『寄席つむぎ』でお馴染みの桂小梅さん。今年で入門10年なのだとか。節目の年に開催されるのが、5月18日「桂小梅・噺家になって10周年」です。10年目になると繁昌亭が借りられることもあり、開催を決意されたそうです。
残念ながら緊急事態宣言延長で中止に。来年の同じ日に開催を予定されておられるとのことですので、インタビュー記事を公開します。
今回は桂小梅さんにプロになって10年を迎えた心境と、5月18日の見どころについてお話いただきました。
20代最後の年の誕生日に独演会を開催
――入門10年、おめでとうございます!10周年を記念して5月18日に天満天神繁昌亭で独演会を開催されるとのことですが、この日が入門された日なのでしょうか?
入門したのは4月1日で、5月18日は僕の誕生日なんです。噺家になって10年の記念と、20代最後の年の記念にこの日に決めました。キャリアが10年になると繁昌亭が借りられるんです。うちの師匠から「借りられるんなら、何かやったらええがな」とも言っていただけました。
――20代最後?!もうそんな年齢に……。私が小梅さんと初めて出会ったのが、小梅さんが小学3年生の時でしたね。
そうです。僕は学研山之内教室に通っていて、ふじかわさんがそこのお話会に来てくださったのが最初です。
――なんだかんだと20年近いお付き合いになっていますね。中学生のころ、グレてギター部に入部したと聞いた時は、ショックで寝込みそうでした(笑)。
それは、友達がやってみたいと言うので、だったら僕もチャレンジしてみようかなと思ったんです。でも、結局覚えたのはCのコードだけ(笑)。指が短いので、弦を押さえられないんです。もっぱらギター部の隣のコーラス部で、歌ばかり歌っていました。楽しかったなぁ。
――そのころに鉄道写真も、撮り始めた?
最初は携帯のカメラで、どんどん機材に凝るようになりました(笑)。鉄道写真をしていて良かったのが、学校の外にも仲間ができることです。それも幅広い年齢の方の。色んなことを教えてもらい僕も話し、いい関係を築けています。
師匠から落語の土台を教えていただいた
――プロになると、今まではお父さんだったのに師匠となりますが、変わったことはありますか?
実家を出て、近くにアパートを借りました。そこから実家こと師匠の家に通う形です。年季中は、噺家としての土台をキッチリ教えていただきました。
――例えば?
うちは三代目春団治一門なのですが、三代目師匠は手ぬぐいや扇子を置く場所がいつも同じとは限らないんです。基本的には、お客さんの邪魔にならないよう座布団の横です。でも、次の所作のためには、どこに置くのが最適かを考えておられた。このようなことを僕の師匠から教えていただきました。
――言われてみれば、全部の場面で横に置く必要はなく、むしろ横にあることが不自然になることもありますね。
なるべく無駄をなくして、間だけで笑わす。これこそ話術かなと考えています。ギャグを入れ込んで笑わすのでなく、ふとした瞬間に笑わせる。三代目師匠の場合、同じ噺を聞いたら同じ場面で笑ってしまうんですよ。落語の「職人」のよう。
――分かります。三代目師匠は大工の棟梁っぽい。
こういう土台をしっかり作っておけば、太い柱も立てられます。その土台作りを怠ったら、せっかく立てた柱も倒れてしまいますので。僕は師匠から「俺に似て不器用やから、のんびりやったらええ。でも、怠けたらあかんぞ」と言っていただいています。まあ、10年後同じやったら別のことを言われるでしょうが(笑)。
『寄席つむぎ』で言葉について考えるように
――着実に前に進んでいると思いますよ。お客さんを見られるようになった。お客さんが見られるようになっているから、マクラでも笑わせられるように。
『寄席つむぎ』や『まいどなニュース』で文章を書かせてもらうようになってから、言葉についてよく考えるようになったんです。それまでは、師匠から助詞の使い方がおかしいと指摘されても、どこがおかしいと分からなかったんです。
――そういえば、国語が苦手だと言っておられましたね。
一番嫌いやったんですよ。何がおもろいねんって(笑)。でも、いざ書き始めると「あれ、楽しいやん」と思えるようになって、文章や熟語が好きになりました。案外、僕って文章力あるかもって(笑)。
