現在はコンプライアンスが厳しくなり、テレビ番組でもイベントでも無茶ができなくなっています。多くの人が楽しめる反面、突き抜けた楽しみが減ってしまっている印象も受けます。
50年来のプロレス愛好家の笑福亭仁嬌師匠は、最近のプロレスを観てそれを感じておられるよう。さて、笑福亭仁嬌師匠はどの部分を観てそう感じておられるのでしょうか。懐かしさだけがこう感じさせているのでしょうか?あなたのご意見もお聞かせくださいね。
プロレスはドキドキやあ
先日繁昌亭昼席の楽屋で久しぶりに桂楽珍師と一緒になった。
彼も大相撲や格闘技、プロレスのファンである。
楽珍「この頃プロレス観に行ったはりますか」
仁嬌「いやあもう何年も行ってないなあ」
楽珍「前にドラゴンゲートの試合を観に行ったんですわ。僕らが若い頃に観てたプロレスと比べて技が全然違いますね。物凄い技の進歩ですわ」
仁嬌「そうやなあ、空中回転とか大技も進化してるな」
楽珍「けどなんかドキドキ感が無くなりましたね。昔はアブドラ・ザ・ブッチャーとかタイガー・ジェット・シンとかザ・シークとか怖い選手がいましたけど今はいませんね。」
仁嬌「そらわしらが年取ったんやで」
てな繁昌亭の楽屋に居ながら落語とは何の関係もない話をして楽しんでいた。
確かに年を取ると段々ドキドキ感が無くなるが、それだけではない気がする。
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所謂観客を怖がらす怪奇派レスラーが少なくなった。
わたいが若い頃は怪奇派というか無茶者のレスラーが多くいた。
滋賀県の皇子山体育館へ全日本プロレスの試合を一階席で友達と観戦していたら流血大王とあだ名されていたキング・カーチス・イアウケアの入場をとなった。
身長193センチ体重140キロ流血大王だけあって額には無数の傷跡がある。
見るからに恐ろしい男が奇声を上げパイプ椅子を振り回し観客席に暴れこみながら入って来た。
今の会場はリングの周りや入場通路にフェンスがあるが昔は何にもなかったのである。無茶者のレスラーは観客席に入り放題であった。
イアウケアが近くに来るとわたいらは「うわー」と悲鳴を上げ逃げ惑った。
友達ともバラバラになり逃げた。
レスラーが観客に手を出しケガをさすことは無いと分かっていたが逃げるわな。
そら怖かったー。
しかしそれがラフファイター、怪奇派レスラーの人気のひとつでもあった。
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プロレスファンは逃げるものも楽しんでいた。日常にこういうことはまず無い、あったら危ない。非日常の楽しみである。
イアウケアの試合は技と技の応酬てなことは無い。殴る蹴る投げるぶつかる、そしてお決まりの額からの流血勝っても負けても血を流すのである。
退場の時も観客席になだれ込む、今度は血を流してるから入場の時より数段怖い。
リングアナウンサーは「お気を付けください、お気を付けください」
と繰り返しアナウンスするが、どう気を付けるねん。
逃げなしゃあないやろ。
ラフファイター、怪奇派レスラーは流血も観客席への乱入もお客さんへのサービスであり個性であった。