ドラマ『どてらい男(やつ)』の出演オファーがあった六代目笑福亭松鶴師匠。高座一筋の六代目笑福亭松鶴師匠は断ると思いきや、二つ返事で快諾です。その時、そばにおられた若き日の笑福亭鶴光師匠に松鶴師匠は出演を決めた理由を話してくださったそうです。
今回は他にも六代目笑福亭松鶴師匠のお茶目なエピソードが満載です。六代目笑福亭松鶴師匠の人柄に触れられる一本です。お楽しみください!
言い訳
ドラマの出演が決まった時に私に言い訳がましく
「ドラマはお芝居、落語も独り芝居。両方とも共通点がある。その点仁鶴は仁鶴。隆子の夫婦往来と言うテレビ番組を嫁はんとやっとる。噺家は一人で仕事するもんや」
そういう松鶴は、晩年ABCテレビで『松鶴あ~ちゃんの思いでバンザイ』と言う番組を夫婦でやってました。
それにしても仁鶴兄貴の売れ方はすごかった。師匠とタクシーに乗ってるとドライバーの方が
「松鶴師匠ですか」
「あ~そうですが」
「いやぁこんな有名な方をお乗せして光栄です。そらそうと、そこそこのお年みたいですが仁鶴さんの何番目のお弟子さんですか」
「わたい、そんなえらい人知りまへん」
地方へ行っても笑福亭松鶴出演の上に、倍ぐらいの大きな字で「仁鶴の師匠」と看板には書いてある。
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五階の会場へ向かうのに、一緒にエレベーターに乗ったらお客さんが二人乗り込んで来まして
「おい!本間にこんな田舎に仁鶴が来るのんか?」
「もう一辺チラシ見て見い」
「あ~やっぱり騙された仁鶴やない松に鶴、偽者やもう帰ろ帰ろ」
二人が降りたあと師匠が目に憎悪を浮かべて手を震わせながら
「なぁ知らん人も居てはんね」
その後六代目が
「7代目松鶴は仁鶴に譲ってわしは松緑と言う名前に変えようと思う」
「私はどうなります」
「お前は松竹(しょちく)を継げ」
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丁寧にお断りをすると
「私は八代目でもいいので松鶴を継承したい」
「お前の気持ちも分かる。でもこの松竹は大きな看板の名前やから一応保留と言う事にしておこう」
三か月後、新弟子が入ってくると直ぐに松竹と芸名をつけた。
私も一寸憤慨しまして
「師匠、私が断ったからと言うてまだ入門したての子に、そんな大きな名前つけんでもよろしいがな」
と軽くクレームをつけると、笑いながらこうおっしゃいました。
「あれはしょちくやなしにまつたけと読む」