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【取材記事】第98回ヨセゲー「蔵出しの会」レポート

三遊亭遊喜

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 今月も、東京・神保町にある「らくごカフェ」にて、三遊亭遊喜師匠・春風亭伝枝師匠・笑福亭里光師匠・柳亭芝楽師匠による「ヨセゲー」が開催されました。今回は、桂夏丸師匠も登場!昨年5月以来、2度目の出演です。

 8月3日に行われたのは「蔵出しの会」。さまざまな理由から「お蔵入り」となってしまったネタの数々が大放出されました。

 さて、いったいどんなネタが、どんな理由でお蔵入りとなっていたのでしょう。さっそく、バラエティ豊かなネタの数々が披露された会の様子を見ていきましょう!

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お蔵入りの理由はいろいろ

 この日、最初に登場したのは春風亭伝枝師匠。

 先日、2人のお子さんと一緒に、ご実家のある伊豆・修善寺へ里帰りしていたそう。ところが、諸事情あって急遽、キャンプに予定を変更。

 そのときの荷物があまりに大きく重たかったので、ヨセゲーへの道々、夏物の着物の入ったバッグの軽さが不安でたまらなかったそうですよ。

 もちろん、無事に一式揃って高座に上がられていましたので、ご安心を!笑

 伝枝師匠の蔵出しは『厩火事』、二ツ目時代に演じて以来だそう。

 昨今、何かと話題の離婚の話題から始まります。

髪結いの妻の収入で暮らしている夫は、昼間からお酒を飲み、働こうともとしません。そんな夫に愛想を尽かし、いよいよ離縁したいと仲人のところに赴く妻ですが――。

 日ごろの不平不満を仲人にまくしたてるおかみさん、その怒りは「プンスカ」というオノマトペで表せそうなかわいさ。仲人との言い合いも、おかみさんの方は心なしか楽しそうです。

 どうして別れたくないのだろう?と疑問に思うのは、客席一同も仲人も同じ。

 終盤、その問いの答えでもある「優しさ」を目の当たりにして、伝枝師匠演ずるおかみさんの笑顔にも納得です。

 つづいて、笑福亭里光師匠の登場です。

 ネタがお蔵入りとなる原因を分析する里光師匠、「お客様に受けなかった」「演じすぎて演じる方が飽きてしまった(!?)」「自分のキャラクターに合わなかった(これは、久しぶりに演じてみると意外にしっくりくることもあるとか)」の3つが、その主だったところだと語ります。

 ところが、今回演ずる『寄合酒』がお蔵入りになった理由は、また別のところに……。一同驚きのその理由は、ぜひ配信でご覧ください。

 ちなみに、蔵出しは15年以上ぶりだったそうです。

若い衆が集まり、みんなで酒を飲むことに。お金がないので、酒や肴を持ち寄ることにします。ところが、持ってくるもの持ってくるもの、何だか妙なものばかりで――。

 酒席の内外で起こる珍事件の数々は、まるで絵本『ウォーリーをさがせ!』の世界に迷い込んだよう……。「混沌」という言葉がぴったりです。

 あの場に何人の若者が集っているか定かではありませんが、里光師匠の描き出すひとりひとりの姿から、酒席の賑やかな様子が伝わります。

 マクラでの「オチがない落語もある」が壮大なフリとなっての幕切れには、一同大笑い!

 つづいて、桂夏丸師匠の登場です。

「実は、蔵(の中身)がなくて……」と話す夏丸師匠。ご出身・群馬の夏祭りのお話から、これまであまり機会がなかったという『樟脳玉』を演じます。

妻を亡くしたばかりの捻兵衛さん、悲しみのあまり朝に晩に念仏を唱えています。そんな捻兵衛さんに目を付けた2人組、お金や着物をだまし取ろうと画策しますが――。

 用心深いようでいて、やることなすこと間が抜けている八っつぁんと、頼れる賢い兄貴分。

 夏丸師匠の涼やかな佇まいと凛としたお声で演ずると、捻兵衛からすべてを巻き上げようと企む悪者とは、にわかには信じがたい爽やかさです。

 だからこそ、目的を果たすためにああでもないこうでもないと試行錯誤する2人の可笑しさが際立ちます。

 ほんの少しだけあとに残る、捻兵衛さんの寂しさも印象的でした。

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後半も続々と、蔵から大放出!

