那さんを呼ぶ声。語尾に「♪」がついていそうな遊喜師匠の話しぶりに、この夫婦の関係性が見えたような気がしました。
さて、そんなけんかを思わず止めに入った泥棒。原因を作ったことを、しどろもどろに説明する姿が、また愛らしい。
遊喜師匠の語り口が生み出す「間」は、聞いているこちらが噺の世界に入り込む「間」を与えてくれている気がする不思議な「間」です。
今回も、そんな間を楽しみました。
旅の宿の波紋
トリを務めるのは、春風亭伝枝師匠。『宿屋の仇討』を演じます。
江戸の昔は、京への道のりを徒歩で行っていたのだそう。そんな、東海道にある宿屋でのお話です。
「きっぷのいい」という表現がよく似合う、江戸っ子の魚河岸三人衆は、「始終三人(でいる)」というくらい仲良し。夜は芸者を呼び、飲めや歌えやかっぽれを踊れやのどんちゃん騒ぎを繰り広げます。
伝枝師匠の「ご一緒に!」の声に、我々お客さんも思わず一緒に手を叩き、かっぽれに巻き込まれてしまいました。笑 ライブだからこその盛り上がりと空気感!
たまらないのが、隣室の侍。昨夜もいろいろあって眠れなかったのに、今夜もこれでは辛抱ならないと、宿の者に注意してもらいます。
これには、私たちもしょんぼりと申し訳ない気持ちに。笑 落語の世界に一緒にいるような感覚になりました。
江戸っ子魚河岸三人衆、侍、そして宿屋の人。口調が異なるのはもちろんですが、表情や姿勢も相まって、メリハリのきいた演じ分けでした。
おわりに
今回の会を通して、「おや、これは?」と思ったことがありました。それは、人物やモチーフの「つながり」です。
例えば、『植木屋娘』の「おみつ」。のちの『締め込み』に、奥さんが湯屋で話した相手として「おみっちゃん」という人物が登場します(『植木屋娘』は上方、『締め込み』は江戸の落語なので、地理的なつながりはないはずですが……)。
また、「締め込み」は力士の中でも関取が本場所で締めるまわしのことでもあります。『宿屋の仇討』には、相撲をとる描写が出てきました。
本膳料理のマナーを、『宿屋の仇討』に登場した侍はきっと分かるんだろうな、と思ったり――。
他にもあったのかもしれませんし、あるいは筆者のまったくの深読みなのかもしれません。でも、『宿屋の仇討』で魚河岸三人衆の大騒ぎに巻き込まれながら、「これは現代も含めて全ての世界がつながっているということなのかもしれない……」と考えさせられました。
毎回、1つのテーマに沿って開催されている「ヨセゲー」。見れば見るほど、聞けば聞くほど、行けば行くほど!楽しさが深まります。
第89回ヨセゲー「すったもんだで大騒ぎ」は、11月24日(木)までツイキャスでもご覧いただけます。
次回・第90回ヨセゲーは「年末大反省会」。
あっという間に、2022年も最後の「ヨセゲー」となりました。いろいろなことがあった2022年。どんな反省会が行われるのか楽しみです!
ぜひ、ご一緒に味わいませんか?
ヨセゲー #90【年末大反省会】
2022年12月8日(木)
開場:18:30 開演:19:00
当日:2000円 前売:1800円 ツイキャス配信:1500円
会場:らくごカフェ(東京都千代田区神田神保町2丁目3−5)
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/181210
ツイキャス落語会 ヨセゲー#89【すったもんだで大騒ぎ】
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/181208
11月24日(木)までご覧になれます。
寄席つむぎでは、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠のお3方のコラムや動画がご覧いただけます。併せてお楽しみください。
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