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前座とタバコ~上方落語家、東京で修業する:笑福亭里光

笑福亭里光

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最近は半袖で過ごせる日も増えて、夏が近づいていることを感じる日々ですね。
今回も笑福亭里光師匠に前座修行についてのエピソードをつづっていただいています!

今回は新宿末廣亭で起きた夏の事件があったみたいです。
夏の前座さんといえば何を思い浮かべますか…?

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タバコと前座

こんにちは。笑福亭里光です。

「お茶くみ」を卒業してサボりまくる!という甘い夢が途端に破れた僕ですが、全くサボれなかった訳ではありません。

それに公認(誰の公認かは未だに謎ですが)の下にサボれることもあったのです。

前座ではない先輩方が食事をご馳走してくれるんです。

お弁当の時もありましたけども、外食させてくれることがあった。

お金を持たせてくれたり、事前にお店に言っといてくれて後で清算してくれたり。

もちろんそういう時は上の者から順番に行くんですけども。

有難かったですね。

前座の頃はお金がない(今も大してありませんが)ので、ロクな物食べてない(今でも大してロクな物食べてませんが)。

それに寄席はいわゆる「食事の時間」に営業しているので、張り付いてなきゃならない前座は食べ損なってしまうんですよ。

特に堂々と外に食べに行ける時は最高に嬉しかった。

いつやったか忘れましたが、新宿末廣亭の席亭(社長)がご馳走してくれたことがありました。

寄席の近所のうどん屋さんでね、ここがまた旨い。

「行列とかで普段から迷惑掛けてるからさ、たまには食べに行ってやってよ、俺が金出すからさ」

その頃はあまり行列してませんでしたが・・いやいや、こんなカッコいい言葉を発してみたいもんです。

その日は立て前座が優しい人でね、たっぷり時間くれたんですわ。

それに社長公認ですからね、誰も文句が言えない。

美味しいうどんをゆっくり味わって、それでも時間が余った。

当時はタバコ吸ってましたから、食事の後に喫煙に行くのは自然の流れです。

近くのビルの地下(屋外)にベンチが幾つかあって灰皿が置いてあったんですよ。

そこで近所のサラリーマンなんか良くタバコ吸いながら休憩してた。

ちなみに今では完全に「喫煙所」になってます。

当時はまだ今ほど禁煙・分煙の意識が低い頃でしたが、それでもタバコ吸いの「たまり場」になってた。

しかもそんなに知られていない「穴場」だったんです。

寄席では前座はタバコ吸えない(っていうか先輩の前では吸えない)ですから、末廣亭に入った時はそこで一服してから楽屋入りするのが日課でした。

「戦場」に行く前に心を落ち着けていたんですね。

僕が前座を乗り切れたのは、あのビルのお陰でもある。

オーナーの方に感謝状を贈りたいくらいです。

その日も当然そこへ足が向く。

夏場は前座は浴衣なんですね。

何月だったかは覚えてないですが、とにかく浴衣を着ていた。

そしたらね、同じように浴衣着てタバコ吸ってる人がいたんです。

え!?ついに同業者に知られたか!ちょっと悲しい気持ちになりかけました。

でもよく見ると知らん人。

平日の真昼間に都会の真ん中で浴衣着てタバコ吸ってるってどういう人やろう??

当然向こうも同じ疑問を持ったんでしょうね、僕のことをジッと見てくる。

我慢できなくなったんでしょう、しばらくして声掛けてきました。

「あのぉ、、おたくどちらの病院ですか?」

病院抜け出してタバコ吸いに来てた、どこぞの入院患者さんだったんです。

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