10月に入り、テレビや新聞、インターネットのニュースで「物価高」「物価上昇」「食品値上げ」といった言葉を見たり聞いたりしない日はありません。
あれもこれも値上がりしていて、スーパーのレジで合計金額にびっくり!なんていう方も多いのでは。
そんなときこそ、落語で笑いたいものです。
今月の『ヨセゲー』は、現在を生きる私たちの心に響く「落語の経済学」がテーマ。
「経済学」というと、ちょっと難しそうな気もしますが……。
今回は、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠という『ヨセゲー』レギュラーメンバーと、サブレギュラー・立川小談志師匠による会です。
これは楽しくないわけがない!と、大笑いしたい気持ち90パーセント、お勉強の気持ち10パーセントくらいで、いつもの「らくごカフェ」にうかがいました。
さて、どんな結果になったでしょう?
大人と子供の経済学

最初に、三遊亭遊喜師匠が『真田小僧』で登場。
遊喜師匠は、新宿末廣亭にて十月中席夜の部の主任を務めていらっしゃいます。
『真田小僧』は、お小遣い欲しさに悪知恵をめぐらせる賢い子供・金坊と、その父親の攻防劇。
「こまっしゃくれた」という表現がぴったりな金坊を、可愛らしく、それでいて生意気たっぷりな風情で演じます。
この遊喜師匠の話しぶりには、近所で会うという小学生との会話が活きているのかも……?
父親が何度も聞いて覚えたという『真田三代記』。
一方の金坊は、一度聞いただけで内容をほとんど覚えてしまいます。父親は悔しがっていましたが、何度も聞いただけあって、本物の講釈師のように重厚な語り口!
思わず励ましたくなる父親のその姿に、遊喜師匠もお父さんであることをふと思い出すのでした。
ちなみに遊喜師匠、末廣亭の出番にも無事間に合ったようですよ。よかった!

続いては、経済学部卒・立川小談志師匠の登場です。なんと、今回の企画にぴったりではないですか!
そんな小談志師匠が演じるのは『片棒』。
フライヤーにあった「吝嗇」という言葉、なかなか日常生活では見かけませんが、「りんしょく」と読み、つまるところ「けち」。
吝嗇で名高い?吝(けち)兵衛さんが、3人の息子のうち誰を跡継ぎにするか、その金銭感覚を試す――というお話です。
方法は、父親である吝兵衛のお葬式をどのように出すか、そのプランを考えること。
長男と次男は、ここぞとばかりに贅を尽くし、趣向を凝らした葬儀を提案します。
けちな父親の生き様を知ってか知らずか、踊って歌って芸者を呼んで、車代を出して花火を上げて……!?の派手な計画。
立て板に水で話し、はちゃめちゃな2人の様子を演じる小談志師匠、邪気がなく本当に楽しそうで、聞いているこちらは逆にヒヤヒヤ。
一転、三男を演じるときは、「吝嗇家」という言葉が似合う、クールでスマートな佇まいで語ります。
「仕方がないから」と提案する質素も質素なお葬式、今度はむしろ不謹慎というか……。
三兄弟の演じぶりは、写真が1枚では足りないほどのインパクト!
売る人と買う人の経済学

仲入りを挟んで、春風亭伝枝師匠の『豆や』。
伝枝師匠はこの日、次に登場の笑福亭里光師匠とともに、上野広小路亭からの「ヨセゲー」でした。
広小路亭そばにあるアメ横。伝枝師匠は通るたびに、そこで聞こえる売り声が気になるのだとか。
様々な棒手振りの売り声から、『豆や』は始まります。納豆、卵、ごぼう、金魚やめだか、いわしなら――。
現在でも売り声とともに出会うのは、石焼き芋屋さんやお豆腐屋さんくらいでしょうか。昔は、こんなふうにいろいろな商売をする人が町を行き交っていたのか――、と情景が浮かぶような売り声のバリエーションでしたよ。
さて、『豆や』は新しく商売を始めた豆屋さんのお話。肝心の売り声は教えてもらえないまま、町へ出て行きます。
繰り広げられる、押しが強いお客さんと、押しに弱い豆屋さんの攻防!あまりにも情けない豆屋さんの様子に、可哀想だと思いながらも笑いが込み上げてきます。
特に、2人目のお客さんに呼び止められてからの展開は、たたみかけるようなセリフがますますスピーディー!
迫力のあるお客さんと弱々しい豆屋さんの対比に、客席からも大きな笑いが起こっていました。

最後は、笑福亭里光師匠。上野広小路亭でもトリを務め、大活躍です!
新型コロナウイルス感染症のために減っていた寄席のお客さんが、少しずつ戻ってきているのを感じるとお話ししてくださいました。
とはいうものの、そこには需要と供給がどうしてもあって、需要をどうやって増やすかが難しい――、というお話から、『はてなの茶碗』を演じます。
『はてなの茶碗』は上方落語の演目。
登場人物も、大阪の商人・京都の茶道具屋、公家に帝と、様々な言葉を話します。
油屋さんは憎めないけれどちょっと狡さも垣間見え、茶金さんはスマートに。
公家の話しぶりは、先月の「ヨセゲー」で演じた『公家でおじゃる』を彷彿とさせ……!?
それぞれのキャラクターや雰囲気を、言葉と表現の細かな違いで丁寧に演じ分けていらっしゃいました。
油屋さんは、筋を通しているようで商いも忘れない、生粋の商人(あきんど)。
良くも悪くも素直な「いい人ぶり」が伝わる語り口でした。
だからこそ、サゲの脱力感が生半可ではありません。笑
それでもやっぱり、なんだか憎めない人物ばかり登場するのが、落語たる所以なのかもしれませんね。
おわりに
見ている人それぞれが、様々な思いをもつ「経済学」。
同じ演目を聞いても、「経済学」という切り口があることで、新しい発見がありました。
大人と子供でもその感覚はまた違いますし、何を生業としているかでもまた違うのかもしれません。
いろいろなシチュエーションで落語に登場する、「経済学」。他の噺を聞くときにも、新たな気付きがありそうです。

第88回ヨセゲー「落語の経済学」は、10月27日(木)までツイキャスでもご覧いただけます。
次回・第89回ヨセゲーのテーマは「すったもんだで大騒ぎ」。
フライヤーを見てみると、いろいろな状況で「すったもんだ」していそう……。
なお、こちらは令和4年度(第77回)文化庁芸術祭の参加作品となっています。
ぜひ、ご一緒に盛り上げましょう!
ヨセゲー #89【すったもんだで大騒ぎ】
2022年11月10日(木)
開場:18:30 開演:19:00
当日:2000円 前売:1800円 ツイキャス配信:1500円
会場:らくごカフェ(東京都千代田区神田神保町2丁目3−5)
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/181208
ツイキャス落語会 ヨセゲー#88【落語の経済学】
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/181205
10月27日(木)までご覧になれます。
寄席つむぎでは、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠のお3方のコラムや動画がご覧いただけます。併せてお楽しみください。
