腰痛持ちの三遊亭はらしょうさん。何とかするために、あれやこれやと対処するのですが、なかなか改善せず。意を決した三遊亭はらしょうさんは、ある物を買うことに。それは…。
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膝が笑う
俺は職業柄、毎日のように正座をすることが多い為、数年前から膝を痛めている。最近では、落語をするさいは、正座椅子なるものを使用し、その都度乗り越えている。
以前は、一年ほど、整骨院にも通院していたが、金ばかりかかって仕方なかった。
そんなある時、実家の母から、シックスパッドの足専用電気治療器具をプレゼントされた。
半信半疑使ってみると、これが、整骨院の治療を受けたのに近い心地よさで、予想以上に効果テキメンであった。
早速、母に報告すると、まるで自分がシックスパッドの開発者であるかのように歓喜し、機嫌上々、今度は、足裏、ふくらはぎ、膝、太もも、尻、腰、背中、肩、首、頭、と、文字通り頭からつま先までをマッサージするシックスパッドの充電式ハンドドリルを送って来てくれた。
三段階の強さが調整出来るドリルを膝裏に当てると、以前、整骨院で先生が使っていた治療用ドリルの感触とほぼ同じであり、グリングリンと振動。
俺は、それを足専用電気治療器具とのダブル使いを始めてみたら、いつの間にか、医者いらずとなったのである。
だが、いくら駆使しても、根本的に改善、解決しなければいけないことが一つあった。
それは、自宅に、西洋式の机と椅子がないことである。
俺が、日常座っているのは、座椅子なのである。
また、机は古いコタツ机であり、年がら年中、このスタイルで生活している。
勿論、正座はしないが、膝への負担を軽減する為、足をグイと伸ばして座っているのだが、しばらくすると今度は、腰に負担がかかり始める。
そして気付けば、あぐらをかいている。
最終的には、膝は曲がり、ゆっくりと負担がかかって行く。
俺は、そのせいで、最近では、執筆活動にも影響が出始めて来ている。
これではいけない、そして、これでは書けない。
書く仕事が出来なくなってしまう前に、一刻も早く、西洋式の机と椅子を手に入れるべきである。
ヨッコラセと重い腰を上げた俺は、先日、ついに、家具屋へ行くことにした。
だが、考えてみると、家具屋など一人で入ったことがない。
大体、家具を購入する場合は、引っ越し、部屋の模様替え、ピカピカの一年生、などのタイミングであり、俺のように、シックスパッドとサヨナラする為にというのは、随分と珍妙な理由であろう。
早速、ネットを検索すると、近場では、池袋に大きな家具屋があることが分かった。
俺は、一人で机と椅子を買いに行くのは人生初ゆえ、心臓ドキドキ、膝ズキズキ、店へと入って行った。
西洋式の机と椅子は、上階の売り場にあるようだ。
俺は、エスカレーターを登りながら、また膝が痛くなって来たが、売り場に到着するなり、痛みを忘れるほど、その値段の高さに驚いた。
家具って、こんなに高いのか。
今年、46歳の俺は、人生でまだまだ知らないことがあることに感謝しながらも、別に買わなくてもよいのではないかと、急に、気分が変わって来た。
というのも、目の前にある西洋式の机と椅子の数々が、どこかの高級マンションのゴミ捨て場にでも行けば手に入りそうに見えたからであった。
その足で、金持ちのゴミ捨て場へ直行、いや、そんな訳はない。
無理をして買わなくても、今後、執筆活動のさいは外出をし、西洋式の机と椅子が設置されている場所へ行けばよいのではないか。
自宅で膝に負担がかかるのは、執筆時だけで、ネットフリックス、ユーチューブ、読書、の時はリラックスしており、むしろ、コタツ机と座椅子スタイルが快適である。
そうだ、原稿を書く時だけ、カフェに行けばよい。
どこでもあり、大抵は安価である。
更に、世の中には、無料休憩所のような場所も多く開放されている。
もし、目の前に、高級カフェの象徴である、ルノアールしかなかったとしても、西洋式の机と椅子を買うよりは、はるかに安いではないか。
だが、この先の人生のカフェ代を考えたら、それは当然、買った方がいいに決まっている、それは分かっている。
俺は、一体、この先、人生で何回、カフェで原稿を書くのだろう。
そして、一生分のコーヒー代は、いくらになるのだろう。
不毛なことを考えていた俺は、疲れて、また、膝が痛くなって来たので、いったん、目の前の椅子に座ることにした。
よし、買おう。
突如、意を決した俺は、カードは使えるのだろうかと思って財布を開けた。
懐かしい整骨院の診察券が出て来たので、とりあえず今日はやめとこうかと、一瞬、気持ちが揺らいだものの、やっぱり買うことに決めた。
よし、行くぞ。
俺は、真剣な顔で立ち上がったら、膝が笑っていた。