名前に「運」はあるのでしょうか?姓名判断がいつの時代も流行っているように、もしかすると「ある」と考える方は多いのかもしれません。
三遊亭はらしょうさんはある方から「運のええ名前」と言っていただけたのだそう。その方とは…?
このエッセイを読めば、はらしょうさんの名前がもっと気になること間違いなし!じっくりお読みください。
君は運のええ名前をもらったなぁ
「君は運のええ名前をもらったなぁ」
月亭可朝師匠が、生前、俺に言った言葉だ。
「どうしてですか?」
今まで誰からも言われたことがなかったので、俺は思わず聞き返した。
「名前には売りやすい名前と売りにくい名前がある。はらしょう、は覚えやすい。だから売りやすい。師匠の円丈さんは、ええ名前つけてくれはったなぁ」
前日、渋谷での落語会で俺は初めて可朝師匠に会ったのだが、まさか翌日もこうして話させてもらえるとは思ってなかった。
もっとも、昨日、俺が、
「明日、可朝師匠が出られる四谷のライブ、勉強しに行っていいでしょうか?」
と押しかけたからなのだが。
「なんや、君は関西出身かいな」
「はい!そうなんです。あの、可朝師匠、僕が大阪で落語会をやるときにゲストに出て頂くことは可能でしょうか?」
そう、甘えついでに聞いてみたら、可朝師匠は、
「ええよ。大阪、案内したるわ」
と漫才のように早いテンポで返してくれた。
「ありがとうございます!」
運のいい名前と言われテンションがあがった俺は、脳内で『ボインの歌』がこだましながら、四谷のライブ会場をあとにした。
それから数ヶ月後、可朝師匠の訃報を知った。
俺は新宿で開催される自分の定例会へ向かう地下鉄の中で、車内に流れるモニターに釘付けになった。
可朝師匠をゲストに呼んで、俺はボインなドキュメンタリー落語を考えていた。
そして、二人で大阪を歩いてボインな場所に連れて行って頂けると思っていた
だが、夢は叶わなかった。
あとで記事を読むと、可朝師匠が最後に出演した会は、あの四谷でのライブだった。
「明日、勉強しに行っていいでしょうか?」
厚かましいと思ったが、あのとき思い切って行動して本当に良かった。
それだけで、俺は運のいい名前であると思った。
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この一件以来、俺は自分の芸名を意識するようになった。
『三遊亭はらしょう』
は、確かに覚えやすい名前である。
第一に、目につきやすい。
寄席などの出番表を見ても、出演日がすぐに分かる。
落語家で、漢字とひらがなの組み合わせは意外と少ない。
第二に、ロシア語の『ハラショー』を連想させる為、記憶に残りやすい。
中には、三遊亭ハラショーという表記で覚えてしまっている人もいるぐらいだ。
また、ごく稀に『オーチンハラショー』に引っ張られて、『三遊亭オーチン』だと思い込んでいる人もいる。
それはそれで覚えやすいから、もし将来、俺に弟子が来たら、そう名付けたい。
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名前といえば、姓名判断にこだわる人がたまにいる。
俺も今までそれにこだわったことがある。
昔、漫才や演劇をやっていた頃のことだ。
売れている芸人の名前と同じ画数にする。
『ビートたけし』は15画。『タモリ』は8画『明石家さんま』は32画。
などをピックアップして、それと同じ画数を考えた。
いくつか芸名を変えたあと、最終的には『ハラダリャン』という名前になった。
俺の本名が『原田亮』なので、なんとなく下の名前だけ中国語読みにしたら、偶然、ビートたけしと同じ15画だった。
俺は落語の世界に入る前まで、長らくこれで活動していたから検索すれば過去の出演作品が出て来る。
懐かしくなってそれを読むと、ハラダリャンの名が目立つことに気付く。
全部カタカナのそれは、出演の中に外国人キャストがいるようにも見える。
あの頃、ネットが普及していたら、この名前はもっと有名になっていたもしれなないと、そんなイフをときどき考えてしまう。
名前を覚えてもらいやすいのは本当に嬉しいことなのだが、実は最近になって弊害も出てきた。ネットのデマである。
俺に関してありもしないことが書かれている記事が沢山あるのだが、ここで名前を覚えられてしまっては困る。
そういえば、犯罪者の名前にはインパクトがある場合が多く、指名手配犯のポスターは、みな覚えやすい名前だ。
その名前の時点で悪いことをしてはいけない!すぐにお巡りさんに追いかけられる。
運のいい名前は、相手にとっても、運のいい名前なのだろう。
可朝師匠に芸名を褒められた数年後、はらしょうの名付け親である円丈が亡くなった。
「はらしょう!」
褒めるときも怒るときも、師匠はいつも俺の名前を呼んでいた。
怒っているときは、はらしょう、が、『ちくしょう』にも聞こえた。
そして、今の所、俺はまだ売れてない!ちくしょう!
だが、運のいい名前であることは間違いないと思う。