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④初高座~師匠六代目笑福亭松鶴とわたし:笑福亭鶴光

笑福亭鶴光

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笑福亭鶴光師匠の初高座は、新世界新花月。労働者の街ですから、客席も荒っぽい。なかなか自分の落語を聞いてもらえない若き日の鶴光師匠の悔し涙と、見守る六代目笑福亭松鶴師匠の提言。道しるべとなる師匠からの言葉を胸に、再び高座に臨みます。

常にニュートラルで温かな人柄の鶴光師匠の原点は、ここにありました。現在、迷いのある演芸人・舞台人の大きな参考になること間違いなし。今回も必見です。

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初高座

松鶴師匠は自分の奥さんの事をいつも「あ~ちゃん」と呼んでました。かぁちゃんの【あ】を取った所謂甘え言葉。弟子もいつの間にか「あ~ちゃん」と呼ぶように。

始め師匠は「わしの嫁はんを心安くあ~ちゃんと呼ぶな」と怒ってましたが、その内あきらめてクレームをつけなくなりました。弟子が初めて師匠に勝った。

因みに米朝師匠の事を弟子は「ちゃぁちゃん」と呼んでます。酔っぱらった後輩が6代目松鶴師匠を「ロクちゃん」と呼んでひっぱたかれたそうですが(笑)

そのあ~ちゃんが初高座初日の三部公演の三回目に来てくれました。

「実はな師匠も来たかったんやけど、弟子の落語聞くとドキドキして心臓に悪いからフグ屋で待ってるから連れといで、とこない言うたはったさかい終わったら一緒に行こう」

正に幼稚園児のお遊戯を見る父親の気持ちやな。貧乏やのに無理して高級なフグ屋さんに招待してくれた。

「おめでとう、よう頑張った。しかしこれが第一歩、これからが勝負や。わしはタレントを育てる気は無い、落語家を育てたいんや」

この師匠の言葉に背いて少しの間タレントまがいの仕事してましたが、今はお蔭さんで落語道に戻れました。あのまま、あのけものみちへ入っていったらどうなったのか・・・

先人達の末路を見てると冷や汗が出ます。あの時初めて食べたフグ、美味しかったなぁ。

新花月から神戸松竹座、そして角座と言うのが出世コース。まぁ噺家の場合は中々角座まではいけない。年に一回大御所松鶴師匠や三代目春団治師匠が出ます。

ある時春団治師匠が高座で一席やってると、一番前に座ってたお客様が

「うまいなぁこのおっさんは、頑張れよ。いずれ角座に出れるぞ」

もう出てるちゅうねん。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

初舞台3日目までは、誰も聞いてくれない。しかも「やめ、やめ」の連発。何の為に辛い修行をしてここまで来たかわからん。悔し涙が後から後から溢れました。

四日目の朝、フグのお礼を兼ねて師匠とへ行き悲惨な状況を説明すると、

「お前な、心の中で労働者をさげすむ気持ちがあったんと違うか?それが自然とお客様にも伝わるから聞いてくれないんや」

目からうろこが落ちました。その日高座に出たときは、

「この度初舞台を皆様のお蔭でつとめることが出来ました。未熟者でございますが今後ともよろしくお願いい致します」

と挨拶したら

「お~頑張れよ~。応援するぞ」

「早う松鶴みたいになれよ」

大声援。

やっぱり師匠は有難い。暗がりに灯りを灯してくれはった。

昔は漫才の人も、付き人をして色々楽屋のマナーを学び取った。残念ながら現在は養成所の形を取るようになったから、自由に行動出来る。利点はあるかも分らんが困った時、つまずいた時、道しるべを差し伸べてくれる存在が有る無いで大違い。

だから研究生出身の漫才の人が色んな問題を起こした時、親身になってくれる相談相手がいないのが現実。無駄を経験することが、後に有益につながる。

ある東京の噺家が修行時代に愚痴をこぼしたそうです。「毎日毎日、掃除洗濯食事の世話。こんな事が一体何にあるんだろう」と。

でも結婚した時に初めて分かったそうです。「あ~こういう事だったのか?」あんた奥さんのお尻に敷かれてまんのんか?

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