古い物を大切にする職業の一つが、落語家ではないでしょうか。その古い物を大切にしつつ、新しい物を生み出していくのも落語家です。新しい物を生み出していくには、後進の育成が重要になってきます。
今回は笑福亭鶴光師匠に人材育成の基本と、六代目笑福亭松鶴師匠がベースになった小噺についてつづっていただきました。笑福亭鶴光師匠の育児への想いにも触れていただいています。
松の木
日本人が好きな俳優はとの問いに、芸能人が答える人物はだいたい3人です。チャップリンとハロルド・ロイド、そしてバスターキートンと三大喜劇王と言われた方。
この方々、主演・監督・脚本・プロデユーサー・作曲と正に今でいうマルチタレント。
このチャップリンの気分になってたのが、漫才の鳳啓助さん(元の奥さんで生涯相方を務めた京唄子さんがそう言うてました)。
脚本家としても活動しており、志織慶太と言う名前で芝居も書いてました。
ラジオの収録の本番前に漫才の台本を啓助さんがその場で書き、それを唄子さんが読んで、そのまま客席で爆笑させる。
こんな事が出来たのは噺家では、柳家金語楼師匠只一人。
戎橋松竹(ここの支配人が後の松竹芸能の社長勝忠夫)に出演した金語楼師匠。昼の部に出てお客様から三つお題を頂いて、それから夜の部までに京都で映画を二本撮り帰って来て先ほどの三題(いわゆる三題噺)これでもって大阪のお客様を大爆笑さした(故春風亭柳昇師匠の証言)。
まさに天才ですな。
今東京でやられてる新作はほとんどが金語楼作(ペンネーム有崎勉)。私も『ラーメン屋』と言う落語をやらさせて頂いております。
温故知新、先人たちにもう一度感謝の念を持たないけませんな。今の我々のやってる小さい事猛反省、落語も良い面を残して少しずつ進化していく。
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進化と言えば子供は段々進化していく。だから親も大変。
男は仕事にかまけて育児を助けようとしないこれを育児なし(意気地なし)。子供を叱る親が少なくなってきた。先生は叱ってくれない。下手に手を出すと暴力教師とののしられる。
やはり、父親が怒るのが一番ええと思うなぁ。叩く事も必要、でも叩きっぱなしではいかん。
その後、ぐっと抱きしめて、「叩かれたお前のほっぺも痛いやろうけど、叩いたお父ちゃんの手はもっと痛かったんやで」と諭せば子供は何かを感じてくれるかも。
お年寄りは子供の接し方が上手いね。子供が空に浮かんでる月を取ってくれとせがむ、不可能な話やけど、お年寄りはこんな答えを持ってる。池の水を手ですくって月にかざすと手の中に月がうつってる。
「ほら取れたやろ」お年寄りの知恵は馬鹿にしたらあかんな。
ここで松鶴にまつわる、有名な小話。
内の師匠は大正生まれですからいわゆるスパルタ教育。借家ですが小さな庭が有って、松の木が一本植わってました。
子供が悪い事をしたらその木にグルグル巻きに縛り上げて青竹でピシーピシー。子供は鼻血出してる。
「師匠それ以上やったらその子死にまっせ」
「ほっとけこれ隣の子や」
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松の木でもう一つ。
除夜の鐘が突き終わった頃、浪曲の名人先代の京山幸枝若先生の家に6代目がやって来てガラッと戸を開けるなり
「おめでとうさん」
喜んだ先生が
「うわぁ正月早々松に鶴やなんて縁起がええなぁ、何ぞ用事か?」
「金貸して」
断れん様にする名人でもありました。
次回予告
笑福亭鶴光師匠の次回のコラムは、12月7日20時配信予定です。次回はどのようなエピソードが飛び出すのか、今からワクワクしますね。お楽しみに!
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