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⑫無謀~師匠六代目笑福亭松鶴とわたし:笑福亭鶴光

笑福亭鶴光

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嘘を吐くようになった六代目笑福亭松鶴。しかし、奥様である「あ~ちゃん」は気丈に振る舞いました。ついには……。こんなんアリかいな……。

笑福亭鶴光師匠の笑いあり涙ありのエッセイコラム、第12回のスタートです。いやはや、本当に鶴光師匠お疲れ様です…。六代目笑福亭松鶴師匠って……。

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無謀

あ~ちゃんで4人目の嫁はん。後日落語家を廃業した息子が5人目と結婚して、親父を抜いた言うて喜んでましたが、芸で抜け言うね。

新町の一流芸者だった奥様、芸者をやめて今里新地で小料理屋を経営してまして、そこへ頻繁に通ってたのが六代目松鶴。どっちかと言うと美女と野獣、普通は結ばれる訳がない縁結びの神様が間違わない限り。

何で一緒に成る事が出来たのか???ごもっともな疑問にお答え致しましょう、

今里が台風で浸水した時にあ~ちゃんは二階で避難してた。そこへ胸まで水に浸かった師匠が

「お~い寿栄、(奥様の本名)寿司持って来てやったぞ」

そら惚れるわな。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

そんな大恋愛の夫婦だったんですが、ガールフレンドが出来た途端にぎくしゃくし出した。でもあ~ちゃんは色街出身やから半ばあきらめて大目に見てた。

それを良え事に、酔うた勢いで家までその女の子を引っぱっ来たんですな。ここまで行くともう洒落では済まん。

「師匠私とても入れません、ここで失礼します」

「上がったら良えがな、わしが死んだらこの家はお前の物や」

ようそんな無茶苦茶言うわ。

あ~ちゃんは偉かったな。

「どうぞお上がりください」

弟子に酒肴の用意をすぐさせて、元芸者ですから三味線が弾ける都々逸まで唄って場を盛り上げる。噺家の嫁はんは、ここまでせなあきまへんのやろな。正に芸人の女房の鑑。

うちの師匠も酔っぱらって自分の家か料理屋か分らんようになってたんやな、その場で酔いつぶれ寝てしもうた。ガールフレンドが

「師匠、私もう帰りますから」

起き上がった松鶴が寝ぼけ眼で自分の嫁はんに

「おばはんお愛想」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その後あ~ちゃんと彼女が仲良くなりまして、旦那と三人でディスコに行くような仲になった。私もお供で付いて行くと前に松鶴を挟んであ~ちゃん、彼女と座ってる、けったいな関係。

師匠も照れて向かいに座ってる私にばっかり語りかけてくる。音楽がやかましいのと、舌がもつれて、何を言うてるさっぱり解らん。でも適当に合わせて頷いてると、私の隣に来た奥さんが、

「わて、隣に居っても何を言うてるか、解らんのに、あんたよう理解できるな?」

長い付き合い弟子と師匠は以心伝心。

あ~ちゃんがやきもち焼き始めた時に、落語の『りんきの独楽』を稽古してもらいに来た後輩が居る。あのネタは二号さんを持った亭主に本妻が嫉妬する話。

その稽古を聞いてたあ~ちゃんがボソッと

「わてに あてつけか?」

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