2023年10月5日、東京・神保町にある「らくごカフェ」にて、「第100回ヨセゲー『壽百回記念スペシャル』」が開催されました。
三遊亭遊喜師匠・春風亭伝枝師匠・笑福亭里光師匠・柳亭芝楽師匠を中心とした落語芸術協会の若手真打ユニットが毎月開催している落語会「ヨセゲー」。
2015年4月に始まった「ヨセゲー」も、とうとう100回目を迎えました。今回は、その記念の興行です。
「百回記念特別顧問」として落語芸術協会副会長・春風亭柳橋師匠を迎えての公演、いったいどんな会になったのでしょうか?
100回を記念したスペシャルなひととき
まずは、柳亭芝楽師匠。『ぜんざい公社』を演じます。
「ぜんざい公社」でぜんざいが食べられると知り、やってきた男。ところが、ぜんざいを食べるまでにはさまざまな障壁がありそうで――。
直近のヨセゲーでは、第94回「リンク落語」にて芝楽師匠ご自身が演じられていた演目。
そのときはトリを務められ、それまでの3人の噺をすべてリンクさせる――、という大役を担われていたのですが、今回は純然たる(!?)『ぜんざい公社』。またひと味違った雰囲気を味わうことができました。
マクラで、税金の話と甘いものの話、2つのキーワードが出てきたところで、『ぜんざい公社』だと気がついた客席が、思わずにこにこ、ほわっと温まる様子が印象的。
とうとう出てきたぜんざいを目の前にしてのひとことに、ヨセゲーの100回を思わず重ねた一席でした。
続いて、三遊亭遊喜師匠の登場です。
甘いものが好きな人も多いけれど――、と『ぜんざい公社』を受けてのマクラで始まります。一方で、お酒が好きな人も多いのが噺家とも。
本日のゲストである春風亭柳橋師匠は、お酒の席にいらっしゃると安心できる存在なのだとか。その理由とは――?気になる方は、ぜひ配信をご覧ください。
遊喜師匠が演じたのは、そんなお酒好きな男の出てくる『猫の災難』です。
酒を飲みたいのにお金がない熊さん。隣家のおかみさんから、酒の肴にと鯛の残りをもらいます。そこへやってきた兄貴分、頭と尾しか残っていないその鯛を、丸ごと残っていると勘違いして――。
ヨセゲーでは、第96回「落語いきもの図鑑」にて春風亭伝枝師匠が、第53回「落語動物王国」にて遊喜師匠ご自身が演じられています。
また、落語に頻繁に登場する「酒」はヨセゲーでも多く取り上げられ、『御神酒徳利』や『親子酒』『釣りの酒』などは、遊喜師匠も演じていらっしゃいます。
お酒の登場する演目で遊喜師匠を見るたびに、その「酒好きらしさ」に唸らされます。少しずつ酔いが回って愉快な心持ちになるようすや、呂律が回らなくなっていくようす、ぐるぐると世界が回っているような動きのひとつひとつが、「こんな人、いるいる」「こんなこと、あるある」の最大値。
絶対に分かりそうな熊さんの嘘を、おかみさんが真実を伝えるまで信じている兄貴分のお人好しっぷりも、落語らしさといえそうです。
仲入り前に登場したのは、落語芸術協会副会長であり、ヨセゲーの「百回記念特別顧問」でもある、春風亭柳橋師匠!
ヨセゲーメンバーが入門したころは、真打昇進から間もなかった柳橋師匠。メンバーには、寄席の楽屋などで「面倒を見ていただいた」とおっしゃり、客席は大笑い!重ねた100回に、「よくやった」とのお言葉には、一同うなずきます。
演じられたのは、『小言念仏』です。
念仏を唱えるご隠居さん。毎朝の読経が習慣ですが、慣れてしまうと形ばかりになってしまうこともあるようで――。
高座を木魚、扇子を撞木に見立て、一定のリズムで叩きつづける柳橋師匠の姿に、ぐいぐい引き込まれます。
しおれた花や孫の赤ん坊に気がそぞろでも、長年の習慣で形になってしまう……。読経が修行のひとつであることを考えると、切磋琢磨する場でもある「ヨセゲー」でこの噺を聴くことに、身の引き締まる思いがします。
100回にわたり公演を行ってきたヨセゲーで、一度も演じられていないという『小言念仏』。「『猫の災難』をやろうと思っていたのに……」と冗談でおっしゃっていた柳橋師匠ですが、とってもスペシャルな一席となりました。
初心にかえって、第1回の公演からも
仲入り後は、春風亭伝枝師匠から。
伝枝師匠と笑福亭里光師匠が、芸協らくごまつりの実行委員を務めていたところから始まった、「ヨセゲー」の歴史。
真打になるとなかなか会う機会がなくなってしまうからと、三遊亭遊喜師匠にも声をかけたのがきっかけだったのだそうです。
その「ヨセゲー」が今回で100回を迎えるということで、初心にかえって第1回でかけた演目を――、と根多帳を遡った伝枝師匠。
ところが、初回はなんと11人もの出演者がいたため、ご自身は落語での出演ではなかったことが発覚。笑
それでも初志貫徹、第1回で余興として行った「芸名漢字変換」が復活です!
