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中島敦『山月記』を元に落語を作る~SFと童貞と落語:笑福亭羽光

笑福亭羽光

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文学に造詣が深い笑福亭羽光師匠が、新たなネタを書き上げられたのだそう。そのきっかけになったのは、中島敦著『山月記』とのこと。さて、笑福亭羽光師匠は『山月記』からどのようなインスピレーションを受けたのでしょうか。

あなたの『山月記』から受けたインスピレーションも教えてくださいね。じっくりお読みください。

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中島敦『山月記』を元に落語を作る

 中島敦『山月記』を朗読で聴いた。国語の教科書に載っている、虎になった中国の詩人のおはなしだ。
 古今東西、人間が他の生物になる噺はよくある。芋虫になるカフカの『変身』もそうだろう。ヨーロッパに残る人狼伝説もそうだろう。
人間であることの意味を問うテーマに有効な手法なのかもしれない。
 かつては、この『山月記』が、何故教科書に掲載されるほどの名作なのかよくわからなかった。漱石『こころ』や太宰『走れメロス』は、少年の頃の僕も、ああ、こういうのが名作なんだな~面白いな~と感じたものだったのだが。


 今回、改めてこの作品を聴いて、主人公に深く感情移入した。
 官僚を辞して詩人を目指す主人公は、大成せず虎になる。
 自分に才能がないことがバレるのを恐れ、またその事実を認めるのを嫌がり、他人の才能に嫉妬する李徴。その姿は、悩み多き噺家である僕自身ではないか。
 僕は、『山月記』を下敷きにして新作落語『落語家変身譚』を書いた。意識高い系落語家が動物に変身してしまう物語である。
祖師ヶ谷大蔵の書店【ブックショップトラベラー】にて、ネタ下ろしの会を企画してもらうことになった。
主催は、美術と文学に強い【本屋しゃん】である。

 僕は、ネタ下ろしをするときは、常に緊張する。
僕は、思春期をテーマにした私小説落語シリーズの後、メタ構造の『ペラペラ王国』を2018年の【渋谷らくご しゃべっちゃいなよ】で発表し、2020年NHKの賞を受賞した。真打昇進以降も新作落語は作り続けてきた。それなりに色んな方向の新作落語を発表してきたが、『ペラペラ王国』を超える作品を作れていないのではないか……と噂されている。
僕は、傷つくことを恐れる『臆病な自尊心』を持っている。
茶光や昇羊、昇輔や信楽など、所属する芸術協会だけでも才能を持った後輩たちが頑張っている。比べられたらどうしよう……と不安だ。

今度『落語家変身譚』を発表して、来てくれたお客さんに「羽光はNHKで賞とった時がピークだったな」とか「また期待はずれだったな」と思われたらどうしよう……と心配だ。
同時に、恥をかいて自信を失いたくないゆえに、他人を見下す『尊大な羞恥心』も持っている。
 ネタ下ろしに関して、そんな自信の無さや緊張を感じる僕は、やはり『山月記』の李徴的だと思う。

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