令和3年8月17日、笑福亭仁嬌師匠の師匠、笑福亭仁鶴師匠が極楽座へ旅立たれました。笑福亭仁嬌師匠が入門されて44年、たくさんの思い出があるそうです。
今回は笑福亭仁鶴師匠のお稽古についてつづっていただきました。初めてのお稽古は突然だったそうです。それは…。笑福亭仁鶴師匠の面影を脳裏に浮かべながらお読みください。
師匠の稽古やあ
8月17日師匠笑福亭仁鶴が他界致しました。
余りに突然で思わぬことで驚いておりましたが、これからは笑福亭仁鶴の弟子として一歩でも師匠に近づけるよう精進してまいります。
師匠との思い出は沢山ありますが、ぼちぼち書いていきます。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回は稽古についてです。
わたいが入門したのが昭和52年4月1日、ちょいと早く山澤(仁勇)さんが入門しておりわたいと同期の西河(仁幹)さんもおり三人が毎日師匠の家に通っていた。
初めての稽古はまだ芸名も頂いてない5月23日であった。
弟子三人が師匠の奥さんを前に三題噺をしていた時に師匠が帰ってこられた。
(奥さんに弟子が三題噺をしたのはうちの一門くらいか)
いつもはすぐ二階へ上がって食事をされるがこの日は一階で食べてソファーに座り奥さんと話をされて、その流れで師匠に三題噺を聞いていただくことになった。
三人が違うお題で三題噺をやった。わたいのお題はなんだったかはっきりと覚えていないが一つは「蚊取り線香」であり、落ちは「蚊取り線香だけに煙にまかれました」的なことを言ったと思う。
また覚えていた『色事根問』も少し聞いていただいた。
師匠「癖のない喋りや、汚い言葉を使わずきれいな言葉を使うように」
何や訳のわからんうちに初めての稽古は終わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の稽古は7月3日であった。
本来落語の稽古は師匠が「こんにちは おーこっちは入り、どやげんきでやってるか」弟子が同じように「こんにちは、おーこっちは入り、どや元気でやってるか」と口移しでやるのであるが、当時の師匠は大変忙しく口移しでやる時間が無かったので弟子が覚えて聞いていただくやり方であった。
何を覚えるかは弟子が決めることが出来た。
今回は本格的な稽古、三人が浴衣を着て正座して待ってると師匠が部屋に入ってこられ
「おはようございます」
「おはようさん」
見台を前に座布団に座り熱いお茶をまず一口飲んで煙草に火をつけ稽古が始まった。まず西河さんの『青菜』続いて山澤さんの『兵庫船』そしてわたいの『色事根問』。
女性にもてない男が物知りの年配者からもてる方法を聞く噺である。
一見栄 二男 三金 四芸 五精 六おぼこ 七台詞 八力 九肝 十評判
この一から十までで一つでも身に備わってると女性に好かれる。という噺である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三までやったところで今日は終わり、間違って覚えていた箇所を正され仕草を教えてもらう。
テンポが大事で描写はゆっくりとやる。
始めにしっかり覚える癖をつけること、ええ加減に覚える癖をつけてはダメ。
他の者がやってる稽古もしっかり聞いて覚えておくこと。
などなど大緊張の内に稽古は終わった。
弟子入りして三カ月くらいでの稽古、奥さんはこんなん初めてやとおっしゃっていた。
改めて師匠に弟子入りしてよかったと思った稽古であった。