ワープロソフトなどでの変換が難しい、噺家さんの名前。その誤変換を一挙に紹介します。
それぞれの噺家さんの紹介や、お名前の歴史や雑学などを交えながらのネタ。フリを聞きながら、いったいどんなオチが待っているのか推測します。スマートフォンなどの普及で、みなさんそれぞれに、変換で悩まされた経験があるからこその楽しみもありそうです。
客席からは、「おー!」という感嘆の声とどよめきがあがっていましたよ。
トリを務めるのは、笑福亭里光師匠。
伝枝師匠と同じく第1回の演目をと考えたものの、落語をかけたわけではなかった里光師匠。
でも、現在のマクラにつながる「みじかい落語」の始まりがその場だったとのことで、記念すべき第1作をご披露くださいました!
世相を映す(こともある)「みじかい落語」、ピリッと効いた風刺が癖になります。
さてそんな「掛詞」のお話、そして浪曲や浄瑠璃といった「語る芸」のお話から、『転宅』を演じます。
ある家に忍びこんだ泥棒。出くわした女は自分も泥棒だったと名乗り、夫婦になろうと誘いますが――。
こちらも、落語によく登場するモチーフである泥棒。お人好しで、ちょっと間の抜けた姿は、なんだかかわいそうになってしまうほど。
マクラとリンクしたサゲに、「語る芸」を存分に味わった一席でした。
トークで飛び出す、あんな話こんな話
引き続き、春風亭柳橋師匠を囲んでのトークコーナー。柳橋師匠の前座時代から今にいたるまでの、いろいろなお話が飛び出しました。
100回を迎えたヨセゲーには「100回やるなんて、なかなかないよね」「だいたい、その前に気づくんだから(笑)」と愛あるお褒めの言葉が。笑
「50代のときの師匠はどんな感じだったんですか?」(遊喜師匠)や「”本業”って何でしょう?」(芝楽師匠)という質問とともに、「犬の話してください!」(伝枝師匠)というお願いも飛び交う、楽しいひとときでした。
犬のお話は、思いがけず(?)壮大な、そして歴史を感じるお話に発展。こちらもぜひ、配信でお確かめくださいね。
おわりに
受付の際、「おみやげ」として「ヨセゲー全興行ネタ帳」をいただきました。
表裏に、小さな文字でびっしり!開演前、お客様がじっくり読んでいらっしゃる姿が印象的でした。100回目については空欄になっており、参加型の楽しみも。書き込みながらご覧になっている方もいらっしゃいましたよ。
約8年半をかけてたどりついた「100回」ですが、伝枝師匠は「1回1回の積み重ね」とおっしゃいます。
「区切り」や「記念」というととても特別な気がしてしまいますが、「これまで」と「これから」をつなぐ、ひとしく大切な「1回」なのですね。
第100回ヨセゲー「壽百回記念スペシャル」は、10月19日(木)までツイキャスでもご覧いただけます。
次回・第101回ヨセゲーは「心機一転!ネタ卸しの会」。ぜひ、ご一緒に味わいませんか?
ヨセゲー #101【心機一転!ネタ卸しの会】
2023年11月2日(木)
開場:18:30 開演:19:00
当日:2500円 前売:2000円 ツイキャス配信:1500円
会場:らくごカフェ(東京都千代田区神田神保町2丁目3−5)
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/260202
ツイキャス落語会 ヨセゲー#100【壽百回記念スペシャル】
https://twitcasting.tv/c:yosege/shopcart/260200
10月19日(木)までご覧になれます。
寄席つむぎでは、三遊亭遊喜師匠、春風亭伝枝師匠、笑福亭里光師匠のお3方のコラムや動画がご覧いただけます。併せてお楽しみください。
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