大阪ではせっかちな人のことを「いらち」と呼びます。六代目笑福亭松鶴師匠もたいそうな「いらち」だったようで。豪快なだけでない六代目笑福亭松鶴師匠も、人間臭くてまた魅力的です。
今回は笑福亭鶴光師匠に、六代目笑福亭松鶴師匠のいらちエピソードをつづっていただきました。笑福亭鶴光師匠がしたささやかな「復讐」も?お楽しみください!
いらち
いらちとせっかちな人のことをいいます。落語に『いらちの愛宕参り(堀之内)』『いらち俥(反対俥)』と言うのが有ります。
いらちの典型が松鶴。車の運転をしてる時に、こんなことを言うんです。
「この信号を青で渡ると次が黄色それを過ぎると今度は青で次が黄色」
家に帰る時間はそんな慌てても10分も変わらん。横でヤイヤイ言われると運転がしにくい。
名神高速道路で酔っぱらって説教され、そのまま師匠が寝てしまった。腹の虫の納まらない私はここぞとばかりに急ブレーキ。松鶴は頭をフロントガラスにゴツン。
「痛い何をさらすね」
「すんません、今おばぁさんが急に飛び出して」
「高速道路におばんが飛び出すか」
頭を殴られました。
今度は坂道。丁度カーライターでタバコに火を付ける寸前、又急ブレーキをかけた。松鶴のでこにカーライターのニクロム線が。
「熱う~このボケ」又頭一つボコン。
この事件を後日弟弟子にこういったそうです。
「鶴光は危険人物、説教するとわしに復讐しよる」
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私は何もしていない時もあります。
大阪の毎日放送(その当時は吹田市)へ行くのに高速道路走ってると、石を撥ねてフロントガラスにヒビが入った。思わず車を左に寄せると、上方落語協会会長の松鶴はおびえた声で
「気を付けよ、誰かがわしを空気銃で狙うとおる」
誰が狙うかいな。あんたはゴルゴ13の敵やない。第一空気銃で人が殺せるか?スズメやないねんから。
高速道路といえば、こんなこともありました。
タクシーに乗って高速道路を走ってて、ドライバーさんと喧嘩に成った。理由は阪神タイガースファンの松鶴と巨人びいきの運転手さん。とうとうここで降ろせと無謀にも高速道路の路肩を歩き出した。
皆ビックリ。ハイウエイを着物着たおっさんが歩いてるのやさかい。通りかかった仲間の芸人さんに拾うてもろうて事なきを得ました。
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師匠の初代運転手をしてたのが兄弟子の笑福亭花丸兄さん。ある時車を自分の家に持って行きどこかでぶつけたんでしょうな。へこませてしまった。
それが言いづらかったのか、
「家の前の止めて置いたら、わらび餅屋のおじさんが屋台をぶつけたんです」
と言い訳。松鶴が表に出ると車は悲惨な状態。
「わらび餅屋がぶつかったんか」
「はい」と兄弟子
「これだけの勢いでぶつかったら、そのわらび餅屋のおっさん死んだやろ」
花丸兄さん絶句。
この兄さんの奥様は美容院を経営してまして、ある日師匠が電話すると美容師の見習いが電話を取ったそうです。
「あ~松鶴やが花丸居るかいな」
「はい!しばらくお待ちください(遠くで)花丸先生 松鶴から電話です」
松鶴「・・・・・」
今度は内の師匠が絶句しました。