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「可笑しな男」~日常ドキュメンタリー:三遊亭はらしょう

三遊亭はらしょう

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夢か現か…。そんな不思議な体験をされたことはないでしょうか。三遊亭はらしょうさんは最近、このような体験をされたのだそう。それは…。

読了後は三遊亭はらしょうさんに励ましのお声を届けていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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「可笑しな男」

風呂に浸かっている間、ずっと何かが可笑しかった。

ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、可笑しかった。

一体全体この可笑しさは何であろうかと考えていると、のぼせそうになったものだから、頭と身体を洗ってすっきりすることにした。

じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ、これも可笑しかった。

そして、少しも、すっきりしなかった。

今度は、鼻うがいをすることにした。

風呂場での最近の習慣である。

食塩をお湯に混ぜて、片方ずつの鼻の孔へ、俺は、

「アー」

と言いながら流し込んだ。

「アー」「アー」「アー」「アー」「アー」

食塩水がなくなるまで、俺は何回も声を出す。

所が、これもまた可笑しかった。

なんだか、いつもより回数が多いような気がしながら、俺は、風呂からあがると、洗濯したばかりの緑色のバスタオルで身体を拭いた。

だが、なかなか、カラッとならない。

それ所か、拭いてるそばから、ジメッとしている。

こんなに可笑しなバスタオルは初めてだなと、湯上りすっきりせぬまま、下着に着替えた。

冷蔵庫には、缶ビールが一本残っていたので、ようやくすっきりできると思って、今度は嬉しくて可笑しくなってきた。

俺は、冷蔵庫を開けた。

だが、そこには、缶ビールなどなかった。

代わりに、豆腐が一丁あった。

風呂上りには豆腐が一番などとは聞いたこともなく、はて、缶ビールはどこへ消えたのだろうかと、まだジメジメした身体で悶々としながら、いつもの定位置である部屋の隅に置いてある座椅子に、俺は、だらりと座った。

見ると、目の前の机には、缶ビールが置いてあった。

いつ出したのだろうと、手に取ってみると、中身は空であった。

もしや、風呂に入っている間に、泥棒が入って来たのであろうか。

だが、何も盗まず、缶ビールだけ呑んで、ほろ酔いで帰るとは、なかなか可笑しな野郎だ。

よく分からぬまま、俺は、ぼんやりと窓の外を眺めていたら、西武池袋線の電車が走って行くのが見えた。

夏にオープンしたばかりの、ハリーポッターの施設行きの派手な装飾のそれを見ていると、何かが可笑しかった。

一日に何度も通るから、窓を開ければしょっちゅう目にするから可笑しかったのではなく、俺は、あのハリーポッター行きの電車を何度も見ているということを、何度も思っていることに、ふと気が付いて来た。

そう、俺は、あれをつい今しがた見たようであったからだ。

机上の空の缶ビールとハリーポッター。

不可思議なミステリーの迷宮に迷い込んでしまった俺だったが、ここへ来て、突然、先ほどまでのすべての可笑しさの理由がはっきりと分かった。

そう、俺は、今日、同じことを二回しているのである。

三時間ほど前に、風呂からあがって缶ビールを呑んだ俺は、眠たくなって、うたた寝をしてしまい、起きたと同時に眠気覚ましに湯へ入ったのだ。

俺は、二回、風呂に入っていたのだ。

だから、ずっと可笑しかったのだ。

何もかもが可笑しかったのだ。

俺は、認知症なのであろうか。

そんな筈はない、まだ、45歳である。

いや、ひょっとしたら、45歳を二回繰り返しているのかもしれない。

生きていると、たまに、可笑しな日もあるものである。

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