――文章力、ありますよ。最初読ませていただいた時、本当に国語が嫌いと言うてる人の文章かなと思いましたもん。
今度は漢字検定にも挑戦しようと、本を買いました。準2級からスタートして、いずれ1級を取れたらと思って。漢字検定1級を持っている高卒の噺家なんていないでしょ(笑)。
――その勉強が、いずれ落語に生きてくるかも知れませんね。語彙力があれば、お客さんそれぞれに合った言葉が選べるようになりますから。
年季明けをした8年前から続けていること
落語に生かすといえば、今、日舞を習っています。踊りの名人でもあった三代目師匠に近づきたいというのはおこがましいけれど、少しでも所作が綺麗になればと。三代目師匠はまっすぐ立たれるんですよ。これには腰の使い方が大事になります。僕は猫背になりがちなので腰から直せたらと思い、年季明けをしてから8年習っています。
――この日舞を5月18日の会でご披露いただけると。
初めてお客さんの前で踊らせていただきます。今までは内々のメンバ―だけで見たり見られたりの「おさらい会」だけだったんです。何を踊るかは当日までのお楽しみ。短い演目を予定しています。
――日舞だと背景が分からないと、伝わりにくいものが多い印象です。
予備知識がなくても楽しめる演目です。一生懸命やっているところ、ちゃんとやっていることろを見ていただければ。少しでも「カッコイイ」と思ってもらえればええなぁ。
――他に年季明けをされてから、続けていることやご自身で上達したと感じられることはありますか?
車の運転です(笑)。うちの師匠は年間最高5万5千キロほど走行するのですが、年季明けをしてから僕が運転しています。おかげで、どんな道でも行けるようになりました。今では、運転技術を買われて鳴り物運搬の運転手兼前座でお仕事をいただけるほど(笑)。
――5万5千キロって、業者やないですか……。
5月18日は師匠や同期の力を借りて
――業者並みに車を走らせる梅団治師匠が、5月18日の独演会のゲストで。
はい。同期の桂二葉さんにもお願いしています。あと同じ松竹芸能の笑福亭呂翔くんにも。皆さんの力をお借りして、記念の会を開催させていただきます。
――お客さんに伝えたいことはありますか?
楽屋見舞いに生菓子は困ります(笑)。というのは冗談で、童話の『うさぎと亀』なら僕は亀で、3歩進んで2歩下がるを繰り返しています。遅い歩みではありますが、成長した姿をご覧いただければ嬉しいです。
――次の節目に向けて、目標はありますか?
僕は俳優だと、渥美清さんが好きなんです。当たり前の人間の世界で「ぽっ」と笑わせられる点を尊敬しています。自然と情景が浮かび、自然と笑ってしまう。肩が動くだけの笑いでも、僕は構わないと考えています。
――小梅さんの落語もそうありたい?
ぼーっと脱力しながら聞けるのも、僕は落語だと思うんです。肩が動くだけの笑いでも良い。また聞きたいと思っていただける落語ができるよう、これからも精進を続けてまいりますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
天満天神繫昌亭でお待ちしています!
今回は桂小梅さんにじっくりお話をうかがいました。途中脇道にそれて鉄道や写真撮影についての話題にもなり、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。スマホでの撮影のコツを教えていただいたので、今後の『寄席つむぎ』の写真はキレイになるかも?
桂小梅さんご出演の「桂小梅・噺家になって10周年」は、5月18日に天満天神繁昌亭で開催されます。緊急事態宣言の延長によってスケジュールが変更になる可能性もありますので、小梅さんのTwitterや繁昌亭HPを事前にチェックをお願いします。
【開催中止】桂小梅・噺家になって十周年
日時:令和3年5月18日(火)18時半開演、18時開場
出演:桂小梅、桂二葉、桂呂翔、ゲスト:桂梅団治
木戸銭:前売・2000円、当日2500円(102席限定)
会場:天満天神繁昌亭
お問い合わせ:06-6606-563 umedanji@nifty.com(事務局)