現代の寄席では名人が多く活躍していますが、もっと多いのは天国での寄席。落語家だけでなく色物の先生も伝説級の方々がそろっています。そんな世界の寄席に行ってみたいと思いませんか?
三遊亭はらしょうさんも行きたいと考えたようで、天国寄席での顔付けを考えてくださいました。これは見てみたい!
あなたの考える最強の天国寄席の顔付けも教えてくださいね。
天国寄席
寄席は楽しくて天国みたいだと言う人がいるが、もしも、あの世に寄席があるのならば、そこには一体どんな芸人が出ているのだろうか?
演芸好きであるなら、一度はそんな妄想をしたことがあるかもしれない。
それは、亡くなった名人だらけの寄席の顔付け、即ち「天国寄席」である。
今回の寄席つむぎは、俺が天国寄席で観たいメンバーを書いてみよう。
こんな顔付けだったら、あの世は本当に天国に違いない。
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天国寄席演芸ホール 昼の部・出演者
前座 三遊亭円丈
交互出演 古今亭志ん生
三遊亭圓生
落語 初代・桂春団治
漫才 エンタツアチャコ
落語 桂文楽
マジック 初代・引田天功
パントマイム マルセ太郎
中入り
そろばん漫談 トニー谷
時代劇コント 三木のり平&由利徹
アチャラカ喜劇 榎本健一&古川ロッパ
ボーイズ クレージーキャッツ
主任 三遊亭円朝
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さて、いざ寄席に入ると、まずは、前座が三遊亭円丈である。
俺の師匠が前座とは驚きだ。こんな豪華な前座は見たことがない。
円丈が亡くなったのが2021年11月だから、天国寄席に入ったのは、天国落語協会の見習い期間を経て、2022年10月頃からになるはずである。
もちろん、円丈の師匠は前世と同じ三遊亭圓生に入門するのが筋なのだが、生前、円丈は「御乱心」という自著の中で、圓生の悪口を書きまくってしまい、あの世に着いた途端、圓生から「全くけしからんもんで、おまえさんのような了見では弟子には取れないでげす」と門前払いをくらってしまったと推測される。
そして、かねてから尊敬していた明治の大名人、三遊亭圓朝に入門することになった。
と、これはすべて推測であるが、俺の師匠ならそんな行動に出そうである。
晴れて圓朝の弟子になった円丈は77歳から前座修行を初めたが、先輩前座に、90歳の川柳川柳師匠がいた為、あらゆるしくじりを川柳川柳がカバーしてくれているに違いない。
前座の川柳川柳は、あの世で再び圓生に入門したが、元来の酒癖と、生前に引き続いて、二度も圓生の家の玄関にウンコをしてしまった為、あの世で二度目の破門になり、川柳川柳の名前のまま来世も活動することになっているはずである。
円丈も川柳も、ここでは、まだまだ下っ端である。
二人共、大変に才能があるので、天国演芸ファンの間ではこれから伸びて行く期待の新人として一目置かれている存在である。
前座とは思えぬほど芸達者な高座を務めた円丈がおりると、二ツ目の登場である。
ちなみに、この日の楽屋のメンバーは、
「お茶出し、その他、雑用・三遊亭円丈」
「高座返し・川柳川柳」
「太鼓番・月亭可朝」
「タテ前座・橘家円蔵」
となっている。
さて、二つ目の交互出演は、なんと、古今亭志ん生と三遊亭圓生である。
正反対の芸風であるから、客席も毎日湧いている。
これは、生前あった、志ん生と圓生の満州慰問以来の盛り上がりだと言われている。
交互出演のあとからは、落語と色物、すべてが怒涛の名人ラッシュとなる。
まずは、いきなりここで、初代・桂春団治の登場だ。
「芸の為なら女房も泣かす♪」
の歌でお馴染みの春団治は、その独特のダミ声が生前よりも更に磨きがかかり、もはや殆ど聞き取れないぐらいの迫力らしい。
客席には常に追っかけの女子たち(平均天国年齢800歳)が黄色い声を浴びせ、寄席がハネると彼女たちを人力車に乗せて、天国浅草六区界隈を豪遊するのが、粋な浪花芸人の遊び方のようである。
春団治のあとは、漫才、エンタツ・アチャコである。
早稲田慶應の野球をネタにした「早慶戦」は、あの世でも大爆笑らしい。
彼らに続く漫才師、ダイマルラケットは、天国テレビの仕事が忙しく、寄席にはたまにしか出演できないようだ。
漫才のあとは、本寸法の古典落語、桂文楽の出番だ。
少ない持ちネタではあるが、そのどれもが十八番と言われた完璧な話芸は、健在のようで、最近、持ちネタを一本増やそうかと模索しているようだ。
何しろ時間はたっぷりあるから、もう死なないあの世で、一本のネタを完璧に仕上げるにはよい環境だろう。
