宝塚歌劇団のきらびやかな舞台。その中にしっとりとしたレビューがあるのをご存知でしょうか。それは「和物」と呼ばれています。
今回は桂春雨師匠に「和物」のショーについてつづっていただきました。見どころや宝塚歌劇団のこだわりについても解説していただいています。読んでいると、東京宝塚劇場に飛んでいきたくなりますよ。
雪月花
みなさん、ようこそ『麗しのタカラヅカ』へ。ご案内役の桂春雨です。
今回は、宝塚歌劇の『日本物のレビュー』について綴りたいと思います。
この連載の8回目に、月組公演『WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲』のことを書きましが、その中で「一幕目がお芝居でなく和物のショーだったので」と記したのを覚えていらっしゃいますでしょうか。
和物を、宝塚歌劇では『日本物』と呼んでいます。宝塚といえば、ゴージャスな衣装を着た金髪のフランス人が出てきたり、派手なスパンコールや羽根の付いたコスチュームで踊るようなイメージをお持ちの方が多いと思いますが、それらと同じように大事にされているのが『日本物』です。
日本物にも『芝居』と『レビュー(ショー)』があります。日本物のお芝居の方は、雪組が有名です。近年でも2019年の『壬生義士伝』や2015年の『星逢一夜』のような大ヒット作があります。両方とも江戸時代が舞台の作品で、派手さはありませんが、観客の感動と涙を呼ぶ作品でした。
それから、2016年の『るろうに剣心』、2017年の『幕末太陽傳』というような、アニメや映画を題材にした日本物のお芝居も、雪組で公演されました。この2作品も観客動員100パーセントを超えるヒット作でした。
いずれも、DVDやBlu-rayで発売されているので、宝塚歌劇を観劇したことがないという方、騙されたと思ってぜひ観て下さい。男性の方にもお勧め致します。日頃のストレスが発散すること請け合いです。
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さて、ここからが本題です。宝塚歌劇の日本物のレビューを初めて観ると、びっくりされるかも分かりません。なんと、着物姿の男女がオーケストラの演奏に合わせて、踊っているのです。本来、三味線や太鼓・鼓・笛などの邦楽器の間(ま)に乗せて動く日本舞踊を、宝塚歌劇では洋楽器で伴奏し、ジェンヌたちは観衆に何の違和感も抱かせずに自然に舞い踊るのです。
これは、小林一三翁の「日本の古典芸能を、そして宝塚を世界に紹介しよう。世界の方にも分かるよう、世界共通語の洋楽で日本の芸能を魅せよう」という信念に基づき、創設以来106年間続いてきたものです。
ただいま東京宝塚劇場で公演中の月組『WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-』は、そんな日本物レビュー。植田紳爾先生の作・演出、歌舞伎の坂東玉三郎さんの監修です。玉三郎さんが、宝塚歌劇の監修に初めて参画した評判の作品です。
テーマは、日本人の精神性の原点ともされる「雪月花」。四季折々の自然の美しさ、そこから生まれる心情をテーマに紡ぎ上げます。「雪」の場面は、ヴィヴァルディの『四季』、「月」はベートーベンの『月光』、「花」はチャイコフスキーの『花のワルツ』と、クラシックの名曲が伴奏です。曲のタイトルを聞いただけで、なんだかワクワクしてきますね。
「月」の場面は、珠城りょうを中心とした月組生54名(密を避けるため人数を減らしています)による、ボレロの演出での総踊り。舞台上の皆が両手に持つ金銀の扇子の動きがピシッと揃っているのを観ると、見物している客席にも生きる力がみなぎって来ます。日常に疲れている方にお勧めです。
そしてこの公演は、日本舞踊の名手として宝塚歌劇の日本物を発展させてこられた、専科の松本悠里さんの卒業公演でもあります。松本悠里さんの踊る、花柳壽應先生振付(壽應先生の宝塚での振付60年記念でもあります)「雪」は冬の場面。
ヴィヴァルディの四季より『冬』の曲が流れ、黒い背景に朱の鳥居が並ぶ中に、朱色の振袖を着て傘をさした女が現れ、人生の儚さ悲しみをしっとりと静かに踊ります。松本悠里先生の「日舞は体で表す台詞である」という言葉どおり、出から引き込みまで「二度と帰らぬ人を待ち続ける女の心の声」が、先生の小さな身体から台詞となって聞こえてくるようです。
来年1月3日が千秋楽です。お時間ございます方は、ぜひ東京宝塚劇場に観にいらして下さい。