初めて会った気がしない人は、誰にでもあるもの。笑福亭里光師匠もそのような経験があったようです。さて、そのお相手とは?
とても運命的なできごと、一緒に追体験しませんか。笑福亭里光師匠の自叙伝第5回のスタートです。お楽しみください。
珍しい繋ぎ
こんにちは。笑福亭里光です。
新宿末廣亭は初めての人には場所が非常に分かり難いですねぇ。特に(新宿)三丁目付近に行ったことがない人には。
僕が初めて末廣亭に行ったのは小学生の時です。当時東京に住んでた祖父母に連れて行ってもらいました。
もう40年近く前になりますか・・新宿駅南口から歩いて行ったんですが、当時あの辺りはバラック街でした。
今では信じられないでしょ!?
もちろんバスタなんかありません。
子どもでしたから正確な記憶ではないかもしれませんが、甲州街道から今のGAPが入ってるビル辺りまで迷路みたいに入り組んでいて、その両側に小さい店が所狭しと並んでいました。
ただその店も、半分以上は営業してるのかしてないのか判らんような感じ。怪しい雰囲気でしてね。非常に怖かった。
そして末廣亭に到着。もっと怪しかった(笑)。
どんな芸人が出てどんな噺をしたのか全く覚えてないんですが、一つだけ強烈に覚えていることがあります。
「おじいさん」と「おじいさん」の合間に、突然「お兄さん」が出てきたんです。
でね、座るなりマクラも振らず(その当時はマクラなんて言葉も知りませんでしたが)喋り始めました。
「こんにちは!」
「さようなら!」
これだけで帰って行った。
新鮮でした。ビックリしました。
っていうか、何が起こったのか分からない。
その「お兄さん」の顔は長くて眼鏡を掛けていました。
後に(この世界に入ってずいぶん経ってから)判明したんですが、その時の「お兄さん」は三遊亭右紋師匠だったんです。
初対面の挨拶をさせていただいた時から、初めてのような気がしなかった。
何処で会うたんやろ??
ずっと考えていたんです。
残念ながら5年ほど前に他界されてしまいました。
師匠が若い頃の写真を見る機会がありましてね、それで思い出した。
あ、あん時の!?
僕がこの世界に入った頃は、もう眼鏡は掛けてなかったんですね。
年数から逆算すると、あの時の右紋師匠は二ツ目になって数年。
後の演者が来なかったんでしょう。たまたま楽屋にいた右紋師匠が「繋ぎ」で出された。
ところが出てすぐに後の演者が来たんでしょう。そのまま帰るのも変なので、とりあえず座って何か喋った。
そんなことやったんでしょう。
僕はかなり珍しいものを見たのかもしれません。
そして初めて見た寄席が芸協(落語芸術協会)の興行だった。今思えば三遊亭右紋という噺家が、僕を芸協へと誘ってくれたのかもしれません。
生前にそのエピソードを本人に伝えられなかったのが心残りではありますが。
あ、だいぶ脱線してしまいました。
鶴光と末廣亭での出来事ですよね。
でももう字数がいっぱいです。
次回にしましょう。せっかちな師匠・鶴光には待ってもらうことにして。