芸歴18年目までエントリーが可能な若手噺家グランプリ。出場機会が残り2回になった笑福亭喬介師匠に、色々とお話をうかがってきました。
笑福亭喬介師匠はどんなお稽古をされているのか、今楽屋で話題になっているお弟子さんのこともお話いただきます。お楽しみください!
学生時代に覚えた動画編集が落語にも生きる
――喬介師匠は私と同じ近畿大学文化会落語講談研究会出身だそうで。私は喬介師匠の5年先輩になります。
今も落研の仲間と何人か付き合いがあるんですよ。南龍師もそうですし、吉本でデザイナーをしている同期も。
――それは良いですね。落研時代に身に着けたことで、今も役に立っていることはありますか?
動画編集です。ふじかわさんならご存じだと思うのですが、落研の一門会って梅の家と生駒家(※いずれも落研内の屋号)が合同でやるじゃないですか。その時に他に負けないぐらいおもろいものをやろうというので、動画撮影と編集を始めました。
――人数が少なくて私がいたころに合同になったのに、5年経ったら定番になっていたんですね。
最初は映画部の人に教えてもらって、あとは同期が動画編集をできるパソコンを購入したことから、どんどんはまりました。芸歴より長いですね、動画編集歴の方が(笑)。
――動画編集のコツはありますか?
端的にすることです。ダラダラと「あれもおもろい」「これもたのしい」としていたらしんどくなるんです。それは記憶に留めておいて、思い切ってカット。ほんまにおもろい部分だけを残します。
まずネタを骨子だけにする
――それって、落語にも生かせそうですね。
そうですね。僕は落語を覚えたら、まず骨組みだけにするんです。5分ぐらいの骨子だけにして、自分らしさを足していきます。若手噺家グランプリのネタもそうやって、8~10分にしているんです。自分のものにしないと、絶対笑ってもらえないと思うんです。
――ネタを最もシンプルな形にする理由は?
落語って大衆芸能じゃないですか。その時代時代に即したネタにしていかないといけないと考えています。今の古典も、先人がその時代に合った形にしているわけで。今の古典は、その時からもう何十年も経っている。師匠が時代に合わせて変えたなら、弟子も変えるべきだと思います。
――なるほど。
古いものを大事にしていても、笑えんかったら仕方ないですし。
――ほんまですね。大ネタもシンプルにしてから、組み立てなおしですか?
いえ、大ネタはちゃんと筋で覚えます。物語が面白いから。いつかやりたいと考えているのは、『質屋芝居』と『小倉船』です。どっちも僕のニンに合わないような気がしますが、いつか挑戦したいです。
――意外と合うような気がしますが。どがちゃか楽しい喬介さんに、噺の華やかさもプラスされて。
いつかやりたい『小倉船』はSF
有難うございます。やっぱ『小倉船』の方が一番やりたいかな。いかにも落語といった感じで、現実味がないのに現実味がある。要はSFなんですよね。竜宮界竜の都。ガッツリ理解しなくても楽しめるのが良いです。
――大ネタといえば『七段目』はいかがでしょうか?上方落語屈指の大ネタです。
逆にやりたくないネタです。米團治師匠や他の方がかけておられるのは見ていて楽しいんです。でも、自分がやるかとなった時、どうかな。文楽も芝居も見ますが、内容をガッツリ理解できているかというと自信がない。だから、やりたくないネタなんです。
――分かります。自分がやるとなると、全て把握できていないとお客さんが理解できないかもと不安になるんですね。見た目に反して慎重な性格なんですね。
見た目て(笑)。僕、よくお客さんに明るい人だと言われるんですが、普段は一人でいるのが好きなんです。人見知りですし、みんなでワイワイというより一人で楽しいことを考えている方が好き。
――そんな喬介師匠が好きなネタってなんですか?
『饅頭怖い』です。特に怪談の部分が好きで。『皿屋敷』もなんですが、普段と違う抑えた喋りができるのが楽しいんです。
ヒマなはずなのにヒマじゃなくなった理由
――お稽古は普段どのようにやっておられるんですか?
覚える時は歩きながら。歩きながら稽古をするとリズム感が良くなると言いますが、間を取るのが難しくなるので、稽古は座ってが多いです。寝ころんですることもあります。
――落語のことを一日中考えている感じ?
いえ、他のことを考えることもありますよ(笑)。でも、何をしていても、いつも頭の片隅にあります。
――良いね。でも、コロナでだいぶ仕事がなくなっていると思いますが、モチベーションを保つのは大変じゃないでしょうか。
モチベーションを保とうと考えていません。普段通り。月に1回出番がいただけるなら、それに向けて稽古をして、新しいネタも覚えてという感じで。
――その常に自然体のところが、喬介師匠の魅力かも知れませんね。そういえば、最近お弟子さんが入られたとか。
はい。20歳の女の子です。専門学校を卒業して僕のところに来ました。今は見習いでうちに毎日来てもらっています。掃除して、稽古して、ご飯を食べて帰ってもらう。仕事がなくてヒマなはずなのですが、弟子のおかげでヒマじゃなくなりました。
――お弟子さんがお稽古しているのは『東の旅の発端』ですか?
