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㉗ヤマアラシの竹~師匠六代目笑福亭松鶴とわたし:笑福亭鶴光

笑福亭鶴光

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六代目笑福亭松鶴師匠はやたけたな方だったそう。それは笑福亭鶴光師匠のこれまでのエッセイコラムから、よくよくうかがえるでしょう。このやたけたな六代目笑福亭松鶴師匠、刑務所へ慰問によく行かれていたとのこと。受刑者に心を寄せる温かい心の持ち主と思いきや……。

今回も笑福亭鶴光師匠の視点は鋭いですよ。愛すべき漢・六代目笑福亭松鶴師匠の思い出を、ご堪能ください。

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ヤマアラシの竹

内の師匠が、志ん朝師匠の弟子を預かった事がありました。でも、どうも内の師匠と馬が合わなかったのか半年ほどで辞めまして、その時仲間に「俺はな、いずれ警察官になって松鶴を逮捕したる」と捨て台詞を残して去ったそうです。

「そんな事が出来る訳がないほっとけほっとけ」師匠は相手にもしなかった。

時は流れて、風の噂でやめた弟子が本当に警察官になったらしい。

それ聞いた上方落語の大御所が不安な顔に成り「あいつ、わしをほんまに逮捕する気や」と怯えだしたんです。

結構怖がりでした。

常日頃から内の師匠は、

「俺は子供の頃からヤマアラシの竹と皆に恐れられてたんや(本名が竹内日出男)」

なんて言うとりますので。

後日お姉さんに伺うと、「よう泣いて帰って来る子やった」とのこと。

ヤマアラシの竹、本当は泣き虫やった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

逮捕といえば、内の師匠は刑務所へ慰問によく行ってました。私も修行時代は少年刑務所に行かされました。勿論ギャラは無料、昼ごはんにパン二個くれます。

自信を無くせば刑務所へ。受刑者は閉ざされた空間にいて日ごろ笑いに飢えているから、まぁ笑う笑う。『寿限無』てこんなに笑う話なのかと逆に感激するぐらい。

受刑者は皆坊主頭、我々前座(この制度は大阪には無い)もくりくり頭。散髪に行ってる余裕がないもんですから。

公演が終われば、刑務官の人が護送車で駅まで送ってくれていました。

坊主頭で風呂敷持った見すぼらしい3人が護送車から降りて「お世話に成りました」と頭を下げる。係の人が、「頑張りや」と声をかける。

周りで見てる人は恐らく「あれは少年刑務所から出てきた人達やな」と思った事でしょう。

刑務所といえば、こんな小噺が。

知り合いが刑務所から出てきたので、洋菓子を土産に持って行くとその人が

「いやぁもう刑期(ケーキ)はこりごりだ」

誰かが作った小噺。

もう一つ小噺を。

森進一が川内康範とおふくろさんの歌詞でもめた時、洋菓子をお詫びに持って行った。

でも本当は年配者だから和菓子の方が良かったみたい。やはり歌詞(菓子)を間違えた。

これもある噺家の作品。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

師匠が刑務所に慰問に行く目的は

「慰問に行っといたら、泥棒に入られる心配は無い。あの連中は恩義を忘れない」

つまり泥棒仲間のネットワークが有って、「我々に無償で笑いを提供してくれた方の家には盗人として忍び込んではならない」と言う掟が有るというのが松鶴の考え。

そんなもんあるのかしらと思ってましたら、ある時、師匠が借家の近くに風呂付のマンションを借りました。

その途端、泥棒に入られ大事な物みんな持って行かれました。

泥棒に仁義、掟は存在しない事を思い知らされました。

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