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わたしの原風景~格闘技的わたしの日常:神田春陽

神田春陽

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自粛要請が解除された今、日常が戻りつつあります。神田春陽先生も同じく、日常が戻りつつあるとのこと。それでも以前と同じというわけにはいきません。客席の数を減らしての公演です。

その風景を目にした春陽先生、あることを思い出したそうです。それは…。

頭の中で張り扇の音を「パパン!」と響かせながらお読みください!今回も春陽先生は闘っています!

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わたしの原風景

自粛要請が解除され、東京では6月1日より新宿末広亭、浅草演芸ホールが興行を再開した。

私がお世話になっている貸席、神保町のらくごカフェ、向島の向じま墨亭も再開。7月からは上野鈴本、池袋演芸場も興行を再開する。

いずれも座席数を減らしての再開ではあるが、落語・講談を生で聴く事が出来るところが復活すると云うのは素晴らしい事だ。

失われた日常が戻ってきたのだから・・・

しかし、どこの寄席も会場も座席数を約3分の1程度にまで下げての再開なので、しばらくは厳しい興行が続く事になりそうだ。

それでも再開を待ちわびたお客様が、寄席に足を運んでくれたと云うニュースは私を含め演者の心を明るくしたに違いない。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

寄席だけではない講釈場も同じである。少ない人数ではあるが、講釈場に足を運んでくれるお客様がいる。

昨今は、神田伯山さんの登場により、どの講釈場もそこそこお客様が入るようになって来た。本当にありがたい事である。

伯山さんありがとーー!

と言っている場合ではない。我々も頑張らねばならないと思い今日この頃です。

思えば、私が入門した1999年(講談界のミレニアム問題と云われていた)とにかくお客様がいなかった。1日を通してお客様が十人程度と云うのは当たり前で、むしろ十人以上いれば大丈夫と云うイナバ物置状態であった。

もちろん15人で満席の会場ではない。

100人近くは入る会場でこの惨劇である。自粛を要請している訳ではない。

釈場に来てくださいとお願いしているのに!来場要請をしているのに!!

日本で唯一残っていた講釈場「本牧亭」は、私が入門した頃は規模を縮小していて「日本料理本牧亭」として残っていた。

二階建てで、一階が料理を食べる場所。二階が六畳ほどの座敷で、床の間のような高座が設えてあった。料理を食べながら講談を聴く会や、月に4回程「本牧予講講定席」が開催されていた。

六畳ほどの座敷だから十人もお客様が入ればもう御の字で、その十人のお客様が左右、後方のカベに寄りかかって美しい「コ」の字を描く姿は圧巻であった。

確かに真ん中に座るよりもカベに寄りかかる方が楽だと思うが、この様子を観たある有名人が「まるで風呂アカのようだ」と言ったそうだが、実にウマい事を言うなァと妙に感心した。

そんな本牧亭でも、お客様が3,4人の時もある。お客様よりも出演者の方が多いのだ。

その3,4人のお客様が左右後方、均等にカベに寄りかかってくれれば良いが、左・右と一方に集まる時がある。高座に上がり、根多に入り上下をふる。左側にはお客様、右側にはそびえ立つカベが有るばかり。

もっとも故・田辺一鶴先生だけは釈台をお客様が集まる方に向けていた。一鶴先生にロックオンされて講談を聴くと云うのは、これはこれでいい迷惑だろう。

一鶴砲を全身で受け止めるお客様!お客様に逃げ場はない。

高座のソデでこの恐ろしい光景を目の当たりにした私は心の中で、この気の毒なお客様方が変な気をおこす事なく、無事に家に帰ってくれるよう、ただただ祈るだけでした。

自粛明け、席数の減った客席を眺めながら

「何だ昔に戻っただけじゃねぇか。さぁもう一度やり直し。一鶴先生のような楽しい高座をやって行きましょう」

と何となく思うのであった。

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