 仲入り後は、柳亭芝楽師匠から。

 先日、東京湾へ海釣りに出かけた芝楽師匠。東京湾横断道路の真下!というベストポジションに船を出してもらっての釣りでしたが、なかなか同行者が見つからず難儀したとか。

 お子さんのいる方と行って喜ばせたい!と考え、伝枝師匠を誘ってみたものの、前述の通り里帰りの真っ最中。結局、大人だけの釣行になってしまったそうです。

「子どもと釣りをして、ほっこりしたかったなあ……」と、とっても残念そうな芝楽師匠。いつだって、親は子どものすることを助けたいもの、というお話から『里帰り』を演じます。

嫁いだはずの娘・春が突然の里帰り。事情を聞くと、嫁ぎ先で姑とうまくいっていない様子です。それならばと父は春にあるものを渡し――。

「きゅるん」と音がしそうなかわいらしさが弾ける芝楽師匠。お姑さんからの意地悪を泣きながら話すときの、追い詰められた様子が際立ちます。

 序盤、父は春に対して多少過保護のようにも見えます。しかし、事情を聞いて授けた知恵や物から感じられるのは、親としての思いです。

 マクラで「子どもを喜ばせたい!」と語った芝楽師匠の姿と、噺の中の父の姿が重なった一席でした。

 トリを務めたのは、三遊亭遊喜師匠。

 演じるのは、これまであまり高座にかけなかったという『井戸の茶碗』です。

正直者の屑屋さん・清兵衛は、千代田卜斎と名乗る男から、仏像を引き取るよう声をかけられます。細川家の家来・高木佐久左衛門がそれを買い取り、汚れを落とすために洗っていると、台座から大金が出てきて――。

 講談では『細川茶碗屋敷の由来』として演じられている『井戸の茶碗』。

 講談らしさを残した「語り」の部分と、屑屋さんたちのやり取りなどに見られる「会話」の部分のメリハリが、噺の輪郭を際立たせています。

 出てくる人物が正直者ばかりというのが、この噺の面白いところで困ったところ。

「早く言ってくださいよぉ……」「勘弁してくださいよぉ……」と、正直者と正直者、そして武士と武士の板挟みで苦しむ清兵衛さんに、思わずクスリ。

 時折差し込まれるフフッと笑えるやり取りと、人情噺としての重厚さの緩急を使い分ける遊喜師匠の演じぶりに引き込まれました。

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おわりに

 理由はそれぞれでありながら、いつしかお蔵入りとなっていた噺の数々が飛び出した、「蔵出しの会」。

 いったん蔵出ししてくださったのだから、これからも聴く機会があれば……、と思う一方で、蔵にまだたくさん眠っているであろう噺を、ぜひ聴いてみたいという気持ちも……。

 定期的な蔵出しに、期待が大きく膨らみました。

 第98回ヨセゲー「蔵出しの会」は、8月17日(木)までツイキャスでもご覧いただけます。

 次回・第99回ヨセゲーは「鯉枝落語スペシャル」。ぜひ、ご一緒に味わいませんか?

ヨセゲー #99【鯉枝落語スペシャル】
2023年9月7日(木)
開場:18:30 開演:19:00
当日:2500円 前売:2000円 ツイキャス配信:1500円
会場:らくごカフェ(東京都千代田区神田神保町2丁目3−5)
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/240878

ツイキャス落語会 ヨセゲー#98【蔵出しの会】
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/240876
8月17日(木)までご覧になれます。

 寄席つむぎでは、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠のお3方のコラムや動画がご覧いただけます。併せてお楽しみください。

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