2022年繁昌亭大賞・奨励賞を受賞された笑福亭鉄瓶師匠。画期的であり落語の原点回帰ともいえる「ノンフィクション落語」の功績が認められ、受賞を相成ります。
この受賞直後の2022年12月25日(土)、西宮市門戸寄席で開催された落語会に寄席つむぎがお邪魔してきました。出演は笑福亭鉄瓶師匠と、笑福亭喬龍さんです。大寒波の勢いが少し和らいだ穏やかな良い天気でした。
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鶴瓶師匠のDNAを見せつける!
開演は14時、まず席亭の安田典彦さんが挨拶をします。なんでも、笑福亭鉄瓶師匠は満を持してのご登場なのだとか。今まで何度かゲスト出演はあったものの、メインでのご出演がなかったのだそう。今回、門戸寄席リニューアル2周年を記念してご出演です。期待が膨らみます。
出囃子が鳴り響き、いよいよ笑福亭鉄瓶師匠の登場です。この日の衣装は、落ち着いた中にも華やかさがある紅樺色の着流し。情熱的で人情に篤い鉄瓶師匠によく似合っておられました。
まずはこの日の共演の笑福亭喬龍さんの紹介を。年季が明けたばかりとのことなので、お願いしようと思われたのだそう。それだけでなく、シュッとした今風のイケメンの喬龍さんを「これからブサイクにしてやります」なんて言われるんですよ。その方法に、客席一同は「あー、それで落語家さんは皆そうなるのか」と膝を打ちます。
どんどんエンジンがかかってきた鉄瓶師匠。今度は松竹芸能のユニット五楽笑人のメンバ―のひとりをいじり倒します。どなたかはご想像にお任せしますが、これがもう面白いのなんのって。いじりの中に愛があり、何だかんだと言いつつも大切にしているのだなと感じました。
オープニングトークなのに、鉄瓶師匠は軽い挨拶なんかで終わらせません。のっけからフルスロットルでお客さんを笑わせ続け、気付けば25分が経過。これを鉄瓶師匠は、「鶴瓶のDNAを見せていかんとね」と言います。いやはや、見せつけられました。めっちゃ面白い!
妄想の世界にいざなわれて
オープニングトークのあとは、笑福亭喬龍さんが登場です。会場の門戸寄席の目と鼻の先に住んでおられるようで、毎週のように前座として出演されているとか。若手ならではの住宅事情をマクラにふり、『看板のピン』を。
よく通る声に指先まで考え抜かれた動き、年季明けしたばかりとは思えないような堂々とした高座でした。特に前半に登場する親っさんがいい味を出しています。「こんな人おるなぁ」と、何だか隣にいる感じです。よく人物を考察しているのでしょう。良い高座でした。
若手のフレッシュな高座のあとは、黒羽織を羽織った笑福亭鉄瓶師匠が座布団へ。マクラでは先ほどの喬龍さんの落語を褒め、懐の深さを見せました。軽く鶴瓶師匠やお母さんのエピソードも披露してから、『野ざらし(骨釣り)』に入ります。
主人公の男の妄想がおかしいこの噺、鉄瓶師匠の話し方が面白いんです。本当に嬉しそうに妄想を繰り広げるため、客席も一緒に楽しい妄想の世界へ。どっぷり妄想の世界に浸りそうになったら、現実に戻す。その綱引きがとても心地よい一席です。
この綱引きの上手さは、普段から鉄瓶師匠が市井の人たちを楽しく観察している賜物かもしれません。面白い人を見つけて胸の中でツッコミを入れたり、楽しく笑ったり。鉄瓶師匠の生活そのものが「落語」なのでしょう。
温暖化は冬の噺をやりにくくする?
中入り後は、黒紋付で笑福亭鉄瓶師匠が再登場です。マクラは、なぜか地球温暖化やSDGsについて。なんだ??と思っていると、季節モノのネタがかけにくくなっているとのこと。なるほど。
春夏秋とエピソードをふっていき、冬のエピソードへ。その流れで「えべっさんの日が舞台のお噺です」と『蜆売り』の世界へ自然と入っていきます。貧しい少年が雪が舞う中で天秤棒を担ぎ、シジミを売る様子から噺は始まります。
これが本当に寒そうなんです。思わず少年と一緒に身を縮めてしまうほど。暖かいはずの大店に招き入れられてからも、境遇があまりにも救いようがないため寒さから逃れようがありません。この情景を、鉄瓶師匠は丁寧に描きました。
この寒さの中に灯を灯した親分は、まるで鉄瓶師匠そのものような気がしました。情に厚く、後先考えず人助けをする。ただ、この「人助け」が『蜆売り』の世界ではあだとなり…。まるでO・ヘンリーの短編を読んでいるかのような展開に、客席は思わず息をのみます。
気付けば、客席全員で少年の背中にエールを贈るような空気に。この空気を作ったのは、他ならない笑福亭鉄瓶師匠です。さすがの出来でした。
次回は4月20日に
終演後はお楽しみ抽選会がありました。今回の出演者のサイン色紙が2名の方に手渡されます。当たった方は大喜び。
笑福亭鉄瓶師匠の魅力が存分に堪能できたこの会、次回は4月30日に開催とのこと。今から楽しみですね。御予約は門戸寄席まで。