『犬の目』です。『東の旅の発端』はお客さんが聞いても楽しくないので。弟子ができて改めて思うのが、僕は一人が好きだということです(笑)。弟子が嫌いってわけやないんですが。
今までの賞金の使い道は…
――芸歴17年でお弟子さんを取られるのは早い方だと思います。今まで数々の受賞歴があるからこそかも知れませんね。
うーん……。賞を取ったからといって、上手くなったわけでも偉くなったわけでもありませんし。その瞬間、お客さんを笑わせたという事実だけだと思います。次の日、同じように笑わせられるかというと、多分できないですし。
――賞を取ったことは嬉しくない?
嬉しいです。一番嬉しかったのは、咲やこの花賞大衆芸能部門です。でも、満足してはいません。自分で満足してしまったら、その上がなくなると思うんです。そういう話を、よくうちの師匠の松喬としています。
――いや、でも喜びましょうよ。賞金も出ますし。今までの賞金で何を買いましたか?
使っていません。全部のし袋に入ったまま置いてあります。振り込みのものも手つかずです。もし、今回の「若手噺家グランプリ」で優勝しても使わないと思います。使うとしたら、家賃かな。
――喬介師匠の賞レースとの向き合い方が、賞金の「使い道」で分かりました。腹の決まり方が違う。
優勝して卒業したい
――若手噺家グランプリは、喬介師匠にとってどのようなものでしょうか?今まで3回決勝進出して、準優勝3回と憂き目に遭われておられますが。
優勝して卒業したいですね。来年もエントリーは出来ますが、今年獲りたいと思っています。来年もあると思いたくないですね。
――今回の出場者で気になる方はおられますか?
三実くんでしょうか。僕含めて教科書通りの落語をする中、彼は彼の世界観で落語をしています。若手噺家グランプリのあと、誰にお客さんはお金を払って見に行くかを考えると、独自の世界観を持っている方が強いです。
――若手噺家グランプリの良い点、悪い点はあるでしょうか?
良い点は、寄席に適した短いネタを作れることです。ただこれは諸刃の剣で、これでお客さんが面白いと思ったら他のネタで引っ張ることができません。お客さんが「それはそれ」と分けて考えてくださったら良いのですが。
――そういう心配もあるんですね。最後になりますが、若手噺家グランプリを応援してくださる方にメッセージをお願いします。
優勝や準優勝に関わらず応援している噺家はおられるかと思いますが、応援している噺家以外も見つけてほしいなと思います。この人はこんなネタやったんやって。今はこういう状況ですが、懲りずに少しでも笑っていただけるよう僕たちも色々と考えてお渡しできればと思います。
――有難うございました!
天満天神繁昌亭でお待ちしています!

今回はじっくり笑福亭喬介師匠にお話をうかがいました。学生時代の話も飛び出し、とても楽しい時間を過ごさせていただき、インタビューなのを忘れてしまうほど。いざ落語の話題になると真剣そのもので、とても頼もしく感じました。
笑福亭喬介師匠は7月13日(火)第2夜の出演されます。今から楽しみですね。

第7回上方落語若手噺家グランプリ2021予選会
▲配信もあります
《予選第1夜》
日時:7月6日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂小鯛「親子酒」/月亭天使「H亭の怪談」/桂華紋「八五郎坊主」/桂紋四郎「つる」/桂あおば「キザ男」/桂小留「壺算」/桂弥っこ「向う付け」/露の棗「運命の人」/笑福亭鶴太「平林」
*出演順は当日決定します。
《予選第2夜》
日時:7月13日(火)17時30分(開場17時)
出演:笑福亭喬介「寄合酒」/笑福亭生寿「鹿政談」/林家染吉「壺算」/桂鞠輔「正月丁稚」/桂恩狸「悋気の独楽」/露の瑞「平の陰」/笑福亭智丸「怪談が止まらない」/桂九ノ一「池田の猪買い」/桂笑金「ミスター・スメルバズーカ」
*出演順は当日決定します。
《予選第3夜》
日時:7月20日(火)17時30分(開場17時)
出演:露の団姫「残念さん」/桂そうば「代書」/桂咲之輔「皿屋敷」/露の眞「こぶ弁慶」/桂団治郎「七段目」/桂三実「師匠!」/月亭遊真「真田小僧」/桂おとめ「セールスウーマン」/桂二豆「悋気の独楽」
*出演順は当日決定します。
《予選第4夜》
日時:7月27日(火)17時30分(開場17時)
出演:桂ちきん「押し入れのラベンダー」/露の紫「狼講釈」/桂三語「二人癖」/桂二葉「天狗さし」/林家染八「八五郎坊主」/桂文五郎「七段目」/月亭秀都「茶の湯」/笑福亭笑利「千鳥の香炉」/露の新幸「つる」/月亭希遊「巻き舌職人」
*出演順は当日決定します。
会場:天満天神繁昌亭(〒530-0041 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1−34)
木戸銭:前売1500円、当日2000円
お問い合わせ:06-6352-4874(天満天神繁昌亭)