嘘が嫌いで真っ直ぐな性格の六代目笑福亭松鶴師匠。その松鶴師匠がついに嘘を…。これには弟子である鶴光師匠も困惑しました。さて、松鶴師匠が嘘を吐くきっかけとなったできごととは?
人間味あふれる六代目笑福亭松鶴師匠の在りし日の姿が、目に浮かぶような笑福亭鶴光師匠のエッセイコラム第11回のスタートです。お楽しみください!
恋は恋
「私只今、恋を致して居りまして」
松鶴が落語のマクラ部分でこう言うた途端に楽屋は大爆笑。六十歳過ぎて二十代のガールフレンドが出来ると、幼稚園の子供と一緒やね。とりあえず一緒に居たい。色恋は関係ない。本人はプラトニックラブや言うてましたが。
彼女は喫茶店に勤めてまして毎日シフトが変わるんです。その時間に合わせて寄席の自分の出番を勝手に変えて高座に上がる。
ある落語会、師匠がとりで私がその前。その時又女の子の出勤時間に合わせたいらしく、なんと僕の所へ上がるとこう言う。逆らえませんので了承すると高座に上がるなり、
「実は私がとりやったんですが、弟子の鶴光が仕事で遅れておりまして、真に申し訳ございません」
そんなアホな私二時間前から来てましたんやで。えらい悪者扱い。
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その女性と三人で神戸の中華街に行った時の事、その女の子がタバコを出したんですな。そうすると師匠がテーブルの下からライターを手に握らそうとして間違えて私の手に握らせた。
違いますと言う意味でぐっと手を握ると又倍の力で握り返してくる。困ってたな。わざとライターを落としてその場をごまかしましたが、嘘の嫌いな松鶴が嘘をつくようになった。
私と飲んでるとあ~ちゃんに電話してはガールフレンドと会う。その内あ~ちゃんも薄々勘付いてくる。
その彼女のおばさんが下町でスナックをやってまして、何日か手伝いに行く。そこへ松鶴も芸人連れて飲みに行く。
スナックのお客さんは大喜び、有名人がまじかで見られ会話も出来る。運が良ければサインも貰える写真も一緒に写せると言うので大繁盛。
私もお供で付いて行ったらどこで調べたのか、奥様から電話がかかって来まして、嫉妬してたんでっしゃろな、私が代わりに受話器を取ると
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「鶴光か?お父さんに聞いてんか。今な鳥の唐揚げ、揚げてるさかい帰ったら食べるか聞いて」
「師匠、あ~ちゃんが唐揚げ食べるかと聞いたはりますが」
「あ~帰ったら食べる言うといて」
暫くしたら又電話
「何個食べるか聞いて」
「何個お食べになりますか」
「三個や」
その後又電話。私思わず師匠を庇おうとして
「すんまへん、今別の店に替わったとこでんね」
するとあ~ちゃんが涙声で
「わて何処へかけてると思うてるね、あんた迄わてを馬鹿にして」
電話口で延々と泣かれました、その間松鶴は女の子と肩組んで
カラオケで浪花恋しぐれを熱唱してました。
♫芸の為なら女房も泣かす~♫