笑福亭里光師匠の前座時代をつづっていただいている『上方落語家、東京で修業する』。入門して最初は「お茶くみ」からスタートし、徐々にさせてもらえることが増えていきます。今回は遂に、先輩方の着物を畳んだり、お囃子の太鼓を叩いたり。さて、若き日の笑福亭里光師匠にどんな出来事があったのでしょうか?
今から20年以上前の楽屋風景です。お楽しみください!
慣れですかね
こんにちは。笑福亭里光です。
前にも書きましたが「お茶くみ」を卒業すると、着物や太鼓に触れる機会が増える。
今までも師匠の着付けや着物の畳みはしてましたし、太鼓もお客様がご来場の時の「一番太鼓」や、演者側の準備が整ってもうすぐ開演しますよ!を知らせる「二番太鼓」は打ってはいました。
でもこれからは毎回(先輩方が着替える度に)やらなければいけない。
ドキドキですよ、自分の師匠以外の先輩の着物を触るのなんか初めてです。
最初のうちは手が震えました。
しかも(前座の)先輩方がジッと見るんです。少しでも変な畳み方したり遅かったりすると怒られる。見てないで手伝えよ!と思うんですが、そんなこと言えません。ド緊張です。焦ります。
緊張すると変な汗が出てくる。
着物に垂らすと大変なので、拭う。すると遅くなって怒られる。その繰り返しです(どないせいっちゅうねん!?)。
僕がまだお茶くみの時の話ですが、僕以上に汗かきの先輩がいました。着物を畳んでおられたんです。またその時の立て前座が怖い人でね、その人が畳むのをジッと睨んでいたんですよ。
その汗かきの先輩も緊張してたんでしょう、いつもにも増して汗が出てくる。何べんも拭うもんだから畳みが遅くなる。
ついに立て前座が怒りました。
よせばいいのに、その人の後頭部を叩いたんですよ。「遅い!!」って。
その瞬間、大量の汗が着物にボタボタッ・・
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太鼓も苦労しました。
出囃子の際に三味線と合わせて叩く太鼓、大太鼓と締め太鼓を同時に打つのは初めてです。そりゃそうですわね、その間は高座返ししてたわけですから。
それまでも太鼓の稽古会等で練習はしてたんですよ。でも本番とは違う。
和の音楽と洋の音楽は随分違うもんです。それまでの人生で和の音楽に触れることなんて殆どなかった。和太鼓にこの世界に入って初めて触れましたが、上手くいかなかったですね。
何ていうんですかね、リズム感が違う。
極端にいうと、西洋の音楽の「間」が日本の音楽の「裏間」になる。専門家ではないので間違ってるかもしれませんが、それくらい(感覚的に)違う。リズムが取れなくて苦労しました。
それにそもそも西洋音楽も苦手でしたから・・もう訳が分からない(笑)。
月1回の稽古会だけでは練習になりませんし、寄席の営業してない時間に稽古させてもらうのにも限界があります。
安い座椅子を買いましてね、底面を締め太鼓・側面を大太鼓に見立てて割りばしで叩いたものです。おかげで座椅子がすぐダメになった。
そのおかげかどうか分かりませんが、まぁ何とか聞いていられるくらいにはなったようです。
「ようです」というのは、先輩が無言の「(太鼓を)替われ!」という圧力を掛けてこなくなったという意味です。まぁ何でもそうですけど、慣れですかね。
聞いてる方が慣れてきたのかもしれませんけど。