座布団1枚あればどこでもできるのが落語。
しかし、落語家である月亭天使さんにも落語がやりにくい場所があるそうです。
そのひとつにはなんと月亭天使さんが好きな銭湯に関係する場所も…?!なかなか聞くことのできない落語の裏側のエピソードは必見です。今回もお楽しみください!
露天風呂
2020年はコロナのおかげで、ほとんどの落語家が二ヶ月ないし三ヶ月、自宅待機を余儀なくされました。まさか、こんな状態になるとは誰が予想したでしょうか。
今まで、落語がやりにくい場所、笑いがおきにくい場所でやらせて頂いたことありますが、落語が全くできない日々が訪れようとは思いませんでした。
落語がやりにくい場所…それは、結婚式の披露宴、夏祭りの櫓(やぐら)、流れるプール、そして露天風呂ではないでしょうか。
結婚式の披露宴は、一見、やりやすそうに思えますが、久しぶりに会った親類や会社の同僚、取引先の社長なんかが集う可能性があります。席を移動し、挨拶や乾杯をしなくてはなりません。しかも、円卓。
参列者は落語を集中して聞くことが難しい状況にあります。それでも、新郎新婦が「プロの落語家さんやったら、ぜひ、披露宴で落語やってやー」とありがたい言葉をかけてくれます。私が数々の先輩から聞いた、古からの教えによると「披露宴で落語をやる際は、落語をやってはいけない」というものでした。
なんじゃそら?ですが、私たちは「落語」=「ネタ(「寿限無」等の噺)」と思っていますが、新郎新婦や他の参列者は「まくらのようなもの」+「あの人はプロの落語家さんだ」=「落語」と思っています。多分…。
なので、披露宴会場で意気揚々とカミシモを振っては(噺を語る最中、顔を左右に振って、登場人物を描き分ける手法)いけないのです。肉料理にナイフを入れている新婦の上司は、今、登場人物の誰が喋っているかわからなくなるのです。もちろん、音声だけで落語は理解できるのですが、ここは、「夫婦円満の秘訣」とかけて、「空手のデモンストレーション」と解く、その心は「板割り(労り)が大事でしょう」という謎かけと、南京玉すだれが盤石です。
この教えを胸に、私は披露宴会場には南京玉すだれを携帯していきます!
次に、夏祭りの櫓。言わずもがなでしょう。騒然とした中で、噺の空気を作り、聞いている皆様をストーリーに引き込む。そんなの無理です。かなりのハードジョブです。
ただ、逆にレアな経験のため、普段の落語会で面白おかしく話せるという点では、ある意味、憧れではあります。昔、とある師匠が、盆踊りの最中に、謎かけを披露するという、謎の仕事をやられたそうですが、聞いてくれないお客様に呟いた呪いの言葉すら、誰も聞いてなくて助かったとおっしゃっていました。
流れるプール。なぜ、そこで落語を、謎かけをやらそうと思ったのでしょうか。すでにプールという娯楽を楽しんでいる方々に、娯楽の過剰攻撃。もしかして、娯楽が多すぎて、これからの時代は、娯楽と娯楽を掛け合わせる必要があるのでしょうか。とにかく、仕込みやボケを聞いただけで流れていく人々…。もしかしたら、オチ聞きたさに二周するという楽しみがあるのか?今度は自分が流れる側になって検証してみたいと思います。
そして、テーマである、銭湯に関係する露天風呂。
以前、銭湯の脱衣所で落語会をやっていた話は書いたと思いますが、これは本当に露天風呂での話です。某世界の温泉が楽しめる施設でのこと。
もちろん、女性の落語家は女風呂、男性の落語家は男風呂で落語をすることになっていました。流れるプールと違い、湯船に浸かっている時はやることがないからというのが始まりだったと思います。お風呂に浸かりながら、落語を聞く…悪くない気はします。
もちろん、私たち落語家は着物を着て喋ります。お客様は裸ですが、バスタオルを巻いているので、特に気になりません。いや、たまに、ナイスバディな方がいると思春期の男子のようにドキドキしたりはしていました。男性風呂で喋っていた男性の落語家に聞くと、高座が作られている場所が、ちょうど腰をかけて湯冷ましするのに最適な高さだったらしく、出囃子で出て行った瞬間、自分の目の前に裸のお尻が三つ並んでいたそうです。
露天風呂は冬場は寒かったものの、お客様は結構、熱心に聞いてくださり、今、思うと、いい勉強をさせてもらいました。
そういえば、寄席つむぎでもお馴染みの露の眞姉さんとご一緒した時、ボーイッシュな眞姉さん(しかも、お姉さんは、着物が男仕立て)を見て、洗い場で体を洗っていた外国人観光客の方がびっくりして「ゲラウェイ!」と叫んでいた。そのあと、「ガール!」「ガール!」とアピールするお姉さん。なかなか、忘れられない光景でした。
やっぱり、ネタの調達のためにもいろんな場所で落語をやりたいと強く思います。