【取材記事】第111回 ヨセゲー「こんな揉め事いやだ」レポート

2024年9月11日、東京・神保町にある「らくごカフェ」にて、「第111回 ヨセゲー『こんな揉め事いやだ』」が開催されました。今回は、春風亭鯉枝師匠、三遊亭遊喜師匠、春風亭傳枝師匠、柳亭芝楽師匠、 笑福亭里光師匠が出演。怒りん坊に、騙し合いに、色恋に、昆虫に？！…どったんばったん、いろんな揉め事が勃発したようです。では、早速、揉め事に巻き込まれすぎないように、『こんな揉め事いやだ』の様子を覗いてみましょう。

はじめからごたごたの揉め事づくし

トップバッターは三遊亭遊喜師匠。2024年9月11日～15日は、浅草演芸ホールで遊喜師匠の主任興行。今日は主任興行の初日！で、 ヨセゲーから浅草へハシゴされます。どうか道中、揉め事に巻き込まれないようにと祈念しつつ、「こんな揉め事いやだ」の幕開けです。

演目は『権助提灯』。男も女も、やきもちを焼きすぎるのは困ったものですが、逆にやきもちを焼かないというのも手を焼くことになってしまうようです。とある旦那は妻の他にお妾さんをかこい、2つの家を行ったり来たり。ある風が強い晩、「お妾さんが心細いだろうから泊まりに行ってあげたらどうか」と妻に言われた旦那はひょいひょいと、権助を提灯持ちに従えて一緒に出かけるのですが…。

妻とお妾さんが登場するというシチュエーションだけで、何か起こりそうな予感がぷんぷん立ち込めるのですが、なんといっても遊喜師匠の権助がいい味を醸します。大人の落ち着きのある妻と色っぽいお妾さんとのギャップの作り方が巧みで、権助のなまり具合と憎めないキャラクターがバチっと際立っていました。

物語の終盤は、卓球のラリーのようにポンポンッとリズミカルに進み、会場も旦那と権助とともに翻弄されながらも笑いに包まれました。

続きまして、柳亭芝楽師匠。ホテルをいくつか経営している社長さんが先代であるお父様に教わった帝王学で「企業のトップは傍にバカを置いておけ」と教わったとのこと。多忙極める仕事の慰みになるのだとか。「よくその社長さんに呼ばれるんだよね」とぼやく芝楽師匠に、会場からは、情けを含んだあたたかな笑いが起こります。

演目は『粗忽の使者』。杉平柾目正の家来 地武太治部右衛門は粗忽ゆえに可愛がられていました。ある日、そんな治部右衛門が、粗忽だし忘れっぽいけれど、使者という大役を命ぜられ、大張り切りで先方の元に向かいます。しかし、そこはさすがの粗忽者、期待を裏切らず？！ 口上を忘れてしまい、先方宅で思い出すのを手伝ってほしいと言い出すのですが、その方法が…。

冒頭から治部右衛門のオーバーなリアクションに会場はどよめき、笑いが起こります。先方について、口上をころっと忘れた治部右衛門の様子を盗み見ていた大工の留さん。治部右衛門の様子が相当おもしろかったとみて、仲間にそれを嬉しそうに話す留さんのテンションはもはやギャルみにあふれ、会場も爆笑。

治部右衛門が身体を張って口上を思い出そうとするシーンは、治部右衛門が乗り移ったかのように芝楽師匠は顔を赤くしながらの白熱の演技。いつもに増して表情豊かな芝楽師匠に会場もテンポよくノセられていました。

さあ、治部右衛門は口上を思い出すことができたのか？！ 芝楽師匠の白熱の演技とともに、ぜひツイキャスでお確かめください。

お次は春風亭傳枝師匠の登場です。三笑亭可楽師匠とのさまざまなほっこりエピソードを聞かせていただきました。なんでも傳枝師匠は可楽師匠から「大友だち」と認定されたようです。可楽師匠の愛らしいツンデレキャラも相まって、大友だちって何？！　と会場からは笑いがこぼれます。落語家さん目線でさまざまな落語家さんの話を伺えるのは生々しく、貴重で嬉しいですね。

演目は『星野屋』。星野屋の旦那がお妾さんのお花のもとにやって来た。何の用かと思ったら、手塩にかけて育てた番頭にしてやられ、お花へ別れを告げるとともに死ぬつもりだと言い出した。お花はそれならわたしも一緒に逝きますと言うのですが…。

傳枝師匠の機微に通じた話ぶりが登場人物たちの神妙さを見事に立ちあがらせるゆえ、何が本当で、何を信じればよいのか、どこからどこまで芝居なのか…会場もろとも男と女の騙し合いに巻き込まれ、ひっかきまわされます。物語が進むにつれ、信じるか信じないかはあなた次第！と言わんばかりに、騙し騙されのリズムは加速！ めくるめく見事な悪知恵に笑いもヒートアップでした。


