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【緊急寄稿】落語の未来:桂枝女太

桂枝女太

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昨年から始まったコロナ禍で、演芸界は混乱中です。最初の緊急事態宣言から繁昌亭や喜楽館の客席は半分、周辺の地域寄席もそれにならいます。こうなる落語家は大変です。

この大変な状況に桂枝女太師匠は何を感じられたのでしょうか。また桂枝女太師匠の落語界の未来に向けた提言とは。この状況を知ってください。そして、一緒に考えていただけないでしょうか。

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落語の未来

新型コロナウィルスの感染拡大で、劇場や映画館をはじめ野球場や大型の商業施設も軒並み閉鎖や人数制限がかけられた。寄席も例外ではない。

前回紹介したように関西には大阪の天満天神繁昌亭と神戸の新開地・喜楽館というふたつの寄席があり、演芸場としては吉本興業のNGK(なんばグランド花月)などがある。

これらも当然客席の人数制限をしている。緊急事態発出時には閉じてもいる。

常識的に考えて黙って見ているかぎり寄席や演芸場で感染することはまず無いと思えるし現実にクラスターも出ていない。しかし人の流れを抑えることが目的と言われれば協力せざるを得ない。上方の落語家全員に聞いたわけではないが、絶対興行を続けるべきだと主張している落語家はいない。みんな仕方ないことだし、しばらくの辛抱だと思っている。

そう、しばらくの辛抱。歴史的にも感染症が10年も20年も続くことはない。長くても数年、もうすぐワクチンも行き渡るだろうし近いうちに特効薬もできるに違いない。普通に考えてあと1年ぐらいか。

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しかし問題はそこにはない。たしかに感染症は収まるだろうが、それで寄席にお客さんが戻ってきてくれるのか。また以前のように満席の中で落語ができるのか。

世の中にはたくさんのエンターテイメントが溢れている。映画、演劇、ライブ、コンサート。またスポーツやテーマパークもある。

コロナが収まり、そういった施設が解禁されれば観客で溢れるところもたくさんあるだろう。ジャニーズ系のコンサート、プロ野球やJリーグ、USJにタカラヅカ。

しかし寄席はどうだろうか。

「今は行かれへんけど、コロナが収まったらまた聴きに行くからな」

「独演会せえへんのん?半分でもええやんか。やるとき言うてや、絶対行くから」

私のご贔屓さんはみんなそう言ってくれる。そして実際に足を運んでくれるだろう。でもそこまで落語を待っていてくれる人がどのくらいいるのかとなると、ひじょうに心もとない。

別にコロナの影響で悲観的になっているわけでも気持ちが病んでいるわけでもない。これだけ心配するのにはちゃんとした理由があるからだ。

コロナ禍では寄席のお客様は少ない。入場人数を半分に制限しているが実際の客入りはそのまた半分、つまり全体の4分の1ほどだ。コロナだから仕方が無い、そうたしかにコロナというもののために大幅に客数が減った、それは事実だ。しかしそれは単なるきっかけであって実際はコロナの前からジリジリと客数は減っていたのだ。

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東京の寄席は落語がメインとはいえ落語会というより演芸場的な要素が大きい。関西で演芸場といえばよしもとのNGK。漫才や吉本新喜劇がメインだ。

では繁昌亭はどうか。色々な色物が出てくる演芸場というよりは落語会だ。色物もあるにはあるが全体の2割ほど。繁昌亭や喜楽館は落語の定席をという上方落語家の夢を実現させたものなので当然落語を聴いてもらう場という認識だ。とにかくお笑いならなんでもいい、できるだけ笑いたいというお客様はよしもとへどうぞ、そんな感じ。

これでは昼席で200人のキャパを毎日満員にする、つまり年間で7万人のお客様に来てもらうことなどできない。夜席も入れれば14万人。繁昌亭と喜楽館両方なら28万人。甲子園なら7試合で到達できる数だが・・・。

そうは言っても繁昌亭も喜楽館も落語の聖地という看板ははずせない。繁昌亭は多くの落語ファンの方々の善意の寄付でできた。喜楽館は公的資金、つまり税金が投入されている。どちらも上方落語という文化を守り発展させていくために落語ファンそして市民の人たちの想いで実現したものだ。やはり基本は落語を聴く場として盛り立てていかなければならない、当然のことだ。

ではどうすれば落語で人を惹きつけることができるのか。落語家一人一人が腕を磨くとか精進するとかは当然として、やはり看板が必要だ。そこで若手の育成に力を入れている。

「繁昌亭から若手落語家のスターを」これは繁昌亭生みの親でもあり前上方落語協会会長の桂文枝師が常々言っていたことで、それなりに手段を講じているのだがなかなか一朝一夕にはいかない。しかしこれは絶対にやり遂げなければ上方落語に明日はないと思っている。

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上方落語四天王(六代目笑福亭松鶴、桂米朝、三代目桂春団治、五代目桂文枝)の絶頂期を知らない若手、言い換えれば四天王の呪縛に囚われていない人たちの新しいかたちの落語を生み出すことができるかどうか。

断っておきますが、私は四天王を否定しているものではありません。四天王の落語に憧れその魅力にどっぷりと浸かってこの世界に入った者が四天王の作り上げたものから逃れられるはずがない。しかし親離れはしなければ進歩はない。若い人たちは我々よりはうまく親離れができるだろうという期待です。

ただ若い人たちだけに頼ってもいられない。口幅ったい言い方だがベテランといわれるようになった我々も重要だ。若手では出せないものを探り出して存在感を示してこそお客様にも満足していただけると思う。

若手のスターの誕生、そしてベテラン勢の名人芸の確立、おそらく数年単位の時間がかかるだろう。外から見ていると活動休止状態に見える今このときも準備を進めている。当事者の自分が言うのもおかしいが、これからの上方落語界、ひじょうに楽しみだ。

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