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⑱お茶目な米朝~師匠桂米朝と過ごした日々:桂米左

桂米左

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人間国宝の桂米朝師匠。同年代の六代目笑福亭松鶴師匠とは真逆のキャラクターの印象を抱かれています。しかし、お弟子さんの前ではユーモラスな一面もあったそうで。そのことについて桂米左師匠に振り返っていただきました。

弟子だからこそ知る桂米朝師匠の姿、必読です。お楽しみください!

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お茶目な米朝

師匠米朝はというと一般的には大学教授みたい、銀行員みたい等々、お堅いおよそ芸人とは程遠いイメージを持たれていると思います。

そのイメージ正解です。家で原稿を書いてはる時なんかは文学者が執筆しているような感じですし、稽古を付けて頂いている時は厳しい教育者そのものです。

ただ皆様のイメージ通りの米朝とは違う米朝を我々は見ています。側に居てた弟子の特権です。

地方に行って会場近くの食堂に入った時なんか我々弟子は戦々恐々です。

よくその食堂のオリジナルメニューなんか置いている時があります。

そんなメニューを見ると弟子は「こ、これは…」と額を一筋の汗が流れます。そこには「当店自慢!和風カツ丼・洋風カツ丼・中華風カツ丼」の文字が…。

師匠はそういうのを見ると興味津々で「お、こんなもんがあるで」と…。

どんなんか見たいのは丸判りで、けどそれは表には出さず「こんなんどうや」と弟子に勧めはります。この時点で弟子はもう和風カツ丼を頼めない。「師匠はどれにしはりますか」「ワシか、ワシは和風カツ丼」では洋風カツ丼・中華風カツ丼と続く。テーブルに並んだ3つのカツ丼を見て「やっぱり和風が正解やな」…そらそやろ!人体実験の一幕でした。

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どんなもんか見たいというのがもう一つ。

お昼を食べよかと町の定食屋さんに入った時の事。その店で一番安いのが生姜焼定食。

師匠が「ワシ生姜焼定食にするけどおまはんどれにする」…それより安いものが無いので同じものをと言おうとした時「このミックス定食というのんどうや。具が多うて美味そうな」…煮売屋やないねんさかい。

このミックス定食なるもの、その店で一番高い定食。

出てきたミックス定食にはハンバーグ、エビフライ、コロッケ、唐揚げ、生姜焼と定食の定番がズラリ。

「なるほどほんにミックスやな」と納得してはりました。

師匠が一番安い定食、弟子が一番高い定食…味しませんでした。

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家に伺った時「ちょっと熱っぽいんや」と、心配です。「医者は」「医者行くほどやないんやがな。おまはん知ってるか、金箔は熱を下げるんや」

へえーと思てると傍らの引出しから金箔を取り出して…こんな家ありますか、引出し開けて金箔があるやなんて。

薄い金箔をつまみながら「狸の金玉八畳敷と言うのはな、狸の皮を使った道具で一匁の金を八畳の広さに延ばすんや。でこんな言葉が出来たんや」

何でも知ってはるなこの人はと見ていると、その金箔を額に貼り頬に貼り、まともに顔見られませんでした、笑ってしまいますので。けどその顔見ながら思いました。

「ウワッ!ほんまもんの国宝や!」

私が入門した頃には師匠はもう入歯をしてはりまして晩年は総入歯でした。

これまた家に伺った時「米左っ」「はいっ」。

師匠を見ますと入歯を出してまた入れて

「ワシ、はなしか!」

ひっくり返りました。

米寿を間近にした人間国宝・文化功労者・文化勲章が私だけのために身体を張ったギャグをしてくれはりました。

そんなお茶目な師匠、大好きです!

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