さて、揉め事がいったん落ち着いたところで？！ お仲入り～。

昆虫も揉め事に巻き込まれ…

くいつきは、春風亭鯉枝師匠。やはり、お客様にあった噺をするのがいいなと思うので、ゴキブリの噺をしますねという鯉枝師匠。会場は大爆笑！ いいのですか？！受け入れちゃって！ と思いつつ、ヨセゲーのお客様は懐が深くてあたたかいなと、ヨセゲーの良さをしみじみと感じた瞬間でした。

演目は『タバコ部屋』。タバコをきっかけに言い争う夫婦。それならばと、旦那がタバコを吸う専用の部屋を借りることにするのですが…。

タバコを吸うだけの部屋にそんなにお金はかけられないと、家賃数万円の部屋を見つけるのですが、それがツッコみどころ満載の、いやツッコみどころしかないヤバい部屋。鯉枝師匠のたんたんとした口調が部屋のヤバさを惹き立てます。いつの間にか、会場がタバコ部屋に変化して、自分たちもその部屋の中にいるような気持ちになり、タバコの匂いもつーんと鼻をついてくるかのよう。部屋はヤバくても、ここに落語の醍醐味ありです。

奥さんもなかなかに強烈なキャラクターで、噺にいいスパイスを効かせます。鯉枝師匠の手にかかれば、電子レンジも念仏に早変わりするし…もう何のこと？！となっているみなさま、ぜひツイキャスでこのヤバい部屋を覗いてください。

ずっと大爆笑の会場。お客様にあった話をするのがいいなと言う鯉枝師匠のネタのチョイスもばっちりハマってか、鯉枝師匠と会場は最初から最後まで息がぴったりでした。

トリは笑福亭里光師匠。みじかいらくごは今日も絶好調？！

演目は、『かんしゃく』。明治末にできたお噺。
前々回の『替り目』、前回の『もう半分』に続き今回も「あまり好きじゃないんですよね」とつぶやく里光師匠。ヨセゲーの常連さんは「またかーい！」と大爆笑。続けて里光師匠は「時代の感覚にあっていない内容を、どういう気持ちで、最後まで演じ切るかが難しい」と本音をポロリ。いやはや本当に難しい点ですよね。

ちょっとでも気に食わないところがあるとすぐに癇癪を起して、奉公人たちや妻・静子を怒鳴り散らす亭主。耐えかねた静子はお暇をもらい故郷に帰るのですが、実父からうまくやるアドバイスを言い渡され…。

旦那が声を荒げるシーンは、ほぼ旦那のひとりセリフで噺が進みます。しかし、里光師匠の間の取り方と気配の作り方から、小言を浴びせられる奉公人たちの「やれやれ」「またか勘弁してくれ」という様子が手に取るように伝わってきます。ひとりの人物の存在を際立たせることで、周辺の情景や気持ちまで浮かび上がらせるのはさすがの技。
噺の終盤では、旦那の様子が変わり、「かわいいところあるじゃん」と、会場は先とのギャップに笑いがどかどかと沸き起こります。

今回も「この演目、好きじゃないんだよね～」と言いながらも、会場を虜にした里光師匠でした。

いろんな揉め事を通じてさまざまな人間像に出会えた会

あんな揉め事、こんな揉め事を潜り抜けて、無事に終演。ごたごたの中にこそ見える人間の本性が垣間見える会だったように思います。落語の世界の住人のみなさん、揉め事の当事者のみなさんの気持ちはよそに、「家政婦は見た！」ばりに、覗き見してしまったような気持ちだからこそ笑えるのかもしれませんね。いや当事者だったら一大事！ まさにこんな揉め事いやだ！

最後はみんなで、いつも通り、ハイ、チーズ！　今回も遊喜師匠はハメさせていただきました。ところで、傳枝師匠が手に持っている缶詰は？！

次回は10月17日で、テーマは「リンク落語」。
なにやら落語が次々とリンクをしていく即興勝負の企画とのこと！…むむむ、これは即興のドキドキを現場で味合わないとですね。もちろん配信でも一緒にドキドキしましょう！ 次回もお楽しみに！

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伝枝ひとり噺
2024年10月4日(金) 18:30開場、19:00開演
＠山野楽器 ヤマノミュージックサロン池袋
料金：前売2000円、当日2500円
予約：t_koinosuke@hotmail.com

柳昇一門会
2024年11月7日(木)、11月8日(金)各日18:20開場、18:45開演
＠北とぴあ3階　つつじホール
料金：前売3500円、当日4000円
予約：イープラス「柳昇一門会2024」で検索