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②入門~師匠五代目桂文枝と歩んだ道:桂枝女太

桂枝女太

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別れを経験するには、出会いが必要。五代目桂文枝師匠が亡くなる28年前、桂枝女太師匠は入門しました。五代目桂文枝(当時、小文枝)師匠に入門したいと思った理由や、入門の経緯を言葉にしてつむいでいただいています。

関西大倉高等学校・オチケン時代のエピソードもあり、今回も読み応え十分です。お楽しみください。

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入門

私が師匠の落語に憧れて入門したのが1977年1月1日。別に正月早々から入門を頼みに行ったわけではない。

中学3年生の頃から落語にはまり、その頃からプロになる決心をしていた。

弟子入りをしてしまえば師匠の言うことが絶対になる。弟子は一切口ごたえできないし、自由や権利も大幅に削られる。

しかし入門前は逆だ。師匠を選ぶ権利は弟子になろうとする者にある。誰を師匠に選ぼうと自由だ。

私は弟子入りするなら桂小文枝師匠(後の五代目桂文枝)と決めていた。なぜかといわれても答えようがない。とにかく師匠の落語が私の中にストンときたというか。中学を卒業したら即弟子入りと考えていたが、父親の説得もあり高校だけは行くことにした。

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私にとっての高校は勉強のために行くところではなく、あくまで落語家になるためのひとつのステップにすぎなかった。当然クラブ活動は落語研究部、略して「落研(オチケン)」。自分で言うのもなんだが、落研での私の活躍は相当なものだった。1年生の後半から部長代理、2年生になると上級生がひとりしかいなかったこともあるが実質部長に。

素人参加番組にも何度も出演した。

とくに毎日放送テレビの「素人名人会」には中学生のときも含めて3回出た。西川きよし師匠の司会で、小文枝師匠は審査員として出演していた。

まず予選がある。私も2回目までは予選を受けて出演した。しかし3回目は局のプロデューサーから直接出演を依頼された。

また当時大阪府下の高校のオチケンが集まった「上方落語寄合会」という組織があり、私が六代目の会長に就任した。高校生の集まりといってもバカにしたものではなく、年に2回北浜の三越劇場で定期公演も行っていた。いわば私は高校生レベルで上方落語のトップに立ったのである。今から思えばこのときが私の人生の絶頂期だった。自慢話はここまで。

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1975年8月、高校2年生の夏休みのある日父親が

「明日京都花月へ行くから」

「はぁ?なにしに?」

「小文枝師匠に挨拶に行くねやがな」

「挨拶・・・?」

「もう弟子入りを承知してくれたはるから」

「・・・・・?」

まだ高2である。1年半以上高校生活が残っている。入門の意思は固かったが、それは卒業式を終えた後、直接家に伺うなり仕事先で出待ちするなりしてお願いするつもりだったのだ。当然最初は断られるだろうが、覚悟を決めて行けばなんとかなると思っていた。

しかし父親はそうではなかった。私の父親は生まれつき足に障害があり歩けないことはないが杖を頼りに、それもかなり無理な歩き方しかできない。身体が思うように動かせないからなのか、どんなことでも先々を考えて行動していた。いわゆる段取り屋である。

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その父親が伝手を探して師匠に入門をお願いして承諾を得たのだ。私のまったく知らないところで。なんとも言えない複雑な気持ちにもなったが、話しがついているのならこんな楽なことはない。有難くその話しに乗ることにした。

新京極にあった京都花月はかなり古い劇場で楽屋もお世辞にも立派とは言えなかったが掃除の行き届いた楽屋の畳の上に緊張のかたまりになって正座をしていた。憧れの師匠を目の前にしてなにを言っていいのかもわからない。挨拶はしたとは思うが覚えていない。

ただ師匠の方から「学校を出てから正式な弟子にしてあげるさかい」と言われたのは覚えている。「よろしくお願いします」この一言しか言えなかった。

つまり私は師匠に一言も「弟子にしてください」とは言っていないのだ。落語家の数だけ弟子入りの仕方もあるわけだが、こんな弟子入りの仕方は相当珍しいのではないか。

もう一度言うが私は師匠に弟子入りのお願いを直接はしていない。本来なら師匠が承知してくれているとしても、一言ぐらい自分の口から弟子にしてくださいと言うべきだったのだが、そんな礼儀も知らない世間知らずの高校生だった。

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次回予告

桂枝女太師匠の次回コラムは、6月26日20時公開を予定しています。高校卒業を目前にした元日、高校生の枝女太師匠は五代目文枝師匠のご自宅にお年始にうかがいます。その時に何があったでしょうか?お楽しみに。

桂枝女太師匠はFacebook(https://www.facebook.com/shimeta.katsura)も随時更新中。こちらも要チェックです。