この辺で、マジックが観たい頃だが、いいタイミングで、初代・引田天功の登場である。
売れっ子の為、寄席を休むこともあるが、その日は、寄席からの大脱出、というギャグで、本人不在でも盛り上げているようだ。
休演日は、アダチ龍光が代演を務め、客席を盛り上げている。
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マジックのあとは、引き続き色物の登場である。
パントマイムのマルセ太郎だ。
マルセル・マルソーに憧れての芸名だが、本人が演じているのは猿の形態模写が多く、パントマイムというより、モノマネ芸といった方が近い。
また、生前、小劇場を中心にブレイクした、一人で映画を丸々一本、一時間以上しゃべる「スクリーンのない映画館」という芸を、興が乗ったら思わず天国寄席でもやってしまい、持ち時間を圧倒的にオーバーして、その日出番だった、横山やすしにぶん殴られたことがあるようだ。
さて、いったん、中入りが入る。
休憩中の売店では、桂春団治の煎餅を素材にした伝説の「食べられるレコード」などの芸人グッズの他、飲食では、安藤百福が自ら作るチキンラーメンが販売されている。
では、後半へ行こう。
中入り後の食いつきは、そろばん漫談のトニー谷である。
天国寄席は、俺の好みに合わせているので、俺の観たい顔付けになる。
その為、後半は色物芸人が目白押しである。
「あなたのお名前なんてぇの♪」
シャカシャカとそろばん音が、三八マイクを伝って響き渡りながら、客席は大爆笑。
ちなみに、先ほどの売店では、トニー谷グッズとしてオリジナルそろばんも売っている。舞台でシャカシャカ鳴らせば鳴らすほど売れ行きが伸び、天国の噂では、トニーは、そろばんでそろばんの売り上げを計算しそろばんずくで行動しているらしい。
トニーの余韻が冷めやらぬまま、次は、派手な時代劇コント、三木のり平&由利徹の登場である。「まってました!」と声がかかりながら、東海道中膝栗毛のコントをアドリブたっぷりに披露する。
三木は、草鞋飛ばし、由利は、裁縫の針。
得意のギャグをふんだんに使いながら、最後は、桃屋のごはんですよ、おしゃまんべ、と、それぞれが決めセリフで去って行く所が最大の見せ場である。
大満足の客席の中、楽器を使ったボーイズコント、国民的大スター、クレージーキャッツの登場である。
もちろん、最後は植木等のフレーズ「お呼びじゃない!」で終わるのだが、それを言う度に、まだ天国にはお呼びじゃないという意味にも聞こえてしまい、毎回、せつなさを残したまま、ステージを去って行く。
「呼ばれなくたって、いつか絶対呼ばれるんでい!」
そう言わんばかりに、榎本健一&古川ロッパが出て来て、アチャラカ喜劇が始まる。
小さな身体で飛んだり跳ねたりのエノケンを、警官の衣装を着たロッパが追いかけまわす。
浅草天国寄席のドンといっても過言ではない大物二人の芸は、客席にいる観客、そして袖から見ている芸人全員も、生きてて良かった、いや、死んでて良かった、と感動する。
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そして、いよいよトリである。
主任は、三遊亭円朝だ。
何しろ、殆どの人が、生の円朝を生きてる間に見たことがないゆえ、円朝が出演する日は、楽屋の芸人も全員、最後まで残って聴いてから帰るという。
「牡丹灯籠」「死神」など、円朝作と言われている持ちネタは数多い。
中でも、生前、観客からのお題を貰って三題噺で即興で作ったと言われている「芝浜」
に関しては、円朝作ではないという説があるが、この世では、他の落語家が作ったという証言が見つからず、今の所、円朝作が有力なので、あの世でも、そのままになっている。
最近では、芝浜に続く人情噺を作ろうとしているみたいで、天国寄席では、この日、三題噺に挑戦。
客席からのお題は、「酔っ払い」「財布」「三途の川」だったそうである。
こうして、拍手喝采の中、トリの円朝が下り、寄席がハネた。
これらは、すべて俺の妄想である。
いつかは、きっと観れる天国寄席、そこに自分の出番はあるのだろうか。
俺も、いつかあっちへ行く時は、天国寄席へ行き、楽屋口で、再び、師匠・三遊亭円丈に弟子入り志願に行くのかもしれない。
だが、その前に生きてる間に見せたいネタが沢山あるので、こちらの寄席に出続けたい。ちなみに、皆さまは、気付いただろうか?俺が紹介したのは、天国寄席の昼の部の出演者のみである。
実は、天国寄席に夜の部はない。そして、お盆の興行もない。
なぜか・・・まぁ、そういうことである。
演芸ファンの皆様、今度、真夜中の寄席へ行ってみてはいかがだろうか。